調査官に「資料を預かりたい」「コピーをとりたい」と言われたら|留置きの制度と対応の仕方

横浜市で税務調査の立会い・対応サポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「調査官から『この帳簿と領収書を預からせてほしい』と言われた。原本を渡しても大丈夫なのか」「コピーを取りたい、写真を撮りたいと言われたが断れるのか」「会計ソフトのデータやパソコンを見せろと言われたら」――税務調査の当日、資料の持ち帰りや複写を求められた経営者・経理担当者の方からのご相談です。資料を預ける「留置き」は法律に定められた手続きで、預り証の交付や返還のルールが決まっています。応じるかどうかを含めて、仕組みを知っていれば落ち着いて対応できます。
この記事では、留置きの制度(国税通則法74条の7)と預り証の交付、留置きに応じるときの実務(コピーを手元に残す・一覧を作る・返還時期の確認)、返還を求めることができる場合、コピーの提供・写真撮影を求められた場合の考え方、帳簿データ(会計ソフト・パソコン)の提示を求められたときの対応を解説します。本記事は2026年11月6日時点の国税通則法・同施行令と、国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」に基づいています。調査官が帳簿のどこを見るかは「帳簿書類のどこを見られる?」、事前の準備は「税務調査の事前準備チェックリスト」をご覧ください。
「留置き」の制度と預り証の交付(国税通則法74条の7)
調査官は、調査について必要があるときは、納税者から提出された帳簿書類その他の物件を「留め置く」(預かって税務署に持ち帰る)ことができます(国税通則法74条の7)。調査の場で確認しきれない量の資料を税務署で精査する、取引先の資料と照合する、といった場合に行われます。留置きには次のルールがあります。
- 預り証の交付:物件を留め置くときは、調査官はその物件の名称・種類・数量、留置きの日、調査官の氏名・所属などを記載した書面(預り証)を納税者に交付しなければなりません(国税通則法施行令30条の3第1項)。預り証がないまま資料を渡すことはありません。
- 納税者の理解と協力のもとで行う:国税庁のFAQは、留置きは調査担当者が必要性を説明し、納税者の理解と協力のもとで行うとしています。承諾なく一方的に持ち去られることはありません。一方、質問検査権に基づく帳簿書類の提示・提出そのものは、正当な理由なく拒否すると罰則の対象になり得るため、「提出」と「持ち帰り(留置き)」を分けて考えます。提出(その場で見せる・確認させる)には協力し、持ち帰りについては必要性と範囲を確認して対応する、という整理です。
- 返還:留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく返還されます。納税者から返還を求められたときも、留置きの継続に特段の支障がない限り返還されます(同条2項・3項)。
- 管理責任:留置きの間、物件は税務署が善良な管理者の注意をもって管理する義務を負います。
留置きの対象になりやすいのは、総勘定元帳・仕訳帳などの帳簿、請求書・領収書・納品書のファイル、通帳のコピー、契約書、タイムカード・給与台帳、レジのジャーナル、手帳やメモ類などです。調査官が「預かりたい」と言う理由は多くの場合、量が多くてその場で見きれないことなので、事前に資料を整理し、質問に即答できる状態にしておくと、留置きの範囲は小さくなります。
留置きに応じるときの実務コピーを残す・一覧を作る・返還時期を確認する
留置きに応じる場合は、次の手順で進めると、業務への支障と行き違いを防げます。
業務への支障と行き違いを防ぐため、次の順で進めます。
- ①範囲を確認する:「何を」「何のために」「いつまで」預かりたいのかを確認します。全部ではなく、特定の年分・特定の取引先の資料だけで足りることも多いです。業務で日常的に使う資料(進行中の契約書、当月の請求書控え)は、コピーの提出で代えられないかを申し出ます。
- ②手元にコピーを残す:預ける資料は、原則としてすべてコピーまたはスキャンを手元に残します。調査中に調査官から質問されたとき、手元に同じ資料がなければ答えられません。量が多い場合は、調査官に時間をもらって複写してから渡します。
- ③一覧を作る:預ける資料の一覧(ファイル名・年分・冊数・枚数の目安)を作り、預り証の記載と照合します。預り証に「領収書ファイル一式」とだけ書かれている場合は、冊数や期間を具体的に記載してもらいます。一覧は返還時の確認にも使います。
- ④返還の時期と方法を確認する:「いつごろ返してもらえるか」「返還は持参か郵送か」を確認し、メモしておきます。決算や申告で必要な時期が近い場合は、その旨を伝えて優先的に返還してもらうよう申し出ます。
- ⑤返還時に照合する:返還されたら一覧と預り証で照合し、預り証に受領の署名をします。欠けているものがあればその場で確認します。
