住職・宮司・職員の給与と源泉徴収|宗教法人が行う年末調整・法定調書・住民税の特別徴収

住職・宮司・職員の給与と源泉徴収|宗教法人が行う年末調整・法定調書・住民税の特別徴収

横浜市で宗教法人の会計・税務相談を行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。

「住職の給与にも源泉徴収は必要なのか」「年末調整は寺でやるのか」「法要を手伝ってくれた他の寺の僧侶へのお礼はどう扱うのか」「住民税の特別徴収の通知が市から来たが、宗教法人も対象なのか」――宗教法人の会計担当の方から、給与と源泉徴収について毎年秋から冬にかけてよく受けるご質問です。宗教法人は法人税の収益事業がなくても、住職・宮司・職員に給与を払っていれば源泉徴収義務者であり、年末調整・法定調書・住民税の特別徴収という一連の事務が毎年発生します。源泉徴収の漏れは宗教法人の税務で最も指摘されやすい項目でもあります。

この記事では、宗教法人が給与支払者として源泉徴収義務を負う仕組み、年末調整・源泉徴収票・法定調書・給与支払報告書の年間スケジュール、謝礼・布教師への支払・講師料の区分(給与か報酬か源泉不要か)、住民税の特別徴収の義務と手続き、源泉所得税の納期の特例と納付漏れがあった場合の対応を解説します。本記事は2026年11月6日時点の所得税法・地方税法と、国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」「令和8年版 宗教法人の税務」に基づいています。2026年分の年末調整は、令和8年度税制改正による基礎控除・給与所得控除の引上げが12月の年末調整から適用される点に注意が必要です。

宗教法人も給与支払者として源泉徴収義務がある

所得税法183条により、給与を支払う者は支払の際に所得税(および復興特別所得税)を源泉徴収し、原則として翌月10日までに国に納付する義務があります。宗教法人も例外ではなく、住職・副住職・宮司・神職・牧師・寺務員・巫女・事務職員など、法人から給与を受ける人がいれば源泉徴収義務者です。法人税の収益事業があるかどうかとは無関係で、収益事業がまったくない寺院・神社でも、給与を払っていれば対象になります。

  • 住職・宮司の給与:お布施・玉串料は宗教法人の収入であり、住職・宮司はそこから法人が決めた給与を受け取る立場です。代表役員・責任役員であっても、法人から受ける報酬は給与所得として源泉徴収の対象になります。お布施を住職個人の収入として法人を通さずに受け取る扱いは、法人の収入の計上漏れと住職の所得の申告漏れの両方になります。法人と個人の分け方は「宗教法人の会計と住職個人の生活費の分け方」で解説します。
  • 現物給与:庫裏(住居)の無償提供、法人負担の食事、法衣以外の私服、家族の学費など、金銭以外で住職や家族が受ける経済的利益も原則として給与に含めて源泉徴収します。職務上必要な法衣・装束は給与になりません。
  • 最初に行う届出:給与の支払を始めたら1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を所轄税務署に提出します。従業員が常時10人未満なら「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」も同時に提出すると、納付が年2回になります(後述)。
  • 扶養控除等申告書の回収:給与を受ける人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取り、源泉徴収税額表の甲欄で毎月の税額を計算します。申告書の提出がない人(他に主たる給与がある人)は乙欄で、日雇いの手伝いは丙欄で計算します。
  • 社会保険:宗教法人は法人なので、役員・職員に報酬・給与を払っていれば健康保険・厚生年金の適用事業所になり、保険料の折半負担と毎月の控除が必要です。源泉徴収と並行して整えます。

年末調整・源泉徴収票・法定調書・給与支払報告書の年間スケジュール

給与に関する事務は、暦年(1月〜12月)を単位に回ります。宗教法人の会計年度が4月〜3月であっても、源泉徴収と年末調整は暦年で行います。

時期事務提出先・期限
毎月給与から源泉所得税と住民税(特別徴収)を控除し、翌月10日までに納付国税は税務署(金融機関・e-Tax)、住民税は各市区町村。納期の特例を受けていれば年2回
1月前年分の源泉徴収票を本人に交付。税務署に源泉徴収票(提出範囲のもの)・報酬等の支払調書・法定調書合計表を提出。市区町村に給与支払報告書を提出いずれも1月31日まで。納期の特例分(前年7〜12月)の納付は1月20日
4月健康保険料率・介護保険料率の改定を給与計算に反映—
5月〜6月市区町村から住民税の特別徴収税額の決定通知が届き、6月の給与から新年度分の控除を開始6月〜翌年5月の12回
7月納期の特例分(1〜6月)の納付。社会保険の算定基礎届の提出7月10日
10月〜11月翌年分の扶養控除等申告書を配布・回収。当年分の基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書・所得金額調整控除申告書(一体様式)、保険料控除申告書と控除証明書を回収12月の給与計算前まで
12月年末調整:1年分の給与総額から給与所得控除・各種所得控除を引いて年税額を計算し、毎月の源泉徴収税額との差額を12月(または1月)の給与で精算源泉徴収票は翌年1月31日までに交付

