障害福祉サービス事業所の会計の注意点|就労継続支援A型・B型の就労支援事業会計と工賃、グループホーム

横浜市で社会福祉法人・介護事業者のサポートを手掛ける、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「就労継続支援B型の工賃は、どこまでを経費として引いてよいのか」「A型の生産活動が赤字なのだが、給付費で賃金を払ってよいのか」「グループホームの家賃や食費はどう仕訳するのか」――障害福祉サービス事業所の会計には、介護事業所とも一般の事業会社とも違う独特のルールがあります。特に就労継続支援A型・B型の「就労支援事業会計」と、共同生活援助(グループホーム)の実費・預り金の管理は、指導監査でも重点的に確認される項目です。
この記事では、障害福祉サービス事業所の収益の構造、就労支援事業会計の仕組みと工賃の計算、積立金の使い方、A型・B型それぞれの注意点、グループホームの会計、多機能型事業所の区分、消費税・法人税のポイントを整理します。本記事は2026年11月6日時点の障害者総合支援法に基づく指定基準、社会福祉法人会計基準とその運用上の取扱い(就労支援事業会計処理基準)に基づいています。
障害福祉サービス事業所の収益の構造|給付費・利用者負担・生産活動収入
障害福祉サービス事業所の収入は、大きく3つに分かれます。
- 訓練等給付費・介護給付費(自立支援給付費):市町村から国保連を通じて支払われるサービスの対価です。会計上は「障害福祉サービス等事業収益」の自立支援給付費収益などに計上します。請求は翌月10日までに国保連へ行い、入金はその後になります(入金管理の考え方は「介護報酬・給付費の入金管理」参照)。
- 利用者負担金・実費:所得区分に応じた利用者負担(上限月額が設けられ、市町村民税非課税世帯は0円)と、食材料費・光熱水費などの実費です。利用者負担は上限額管理の対象になるため、複数の事業所を使う利用者は上限額管理事業所との調整が必要です。
- 就労支援事業収益(生産活動収入):就労継続支援A型・B型、就労移行支援などで行う商品の製造・販売、受託作業などの収入です。給付費とは区分して「就労支援事業会計」で管理します。
給付費はサービス(支援)の対価、生産活動収入は利用者の働きの成果であり、この2つを混ぜないことが障害福祉サービス事業所の会計の出発点です。
障害福祉サービス事業所の収入のうち、性質の違う2つを分けて管理します。
就労支援事業会計の仕組み|工賃は生産活動収入から経費を引いた額
就労継続支援B型の指定基準では、生産活動に係る事業の収入から、生産活動に必要な経費を控除した額に相当する金額を、工賃として利用者に支払うことが求められています。給付費を工賃に充ててはならず、逆に生産活動の利益を法人の他の経費に流用することも想定されていません。この「生産活動の収入と経費、工賃」を給付費側の会計と区分して記録するのが就労支援事業会計です。
社会福祉法人の場合、社会福祉法人会計基準の運用上の取扱いに定められた就労支援事業会計処理基準に従い、次の明細書を作成します。
- 就労支援事業別事業活動明細書:就労支援事業ごと(パン製造、清掃受託など)の収益・費用・利用者工賃を示します。
- 就労支援事業製造原価明細書・就労支援事業販管費明細書:材料費、外注費、生産活動に使う設備の減価償却費、水道光熱費のうち生産活動分、販売に係る経費などを区分します。利用者工賃は労務費として製造原価に含めます。
- 就労支援事業明細書(簡略版):就労支援事業の年間売上高が5,000万円以下の場合は、製造原価明細書と販管費明細書に代えて簡略な明細書で済ませることができます。
注意したいのは、支援を行う職員(職業指導員・生活支援員など)の人件費は給付費で賄うサービス側の費用であり、就労支援事業費用には含めないという点です。これを生産活動の経費に入れると、工賃の原資が不当に減ってしまいます。NPO法人や株式会社など社会福祉法人以外の法人は、それぞれの会計基準に従いつつ、就労支援事業の収支を区分して工賃の算定根拠を示せるようにしておく必要があります。