- ⑥税理士に共有する:預り証のコピーと一覧を税理士に渡し、どの資料が税務署側にあるかを共有します。以後の質問への回答や追加資料の提出は税理士が窓口になります。
留置きの期間中、調査官は資料をもとに疑問点を整理し、後日質問や追加資料の依頼をしてきます。手元のコピーで即答できる体制を作っておくことが、留置きの期間を短くする最も有効な方法です。
(仮定例)請求書のファイルを預かりたいと言われた場合
(仮定例)調査の2日目に、調査官から対象期間3年分の請求書・領収書のファイルを預かりたいと求められたとします。社長と税理士は、預かりたい範囲と理由、返還の目安を確認し、当期分のファイルは日々の業務で使うため、必要な部分のコピーの提出で代えられないかを申し出ます。
預けることにした過去2年分のファイルはスキャンして手元に残し、冊数と期間を書いた一覧を作って預り証の記載と照合します。示された返還の目安を過ぎても連絡がない場合は、税理士から調査官に返還の予定を確認します。実際の事例ではありません。
返還を求めることができる場合
留め置かれた資料は、納税者から返還を求めれば、留置きの継続に特段の支障がない限り返還されます。次のような場合は、遠慮せずに返還を申し出てください。
- 業務に必要になった:契約書の原本を取引先に提示する必要がある、金融機関に提出する資料に含まれている、決算・申告の作業で元帳が必要、といった事情。
- 留置きの目的が終わったと考えられる:調査官からその資料に関する質問が終わり、確認が済んだと思われる場合。
- 長期間返還されない:目安として伝えられた時期を過ぎても連絡がない場合は、調査官(または統括官)に状況を確認します。
返還を求めても応じてもらえない場合、留置きは処分として不服申立て(再調査の請求・審査請求)の対象になります。実務上そこまで至ることはまれで、税理士を通じて必要性を伝えれば、必要な資料はコピーを税務署側で取ったうえで原本が返還されるのが通常です。「返してほしいと言うと印象が悪くなるのでは」と心配される方がいますが、業務上の必要性を具体的に伝えることは正当な申出です。
コピーの提供・写真撮影を求められた場合の考え方
留置きの代わりに、または留置きと併せて、資料のコピーの提供や写真撮影を求められることがあります。
- コピーの提供:調査官が必要とする資料のコピーを渡すことは、留置きより業務への支障が小さく、原本の返還の問題も生じないため、原本の留置きを求められたときに「コピーでよいか」と申し出る価値があります。コピーの作成に時間と費用がかかる量の場合は、範囲を絞ってもらいます。渡したコピーの一覧は留置きと同様に残します。
- 写真撮影:調査官が帳簿や現場(店舗・倉庫・在庫・レジ)の写真を撮りたいと言うことがあります。これも納税者の承諾を得て行われるもので、何を何のために撮影するのかを確認し、無関係なもの(私物・従業員の個人情報)が写らないよう配慮を求めることができます。撮影された資料の内容は手元のメモで把握しておきます。
- 私物の扱い:個人の手帳・私用の通帳・家族の資料など、事業と関係のない物件は、関係がないことを説明して提示を断ることができます。ただし、事業と私用が混在しているもの(事業用の支払いにも使っている個人口座、仕事の予定も書いている手帳)は、事業に関する部分の確認を求められます。「私物だから見せない」と一律に拒否するより、事業と関係する部分を説明したうえで範囲を協議するほうが、調査は早く終わります。
- 調査対象外の年分・物件:事前通知された期間より前の資料や、通知にない物件も、調査の過程で必要と判断されれば確認を求められることがあります。その場合は、どの年分についての確認かを説明してもらったうえで対応します。
帳簿データ(会計ソフト・パソコン)の提示を求められたとき
帳簿を会計ソフトで作成している場合、調査官は紙の出力ではなく、データそのものの確認を求めることがあります。国税通則法上、帳簿書類の作成・保存を電磁的記録で行っている場合は、その電磁的記録も質問検査の対象です(74条の2)。考え方は次のとおりです。
| 求められること | 一般的な対応 | 注意点 |
|---|---|---|
| 会計ソフトの画面での確認 | 納税者(または税理士)が操作して、求められた帳簿・取引を画面に表示して見せる | 調査官が納税者の承諾なく直接パソコンを操作することは、原則として行われない。操作は本人が行い、調査官は画面を見る形にする |
| 帳簿データの出力・提出 | 総勘定元帳・仕訳帳などを期間を指定してPDF・CSVで出力し、提出する。USBメモリ等への保存や、電子データでの提出に応じることもある | 出力したデータは留置きと同様に扱われ、何を渡したかの記録を残す。会計データ全体のバックアップファイルを丸ごと渡す必要はなく、求められた帳簿の範囲で出力する |