2026年分の年末調整の注意点:令和8年度税制改正により、2026年分(および2027年分)の基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円に引き上げられ、給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円に引き上げられました。扶養親族・同一生計配偶者の所得要件は合計所得金額62万円以下(給与収入のみなら136万円以下)に、特定親族特別控除の対象は合計所得金額62万円超123万円以下に変わります。23歳未満の扶養親族がいる人の新生命保険料に係る一般生命保険料控除の上限は6万円になります。改正は2026年12月1日施行で、11月までの毎月の源泉徴収は改正前の税額表のまま行い、12月の年末調整で改正後の控除額を使って精算します。2027年1月以降の給与には新しい源泉徴収税額表を使います。年初に回収した2026年分の扶養控除等申告書は改正前の所得要件で書かれているため、年末調整の前に扶養親族の所得要件を改正後の金額で再確認してください。

法定調書の範囲:税務署に提出する源泉徴収票は、役員は年間給与150万円超、従業員は500万円超などの基準を超えるものに限られますが、市区町村への給与支払報告書は金額にかかわらず全員分を提出します(退職者は30万円以下なら省略可)。報酬・料金の支払調書は、同一人への年間支払額が5万円を超える講演料・原稿料・税理士報酬などが対象です。法人が個人に地代(境内地以外の借地料など)を年15万円超支払っている場合は、不動産の使用料等の支払調書も必要です。

謝礼・布教師への支払・講師料の源泉徴収の区分

宗教法人の支払で判断に迷いやすいのが、職員以外の人への謝礼です。「給与」「源泉徴収が必要な報酬・料金」「源泉徴収が不要な支払」の3つに分けて考えます。

謝礼の源泉徴収の判定順

職員以外の人への謝礼は、次の順で「給与」「報酬・料金」「源泉徴収不要」に分けます。

①雇用関係があるかあれば給与として源泉徴収します。法要の手伝いの日当で雇用関係のあるものは、日額表の丙欄で計算します。
②報酬・料金に当たるか講演料・原稿料・芸能人の報酬・税理士報酬など所得税法204条に列挙されたものは、原則10.21%を源泉徴収します。
③どちらでもない源泉徴収は不要です。他の寺院に所属する僧侶個人への読経のお礼などが当たります。支払の記録は残します。
「お布施」「お礼」「志」といった名目ではなく、相手との関係と支払の性質で判断します。
出典:所得税法183条・204条。本文の説明を図にまとめたものです。
支払の相手・内容区分源泉徴収
自法人の住職・副住職・神職・職員・寺族への給与・賞与給与必要(甲欄・乙欄)。年末調整の対象
法要・祭礼の手伝いに来る人への日当(檀家・氏子・学生アルバイトなど、雇用関係のあるもの)給与(日雇賃金)必要(丙欄)。日額9,300円未満なら税額は0円だが、給与支払報告書の対象
他の寺院・神社に所属する僧侶・神職(個人)に支払う法要の出仕料・読経のお礼報酬・料金(所得税法204条)に当たらない不要。受け取った僧侶・神職が自分で申告する。ただし継続的に自法人の業務に従事し雇用関係があれば給与
他の宗教法人(本山・近隣寺院)に法人宛てで支払う出仕料・お礼法人への支払不要
外部の講師(個人)への講演料・法話の謝礼・原稿料報酬・料金(講演料・原稿料)必要。支払金額の10.21%(1回の支払が100万円を超える部分は20.42%)。支払調書の対象
布教師・講師が自法人の職員であり、職務として行う布教・講義への支払給与必要(給与として他の給与と合算)
祭礼での雅楽・舞・演奏・司会の出演料(個人)報酬・料金(芸能人等の役務提供)必要。10.21%
税理士・司法書士・社会保険労務士への報酬報酬・料金必要。10.21%(司法書士は1回の支払から1万円を差し引いた額に対して)。行政書士への報酬は対象外
交通費・宿泊費の実費精算(領収書に基づき実費を支払うもの)実費不要。ただし「お車代」として定額を渡すものは謝礼に含めて判定