横浜市が公表した指導監査の指摘:就労支援事業の明細が作られていなかった例
横浜市健康福祉局の「令和6年度 指導監査等結果概要」には、計算書類の附属明細書を適切に作成するよう求めた指摘の中で、就労支援事業別の事業活動の計算書が作成されていなかったことが挙げられています。同じ指摘では、寄附金収益明細書の寄附者の属性や、拠点区分間の貸付金(借入金)残高明細書の記載方法の誤りも指摘されていました。
就労支援事業の明細は、生産活動の収支と工賃の算定根拠を示す書類でもあります。決算のときにまとめて作るのではなく、日々の記帳の段階から就労支援事業ごとに収益と費用を区分しておくことが大切です。
出典:横浜市健康福祉局「令和6年度 指導監査等結果概要」(掲載ページ:社会福祉法人等の指導監査(健康福祉局所管))
工賃変動積立金・設備等整備積立金|剰余が出たときの使い方
生産活動の収入から経費と工賃を支払った後に剰余が出た場合、本来は工賃として配分するものですが、次の2つの積立金として積み立てることが認められています。
- 工賃変動積立金:受注の減少などで工賃が下がったときに補填するための積立金です。各年度の積立額は過去3年間の平均工賃の10%以内、積立額の上限は過去3年間の平均工賃の50%以内です。
- 設備等整備積立金:生産活動に使う設備の更新や新規購入のための積立金です。各年度の積立額は就労支援事業収入の10%以内、上限は就労支援事業資産の取得価額の75%以内です。
積立ては理事会の承認を得て行い、積立金と同額の積立資産(預金)を確保します。積立金に上限があるのは、剰余を際限なく法人に留保せず、利用者の工賃に還元するという制度の趣旨によるものです。積立ての範囲を超えた剰余は、翌年度の工賃の増額などで利用者に還元することになります。
A型・B型それぞれの注意点
- 就労継続支援A型(雇用型):利用者と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金を支払います。指定基準では、生産活動の収入から必要経費を控除した額が、利用者に支払う賃金の総額以上になることが求められ、下回る場合は経営改善計画の提出が必要です。基本報酬はスコア方式で決まり、生産活動の収支が賃金総額を上回っているかどうかも評価に反映されるため、就労支援事業会計の数値が報酬に直結します。賃金は労務費として就労支援事業費用に計上し、社会保険料の事業主負担も生産活動の経費として扱います。
- 就労継続支援B型(非雇用型):基本報酬は平均工賃月額に応じて決まる区分が中心で、工賃の実績が報酬に影響します。平均工賃月額の算定は、年間の工賃支払総額と延べ利用者数などに基づくため、工賃台帳と会計の工賃支払額が一致していることが前提です。生産活動が赤字になった場合に給付費で工賃を補うことはできないため、工賃変動積立金の取り崩しや作業内容の見直しで対応します。
- 共通:福祉・介護職員処遇改善加算は、全額を職員の賃金改善に充て、実績報告で説明できるように加算収入と賃金改善額を対応付けて記録します(考え方は「介護職員処遇改善加算の会計処理」と同様です)。
グループホーム(共同生活援助)の会計|家賃・食費・預り金
グループホームでは、訓練等給付費のほかに、家賃、食材料費、光熱水費、日用品費などを利用者から実費として受け取ります。会計上の注意点は次のとおりです。
- 家賃の受け取りと支払い:法人が建物を借り上げて利用者に提供している場合、利用者から受け取る家賃と大家に支払う家賃を両建てで計上します。家賃の設定は実費相当が原則です。市町村民税非課税世帯などの利用者には、家賃を対象とした補足給付(特定障害者特別給付費)が国保連を通じて事業所に支払われ、その分を利用者の家賃から差し引きます。補足給付は収益、利用者からの家賃は差額を収益として計上し、両方の合計が家賃の総額と一致することを確認します。
