個人(個人事業主)の税務調査の概要、実はそんなに怖くない説

個人(個人事業主)の税務調査の概要
こんにちは、税理士の岩本隆一です。税務調査のご依頼募集中です。
はじめに:これは所得税の調査の話です
今回お話しするのは所得税に関する税務調査についてです。
相続税や贈与税の調査は全然別物なので注意してください。相続・贈与の調査は資産評価とか相続人の関係とか全然違う話になります。
ここでは「普通に働いて稼いだお金」「事業で得た収入」に対する税務調査について解説します。
そもそも税務調査って何なの?
税務署の人が「ちょっと申告内容確認させてもらいますね〜」って家に来るやつです。テレビドラマだと悪者っぽく描かれがちですが、実際はもっと普通の手続きです。
個人の場合、主に所得税の申告内容をチェックされます。「本当にこの収入でこの経費なの?」「計算間違ってない?」みたいな感じで。
調査される確率とタイミング
個人の調査率は大体1〜2%くらい。100人中1〜2人って感じです。
いつ来るの?
7月〜12月がメイン。税務署の人事異動が7月にあるので、新しい担当者が「さあ、やるぞ!」って感じで始めます。
3月の確定申告後、半年くらい経ってから来ることが多いです。つまり前年度の申告について今年の後半に調査される感じ。
どのタイミングで狙われるか
- 申告書を提出した年の秋(一番多い)
- 収入が急激に増えた翌年
- 同業者の調査で芋づる式
- 第三者からの密告後
いくらから来るの?問題
これ、めちゃくちゃ聞かれます。
年収ベース
- 300万円以下:ほぼ来ない
- 500万円〜1000万円:たまに来る
- 1000万円以上:結構来る
- 3000万円以上:高確率
ただし、金額だけじゃないんです。
実際は総合判断
- 経費率が異常に高い(売上の70%が経費とか)
- 前年と比べて大幅に変動
- 同業他社と比較して不自然
- 申告書に計算ミスや記載漏れ
年収500万円でも経費率80%とかだと「おかしくない?」って来ます。
どんな人が狙われやすいの?
フリーランス・個人事業主あるある
IT系フリーランスは結構な確率で来ます。
- 在宅ワークで経費が曖昧
- 現金取引が多い
- 急に収入が増えることが多い
YouTuberやインフルエンサーも最近のターゲット。
- 企業案件の申告漏れ
- プレゼント品の申告漏れ
- 経費の線引きが曖昧
ウーバーイーツ配達員
- 雑所得の申告してない人多すぎ
- ガソリン代や車両費の過大計上
副業してる会社員も危険
- せどり・転売(メルカリ、Amazon)
- アフィリエイト
- 仮想通貨取引
- 不動産投資
会社にバレるのが嫌で申告してない人、本当に多いです。でも税務署は容赦しません。
実際の体験談(個人情報保護のため修正してます)
ケース1:フリーランスのWebデザイナー
年収800万円のWebデザイナーの友人。
調査のきっかけ:経費率が65%で同業者より高すぎた
指摘されたこと:
- MacBookを2台買ってたけど、1台は奥さん用
- 家族旅行を「取材費」にしてた
- 自宅の家賃100%を経費にしてた(実際は50%が妥当)
結果:追徴税額120万円(重加算税なし)
彼は素直に認めて修正申告したので、重加算税は避けられました。
ケース2:副業アフィリエイター
本業は会社員、副業でアフィリエイト年収300万円。
調査のきっかけ:ASPから税務署に支払調書が提出されてた
指摘されたこと:
- 副業収入を全く申告してない
- 経費として計上してたパソコンが実は家族共用
結果:追徴税額80万円+無申告加算税
会社にもバレて、副業禁止だったので厳重注意を受けました。
ケース3:仮想通貨トレーダー
2017年の仮想通貨ブームで1000万円の利益。
調査のきっかけ:取引所から情報提供
指摘されたこと:
- 利益を全く申告してない
- 「知らなかった」と主張したが通らず
結果:追徴税額400万円+重加算税
仮想通貨の申告ルールを「知らなかった」では済みません。
その他の事例は各リンク先をご参考ください。
実際の調査ってどんな感じ?