| クラウド会計のログインを求められる | IDやパスワードを教えるのではなく、本人がログインして画面を見せるか、必要な帳簿を出力して渡す | 認証情報は渡さない。税理士を招待している場合は、税理士の画面で確認する方法もある |
| メール・チャット・スマートフォンの確認 | 取引に関するやりとり(見積・発注・請求のメールなど)の確認を求められた場合、該当するものを本人が表示して見せる | 私用のメッセージまで一括して見せる必要はない。事業に関する部分の範囲を協議する |
| 電子取引データの保存状況 | 電子帳簿保存法に基づき保存している電子取引(メール添付の請求書など)のデータを、検索・表示できる状態で提示する | 保存要件(日付・金額・取引先での検索、改ざん防止の措置)を満たしているかも確認される |
データの確認は紙の帳簿より範囲が広がりやすいため、「何を確認したいのか」を調査官に確認し、該当する帳簿・期間を本人または税理士が表示・出力する形を基本にします。パソコンや会計データを「丸ごと預かりたい」と言われた場合は、業務への支障が大きいことを説明し、必要な帳簿のデータ出力で代えることを申し出てください。電子帳簿保存法の対応は「電子帳簿保存法の対応」で解説しています。
当事務所の税務調査サポートでは、調査当日の資料の提示・留置きの範囲の協議・データ出力の対応を税理士が窓口となって行い、預り証と提出資料の一覧を管理します。調査官との資料のやりとりを税理士に任せることで、本人は事実の説明に集中できます。
「資料の留置き・コピー・データ提示」に関するよくある質問
留置きは納税者の理解と協力のもとで行われ、承諾なく持ち去られることはありません。業務上の支障(原本が必要、決算で使う)を説明し、コピーの提出や範囲の縮小を申し出ることができます。一方、帳簿書類をその場で提示・提出すること自体は質問検査権に基づく協力義務があり、正当な理由なく拒否すると罰則の対象になり得ます。「見せない」ではなく「持ち帰りの範囲を協議する」という対応が現実的です。
法律上は留め置く必要がなくなったときに遅滞なく返還され、納税者が返還を求めれば特段の支障がない限り返還されます。実務では数週間から1〜2か月程度で、調査の進み方によって異なります。返還の目安は預けるときに確認し、業務で必要になったら申し出てください。資料の返還と調査の終了は別で、資料が返還された後に調査結果の説明が行われることもあれば、調査終了時に返還されることもあります。
事業と関係のない私物は、関係がないことを説明して提示を断ることができます。ただし、事業の入金や支払いが一度でも通っている口座は「事業に関する部分がある」として確認を求められます。実務では、事業用の取引がないことを説明したうえで、調査官が疑問を持つ特定の期間や入金について説明する形で協議します。事業用と私用の口座を明確に分けておくことが、調査でこの問題を避ける最善の方法です。
求められている帳簿(総勘定元帳・仕訳帳など)と期間を確認し、その範囲でPDFやCSVに出力して渡すのが基本です。会計データのバックアップファイル全体には、調査対象外の年分や取引先マスタ、メモなども含まれるため、必要な帳簿の出力で代えることを申し出てください。渡したデータの内容は一覧にして記録し、税理士と共有します。パソコン本体やログイン情報を渡す必要はありません。
「資料の留置き・コピー・データ提示への対応」まとめ
- 留置き(国税通則法74条の7)は納税者の理解と協力のもとで行われ、必ず預り証が交付される。帳簿の提示・提出には協力義務があるが、持ち帰りの範囲は協議できる
- 応じるときは、範囲の確認→コピーを手元に残す→一覧を作って預り証と照合→返還時期と方法の確認→返還時の照合→税理士と共有、の順で進める
- 業務で必要になったら返還を求める。特段の支障がない限り返還され、応じられない場合は不服申立ての対象にもなる
- 原本の留置きの代わりにコピーの提供を申し出る。写真撮影は何を何のために撮るかを確認し、私物は事業との関係を説明して範囲を協議する
- 会計データは本人が画面を操作して見せるか、求められた帳簿・期間を出力して渡す。パソコン本体・ログイン情報・バックアップ全体を渡す必要はない
税務調査当日の資料対応と立会いは、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「資料を預かりたいと言われたが、どう対応すればよいか」「調査当日の資料の出し方を事前に整えたい」「会計データの提示をどこまで応じるべきか相談したい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内の個人事業主・法人を中心に、代表税理士が直接立ち会います。顧問契約は不要で、調査のみのスポット対応も可能です。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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