相続税の税務調査とは?対象の考え方・調査の流れ・準備する資料
相続税の申告を終えた後、税務署から調査の連絡が来ると、「何を確認されるのか」「どの資料を用意すればよいのか」と不安になるかもしれません。まずは連絡の内容を記録し、申告書と、その計算のもとになった資料を確認することから始めましょう。
この記事では、相続税の税務調査の対象について公表されている情報、調査の流れ、名義預金や現金などの確認ポイントを解説します。
相続税の税務調査とは
相続税の税務調査は、相続財産の把握や評価、税額の計算などが適切かを確認するものです。亡くなった方(被相続人)には事情を聞けないため、相続人への質問や、通帳・契約書などの資料を通じて事実関係を確認します。申告した人だけでなく、申告が必要なのに申告していないと考えられる事案も対象になります。
どのような相続が調査対象になるのか
財産額だけで調査の確率は判断できない
国税庁は、資料情報などから申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるのに無申告と想定される事案などについて実地調査を行ったと公表しています。「遺産が1億円以上なら高確率」「基礎控除に近ければ調査されない」といった、財産額だけによる線引きはできません。
令和6事務年度の実地調査は9,512件で、そのうち申告漏れなどの非違があったのは7,826件、82.3%でした。この割合は、選ばれて実地調査を受けた事案の中での割合です。すべての相続が調査される確率や、相続税申告全体の誤りの割合ではありません。
出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況(PDF)」
申告していない場合は、申告要否を再確認する
「税金がかからないと思った」という場合も、財産の漏れや評価の誤りがないかを確認しましょう。小規模宅地等の特例などを使った結果、納税額がゼロになる場合には、申告が必要なことがあります。
相続税の通常の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。申告が必要だった可能性があれば、税務署からの連絡を待たずに税理士へ相談してください。
出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」
調査に備えて確認したい4つのポイント
1.家族名義の預金は、誰の財産なのか
子や配偶者の名義であっても、実際には被相続人の財産と認められる預金は、相続税の対象になります。いわゆる「名義預金」です。名義だけで結論を出さず、資金を出した人、管理・運用していた人、贈与の有無などを確認する必要があります。
- 預け入れたお金は、誰の収入や財産から出ているか
- 通帳や印鑑を誰が保管し、入出金を誰が行っていたか
- 贈与した側と受け取った側の認識や、契約・送金の記録はどうなっているか
家族名義の預金がすべて相続財産になるわけではありません。資料と実際の経緯を照らし合わせて判断します。
出典:国税庁「相続税の申告の誤りやすい事例⑥・被相続人以外の名義の財産(預貯金)(PDF)」、国税不服審判所「令和4年2月15日裁決・財産の帰属に関する判断」
2.引き出した現金と、死亡時に残っていた現金
自宅などで保管していた現金も、被相続人の財産として死亡時に残っていれば、相続財産の確認対象です。預金から大きな出金があるときは、その後に生活費や医療費として使ったのか、別の口座へ移したのか、現金で保管していたのかを整理しましょう。
出金額の全額が、そのまま死亡時の手元現金になるとは限りません。通帳、領収書、送金記録などを使い、確認できた使途と未確認の部分を分けます。出所や使途をその場で説明できないことだけで、直ちに追加課税が決まるわけではありません。
出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」、「相続税の申告のためのチェックシート(令和6年分以降用・PDF)」
3.土地などの評価と、計算に使った資料
土地の評価は、路線価方式や倍率方式を用い、形状や権利関係などに応じて計算します。路線価に面積を掛けた金額と申告額が異なることだけで、誤りとはいえません。
申告時の評価明細書を確認し、面積、利用状況、賃貸借の内容、補正や特例の根拠を説明できるようにしておきましょう。株式なども、残高資料と申告に用いた評価資料を対応させて整理します。
出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価」
4.生前贈与の記録と、相続税への加算
生前贈与が成立していても、相続税の計算に加える必要がある場合があります。贈与契約書だけでなく、送金記録、贈与税申告書、適用した課税制度を確認しましょう。