判定の順序は、①雇用関係があるか(あれば給与)→②所得税法204条に列挙された報酬・料金(原稿料・講演料・弁護士等の報酬・芸能人の報酬など)に当たるか→③どちらでもなければ源泉徴収不要、です。他寺の僧侶への読経のお礼は②に列挙されていないため源泉徴収は不要ですが、支払の記録(相手・日付・金額・内容)は法人側で残しておきます。「お布施」「お礼」「志」といった名目では区分は決まらず、相手との関係と支払の性質で判断します。

住民税の特別徴収の義務と手続き

個人住民税(市民税・県民税)は、給与所得者については給与から天引きして事業者が市区町村に納める「特別徴収」が原則です(地方税法321条の4)。所得税の源泉徴収義務がある事業者は住民税の特別徴収義務者でもあり、宗教法人も対象です。神奈川県と県内の市町村は、原則としてすべての事業者を特別徴収義務者に指定する運用を行っており、横浜市内の宗教法人も、住職・職員の住民税を6月から翌年5月まで12回に分けて給与から控除し、翌月10日までに各人が住む市区町村へ納めます。

  • 手続きの流れ:1月31日までに提出した給与支払報告書に基づき、5月に市区町村から「特別徴収税額の決定通知書」(事業者用・納税義務者用)が届きます。納税義務者用を本人に渡し、通知された月割額を6月以降の給与から控除します。
  • 普通徴収にできる場合:給与支払報告書と一緒に「普通徴収切替理由書」を提出すれば、総従業員数が2人以下、他の事業所で特別徴収されている、給与が少なく税額を控除できない、給与が毎月支払われない、退職予定、といった事情のある人は本人納付(普通徴収)にできます。理由書なしに特別徴収をしないことはできません。
  • 納期の特例:従業員が常時10人未満の事業者は、市区町村に申請して承認を受けると、住民税の納付を年2回(6〜11月分を12月10日、12〜5月分を6月10日)にできます。市区町村ごとの申請が必要です。
  • 入退職時:職員が退職したときは「給与所得者異動届出書」を翌月10日までに市区町村へ提出し、残りの税額を一括徴収するか普通徴収に切り替えます。
  • 複数の市区町村:職員の住所地が異なれば、それぞれの市区町村に納付します。eLTAX(地方税ポータルシステム)の共通納税を使うと、複数の市区町村分を一括で納付できます。

源泉所得税の納期の特例と納付漏れがあった場合の対応

源泉所得税は原則として給与を支払った月の翌月10日が納期限ですが、給与の支給人員が常時10人未満の宗教法人は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すると、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納付できます。申請した月の翌月分の給与から適用されます。納期の特例の対象は給与と退職手当、税理士等の一定の報酬で、講演料や原稿料などの報酬の源泉所得税は特例の対象外のため、毎月翌月10日までに納付します。

源泉徴収をしていなかった、または徴収したのに納付が遅れた場合の扱いは次のとおりです。

  • 不納付加算税:法定納期限までに納付しなかった源泉所得税には、原則として税額の10%の不納付加算税が課されます。税務署から告知を受ける前に自主的に納付すれば5%に軽減されます。法定納期限から1か月以内に納付し、過去1年間に納付の遅れがなければ課されません。加算税の額が5,000円未満のときも課されません。
  • 延滞税:法定納期限の翌日から納付日までの日数に応じて、2026年中は年2.8%(納期限の翌日から2か月を経過した後は年9.1%)の延滞税がかかります。
  • 徴収漏れの本税:源泉徴収義務は支払者である宗教法人にあるため、徴収していなかった税額も法人がまず納付し、その後本人(住職・職員)から徴収するのが原則です。本人から回収しない場合は、その分が追加の給与(手取り保証)として扱われ、税額が増えることがあります。
  • 年末調整のやり直し:扶養親族の所得要件の確認漏れや控除証明書の後出しがあった場合、翌年1月31日までであれば年末調整の再計算で直せます。それ以降は本人の確定申告で調整します。