事前通知
朝10時頃に税務署から電話。
「○○税務署の△△と申します。税務調査をさせていただきたく…」
この瞬間、血の気が引きます。
調査当日の流れ
10:00 調査官2人が到着
- 「おはようございます」の挨拶
- 身分証明書の提示
- 調査の説明
10:30 聞き取り開始
- 事業の内容
- 収入の内訳
- 経費の内容
- 家族構成
12:00 昼休憩
- 調査官は外でコンビニ弁当
13:00 書類チェック
- 帳簿の確認
- 領収書の照合
- 銀行通帳の確認
15:00 現況調査
- 事務所の使用状況
- 家族の部屋配分
- 金庫があれば中身確認
17:00 終了
- 「ありがとうございました」
- 後日連絡の約束
2日目(必要に応じて)
細かい質問や追加資料の確認。大体は1日で終わります。
よくある指摘パターン
1. プライベートと事業の混同
これが圧倒的に多いです。
- 家族との食事を会議費にしてる
- プライベートの旅行を出張費にしてる
- 自宅の家賃を100%経費にしてる
- 家族の携帯代を通信費にしてる
2. 売上の申告漏れ
- 現金でもらった報酬を申告してない
- 副業収入の無申告
- 仮想通貨の利益を申告してない
- 不動産収入の申告漏れ
3. 架空経費
- 実際には買ってないものの領収書
- 金額を改ざんした領収書
- 家族名義のクレジットカードで経費計上
対策と準備:これだけやっとけば大丈夫
日常の記録管理
会計ソフトを使う freeeやマネーフォワードがおすすめ。手書きより断然印象が良いです。
領収書の整理
- 月別に分ける
- 科目別に分ける
- スマホで写真を撮ってデジタル保存も併用
銀行口座を分ける 事業用とプライベート用は絶対に分けましょう。これ基本中の基本。
家事按分の根拠を用意
自宅兼事務所
- 使用面積の図面
- 使用時間の記録
- 按分割合の根拠
車両費
- 走行記録をつける
- 事業とプライベートの使用割合を明確に
光熱費・通信費
- 使用実態に応じた按分
- 根拠資料を保管
調査が来たときの準備
必須書類
- 確定申告書の控え(3年分)
- 総勘定元帳
- 領収書・請求書
- 銀行通帳
- クレジットカード明細
あると良い書類
- 契約書
- 出張記録
- 按分計算の根拠資料
- 取引先とのメール
心構え
素直に対応 隠したりごまかしたりしない。分からないことは「分からない」と言う。
感情的にならない 税務署の人も仕事でやってるだけ。敵対する必要はありません。
記録を残す 何を聞かれて何と答えたか、メモを取っておく。
税理士に頼むべき?
頼んだ方がいい人
- 年収1000万円以上
- 不動産所得がある
- 複雑な副業をしてる
- 仮想通貨取引をしてる
- 過去に調査で問題があった
頼まなくてもなんとかなる人
- 年収500万円以下のシンプルな事業
- 記録がきちんとしてる
- プライベートと事業を明確に分けてる
費用と効果
費用は20〜50万円。高いですが、重加算税(35〜40%)を考えると安いかも。
法人調査との違い(軽く)
- 調査期間:個人1〜2日 vs 法人3〜5日
- 調査官の数:個人2〜3人 vs 法人3〜5人以上
- 書類の量:個人は段ボール2〜3箱 vs 法人は10箱以上
- 雰囲気:個人は比較的フランク vs 法人はフォーマル
個人の方が規模も小さいし、人情的な部分も考慮してもらえることが多いです。
所得税の修正申告をしたら影響すること
所得税の修正申告を行うと、個人住民税、個人事業税及び国民健康保険にも影響します。
(国民健康保険は加入する人のみです。)
修正申告して所得が増えた分だけ、他の税金などにも影響するということです。なので、税務署からは所得税についてしか説明がないかもしれないですけど。他の税金もあとから請求が来るのでご注意ください。
まとめ:結局どうすればいいの?
今すぐやること
- 副業収入がある人は今すぐ申告
- 仮想通貨の利益も申告
- プライベートと事業の経費を分ける
- 会計ソフトを導入
調査が来ても慌てないために
- 日頃から記録をきちんとつける
- 按分の根拠を明確にしておく
- 必要な書類を整理しておく
- 不安なら税理士に相談
最後に
税務調査は確かに面倒ですが、真面目にやってる人なら怖くありません。
逆に、グレーなことをやってる自覚がある人は今すぐ改めましょう。税務署は思ってるより優秀だし、情報収集能力も高いです。
特に副業の申告漏れや仮想通貨の利益隠しは、もうバレバレです。「会社にバレるから」という理由で申告しないのは、結果的にもっと大変なことになります。
調査が来たら「運が悪かった」と思って、素直に対応するのが一番。抵抗しても何も良いことはありません。
最終的には「堂々としてられる申告をする」これに尽きます。