【相談事例】いちご農家は、消費税が1%になったら本則課税にしたほうがいい?

いちごを栽培し、お客さまへ直接販売している農家の方から、次のご相談を受けました。現在は簡易課税で申告されており、大きな設備投資の予定はありません。

「飲食料品の消費税が1%になったら、本則課税に変えたほうがよいのでしょうか?」

結論からいうと、農家だから本則課税が有利、と一律には決められません。売上げにかかる消費税と、肥料・資材・燃料などの仕入れや経費にかかる消費税を確認し、簡易課税と本則課税の両方で試算することが大切です。

なお、飲食料品の税率を1%に引き下げる法案は、2026年11月3日時点で未成立です。以下は法案が成立した場合の予定であり、内容や実施時期は変わる可能性があります。

いちごの売上げと農業経費はどう変わる?

法案では、2027年4月1日から2029年3月31日まで、対象となる飲食料品の税率が8%から1%になります。食用いちごの販売は、原則として対象です。

一方、農機具、肥料、燃料、包装資材などには、10%のものがあります。売上げにかかる消費税より、控除できる仕入れ・経費の消費税のほうが大きければ、本則課税で還付が生じる可能性があります。

ただし、経費のすべてが控除の対象になるわけではありません。例えば給与や、原則として非課税の農地の賃借料は、通常、消費税の仕入税額控除の対象になりません。請求書の保存などの要件も確認が必要です。

2027年と2028年を分けて比較

以下は実際の相談をもとに、個人が特定されないよう数字をすべて置き換えた例です。実際の売上げや経費ではありません。

法案が成立し、暦年で申告すること、売上げはすべて食用いちごであること、仕入税額50万円は全額控除できること、ほかの取引や端数はないことを前提とします。

【2027年】
・1〜3月の売上げ:税抜800万円×8%=消費税64万円
・4〜12月の売上げ:税抜1,200万円×1%=消費税12万円
・控除できる仕入れ・経費の消費税:50万円

簡易課税では、8%売上げに飲食料品の販売に係る農業の第2種事業のみなし仕入率80%を適用します。1%対象の売上げには、売上税額と同額を仕入税額とする特例が予定されています。この仮定では、64万円×(1−80%)=12.8万円の納付となります。

本則課税では、64万円+12万円−50万円=26万円の納付となります。

【2028年】
・1年間の売上げ:税抜2,000万円×1%=消費税20万円
・控除できる仕入れ・経費の消費税:50万円

簡易課税の特例では、納付税額は0円です。本則課税では、20万円−50万円=30万円の還付となります。

この仮定では、2027年は簡易課税、2028年は本則課税のほうが有利です。ただし、2028年から本則課税へ変更できるかは、簡易課税の2年継続要件などを満たすか確認が必要です。

実際には、農地の地代や給与など控除できない経費、インボイスの保存状況、ほかの売上げなどによって計算が変わります。大きな設備投資がなくても本則課税を比較する価値はありますが、必ず還付されるとは限りません。

また、2029年は1〜3月と4月以降で税率が再び変わる予定のため、その年も別途試算が必要です。

本則課税へ変更するには

国税庁の案内によると、飲食料品を販売する簡易課税事業者が、2027年4月1日を含む課税期間中に「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出し、その課税期間から本則課税へ移れる特例が予定されています。その期間については、簡易課税の原則2年間の継続要件も適用されない予定です。

例えば暦年で申告する個人事業主の場合、2027年12月31日までに特例による届出をすると、4月以降だけでなく、2027年1月から12月までの全体が本則課税となります。年初からの帳簿や請求書の確認が必要です。

一方、2028年から本則課税へ変更する場合は、通常の手続きとして、原則2027年12月31日までに不適用届出書を提出します。2027年向けの特例で2年継続要件が外れることを、そのまま2028年への変更にも当てはめることはできません。届出ができる時期は、簡易課税の選択開始時期などによって確認が必要です。

2028年を本則課税とした後、2029年から簡易課税を選び直すことも考えられます。暦年で申告する場合、通常は2028年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。ただし、2029年の基準期間である2027年の課税売上高が5,000万円以下であることなどの要件があり、高額特定資産の取得等によって届出が制限される場合もあります。再選択後は原則として2年間継続する必要があるため、届出前に個別に確認しましょう。

まとめ

大きな設備投資の予定がなくても、通常の仕入れや経費に含まれる消費税を集計し、簡易課税と本則課税を比較することが大切です。

税率が年の途中で変わる2027年と、通年で1%が適用される予定の2028年では、試算結果が変わることもあります。届出前には、変更できる時期、翌年以降の影響、事務負担も含めて確認しましょう。

※制度は法案段階です。成立後の正式な内容と届出要件を確認し、個別の取引については税理士へご相談ください。

出典:国税庁の案内/国税庁Q&A(問3-5・3-6)/国税庁:簡易課税の事業区分/国税庁:簡易課税制度/国税庁:各種届出書と制限/衆議院の審議経過

執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

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