源泉所得税は税務調査で確認される頻度が高い項目です(「源泉所得税の税務調査」参照)。特に、住職への給与の計算根拠、現物給与の計上、他寺の僧侶や講師への支払の区分、法定調書の提出状況は確認されやすいため、支払の記録と区分の根拠を残しておきます。当事務所の宗教法人の会計・税務相談では、給与計算の体制づくり、年末調整・法定調書の代行、謝礼の区分の整理を、顧問契約なしのスポットでも承っています。

国税不服審判所の公表裁決:代表者の住居に置いた家具等が現物給与とされた事例

平成21年10月28日の裁決は、宗教法人が所有するマンションを代表者に住居として貸し、法人で購入した家具・カーテン・食器等を室内に置いていた事案です。税務署は、低額の賃料と家具等の無償使用を代表者への経済的利益(給与)として、源泉所得税の納税告知と不納付加算税の賦課決定をしました。

法人は家具等は宗教活動のためのものだと主張しましたが、審判所は、マンションで宗教行事は行われず、代表者が一人で住み光熱費も個人で払っていたことなどから、代表者が専属的に使っていたと認め、給与に当たると判断しました(耐用年数などの誤りを正して一部取消し)。住居や備品を使わせる場合は、宗教活動との関係と賃料相当額の根拠を記録しておくことが大切です。

出典:国税不服審判所「平成21年10月28日裁決(裁決事例集No.78)」

「宗教法人の給与と源泉徴収」に関するよくある質問

A.必要です。住職一人でも、法人から給与を受けていれば宗教法人は源泉徴収義務者で、毎月の源泉徴収と年末調整、源泉徴収票の交付、市区町村への給与支払報告書の提出を行います。年末調整をすれば、住職本人は給与以外の所得(他の寺からの出仕料など)が20万円以下で他に申告する事情がなければ確定申告は不要になります。給与以外の所得がある場合は本人が確定申告します。

A.相手が他の寺院に所属する僧侶個人で、自法人との雇用関係がない単発の出仕であれば、所得税法204条に列挙された報酬・料金に当たらないため源泉徴収は不要です。受け取った僧侶が自分の所得として申告します。法人側では支払の相手・日付・金額・内容を記録しておきます。相手の寺院(法人)宛てに支払う場合も源泉徴収は不要です。一方、毎週決まった曜日に勤務してもらうなど雇用関係がある場合は給与として源泉徴収が必要です。

A.原則として切り替えが必要です。給与所得者の住民税は特別徴収が法律上の原則で、神奈川県内の市町村はすべての事業者を特別徴収義務者に指定する運用をしています。給与支払報告書の提出時に普通徴収切替理由書を添えて認められる事情(総従業員数2人以下など)がある場合を除き、6月の給与から通知された月割額を控除して納付します。従業員が10人未満なら納期の特例を申請して年2回の納付にできます。

A.再確認が必要です。令和8年度税制改正で、2026年分の扶養親族・同一生計配偶者の所得要件が合計所得金額62万円以下(給与収入のみなら136万円以下)に、特定親族特別控除の対象が合計所得金額62万円超123万円以下に変わりました。年初の申告書は改正前の要件で書かれているため、配偶者や子のアルバイト収入が改正後の要件に当たるかを本人に確認し、異動があれば申告書を訂正してもらってから年末調整を行います。基礎控除申告書・特定親族特別控除申告書も改正後の金額で記載します。

「住職・宮司・職員の給与と源泉徴収」まとめ

  • 宗教法人は収益事業の有無に関係なく、住職・宮司・職員に給与を払えば源泉徴収義務者。お布施は法人の収入で、住職は給与で受け取る。庫裏の無償提供などの現物給与も給与に含める
  • 年間の流れ:毎月の源泉徴収と納付→1月31日に源泉徴収票・法定調書・給与支払報告書→5〜6月に住民税の特別徴収開始→10〜11月に各申告書の回収→12月に年末調整
  • 2026年分は基礎控除(最大104万円)・給与所得控除(最低74万円)・扶養の所得要件(62万円)が12月の年末調整から変わる。年初の扶養控除等申告書は再確認する
  • 謝礼は「雇用関係があれば給与」「講演料・原稿料・出演料・税理士報酬は10.21%の報酬」「他寺の僧侶個人への出仕料や法人宛ての支払は源泉不要」の順で区分し、記録を残す
  • 住民税の特別徴収は原則義務。源泉所得税は常時10人未満なら納期の特例で年2回納付。納付漏れは不納付加算税10%(自主納付5%、1か月以内で過去1年遅れなしなら不適用)と延滞税

宗教法人の給与計算・年末調整・源泉徴収は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。

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執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

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