暦年課税では、被相続人から相続や遺贈などで財産を取得した人が、加算対象期間内に受けた贈与が加算の対象となります。贈与税の基礎控除である年間110万円以下でも、加算対象になる場合があります。
加算対象期間は相続開始日によって異なり、2026年12月31日までに開始した相続では原則として相続開始前3年以内です。2027年以降は経過措置を経て7年に延長されるため、一律に「過去7年分」と判断しないようにしましょう。相続時精算課税を選んでいる場合は別のルールを確認します。
出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
税務署から連絡が来てからの流れ
事前通知を受けたら、内容を記録する
実地調査の事前通知は、原則として電話で行われます。ただし、一定の場合には事前通知なしで調査が行われることもあります。連絡を受けたら、次の内容を記録しましょう。
- 税務署名、担当者名、連絡先
- 対象となる相続、調査の日時・場所
- 用意するよう求められた資料と、その対象期間
申告を依頼した税理士がいる場合は、連絡内容を共有します。日程に支障がある場合は事情を伝えて調整し、通知後にやむを得ない事情が生じたときも早めに相談しましょう。
税務署から連絡が来てから、調査結果を受けるまでの流れです。
当日は資料をもとに回答する
調査にかかる時間や日数を一律に決めつけず、当日の予定と追加確認の進め方を担当者に確認してください。質問には、実際に知っていることを資料とともに説明します。記憶が曖昧なことは推測で言い切らず、「資料を確認して回答します」と伝え、確認後に回答しましょう。
税務調査は、任意調査と呼ばれる場合でも自由に拒否できるという意味ではありません。資料の提示・提出を求められた理由や範囲が分からない場合は、担当者や税理士に確認して対応します。
調査結果は、理由と金額を確認する
実地調査の結果、是正すべき事項が認められなければ、その旨が書面で通知されます。是正が必要とされる場合は、金額や理由などの説明を受け、修正申告や期限後申告を勧められることがあります。
修正申告の勧奨に応じるかどうかは納税者の判断です。応じない場合には、税務署が調査結果に基づいて更正などの処分を行います。修正申告そのものには不服申立てができないため、内容を十分に確認してから判断しましょう。申告額が過大だった場合の更正の請求とは、手続が異なります。
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
準備する資料は、申告内容と調査の範囲に合わせる
まずは提出済みの申告書と添付資料を手元にそろえ、どの数字がどの資料に基づいているか確認します。以下は準備を検討する資料の例であり、すべての調査で一律に必要という意味ではありません。
- 相続税申告書の控え、財産目録、評価明細書
- 遺言書、遺産分割協議書
- 預貯金の残高証明書、通帳、取引履歴
- 不動産の登記事項証明書、固定資産税の資料、賃貸借契約書
- 証券会社の残高資料、保険証券、保険金の支払内容が分かる資料
- 贈与契約書、送金記録、贈与税申告書
- 借入金や未払金の資料、葬式費用の領収書
通帳などを何年分用意するかは、確認事項によって異なります。「必ず10年分」と決めつけず、税務署からの依頼内容を税理士と確認しましょう。家族名義の口座についても、相続財産との関係に応じて準備する範囲を整理します。
資料が見つからないときは、欠けているものを一覧にし、金融機関などへの再発行依頼で補えるかを検討します。記録を後から作り替えたり、確認できていない事実を埋め合わせたりせず、分かる範囲を正確に整理することが大切です。
参考:国税庁「相続税の申告のためのチェックシート(PDF)」
まとめ:申告書と資料を照合し、不明点を整理する
相続税の税務調査に備えるには、調査の確率を推測するより、名義預金、現金の動き、財産の評価、生前贈与といった申告内容を資料で確認することが役立ちます。通知を受けたら、日程と求められた資料を記録し、不明点を税理士と整理しましょう。
相続税の申告内容や税務署からの連絡について相談したい方は、岩本隆一税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。
本記事は2026年11月5日時点で確認した公表資料に基づく一般的な解説です。適用される制度や必要な対応は、相続開始日、財産の内容、個別の事情によって異なります。
税務署から連絡が来てお困りの方は、税務調査サポートのページで対応内容と流れをご確認ください。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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