- 食材料費・光熱水費:実費として徴収する以上、徴収額と実際にかかった費用の対応を説明できる計算根拠(献立に基づく食材料費の積算、光熱水費の実績)を残します。徴収額が実費を大きく上回る状態は指導監査で指摘されます。
- 利用者預り金:利用者の金銭(年金・手当・小遣いなど)を法人が預かる場合、法人の資産とは完全に分離して管理します。預り金規程の整備、通帳と印鑑の別人管理、出納の都度の記録、月次の残高照合、本人・家族・後見人への定期報告が基本です。預り金は貸借対照表の預り金(負債)と預り金に対応する預金(資産)として両建てで計上し、法人の運転資金に流用してはいけません。
- 消費税:住宅の貸付けとしての家賃は非課税です。障害福祉サービスの対価と一体として非課税になる範囲は告示で定められているため、実費徴収分の区分は個別に確認します。
多機能型事業所の区分と、消費税・法人税のポイント
生活介護と就労継続支援B型、就労移行支援と就労継続支援A型など、複数のサービスを一体的に運営する多機能型事業所では、サービスごとに収益と費用を区分し、共通する人件費・水道光熱費・家賃を合理的な基準で配分します。区分と配分の考え方は「拠点区分・サービス区分・事業区分の分け方」で解説しています。
消費税では、自立支援給付費と利用者負担は非課税ですが、就労支援事業の生産活動収入(商品の販売、受託作業の対価)は通常の課税売上です。生産活動収入が1,000万円を超えると課税事業者になり、販売先が事業者であればインボイス(適格請求書)の発行を求められることもあります。課税事業者になる場合は、簡易課税の選択や事業区分の判定を事前に検討しておきましょう(基本的な考え方は「社会福祉法人・介護事業の消費税」参照)。
法人税では、社会福祉法人が行う生産活動は、物品販売業や製造業などに当たり得るものの、障害者等が従事者の半数以上を占めるなどの要件を満たす事業は収益事業から除かれています。NPO法人や株式会社が行う場合は、給付費収入も生産活動収入も法人税の対象です(法人形態ごとの違いは「株式会社・NPO・一般社団法人で介護事業を運営する場合の税務」で解説しています)。
当事務所では、横浜市内の障害福祉サービス事業所を中心に、就労支援事業会計の明細書の作成、工賃計算の根拠整理、積立金の管理、グループホームの実費・預り金管理の仕組みづくり、多機能型事業所の区分・配分の設計、消費税の判定まで対応しています。詳しくは社会福祉法人・介護サポートのページをご覧ください。
まとめ:給付費と生産活動を混ぜないことが障害福祉会計の基本
障害福祉サービス事業所の会計は、支援の対価である給付費と、利用者の働きの成果である生産活動収入を区分することから始まります。就労継続支援では、生産活動収入から経費を引いた額を工賃として配分し、職員人件費を生産活動の経費に混ぜないこと、剰余は上限内で積立金とし、超えた分は工賃に還元することが求められます。グループホームでは、家賃・実費の計算根拠と利用者預り金の分離管理が指導監査の要点です。これらは、就労支援事業会計の明細書、工賃台帳、預り金台帳、配分基準の文書を日々整えておくことで、決算時にも監査時にも説明できる状態になります。
「障害福祉サービス事業所の会計」まとめ
- 収入は給付費(国保連経由)・利用者負担と実費・就労支援事業収益(生産活動)の3つ。給付費と生産活動を混ぜない
- B型の工賃=生産活動収入−生産活動の経費。給付費を工賃に充てない。職員人件費は給付費側の費用で、生産活動の経費に入れない
- 社会福祉法人は就労支援事業別事業活動明細書・製造原価明細書・販管費明細書を作成(年間売上5,000万円以下は簡略な明細書で可)
- 剰余は工賃変動積立金(各年度10%以内・上限50%)、設備等整備積立金(各年度収入の10%以内・上限取得価額の75%)の範囲で積立て、超えた分は工賃に還元
- A型は生産活動収支≧賃金総額が求められ、スコア方式の基本報酬にも反映。B型は平均工賃月額が報酬区分に影響
- グループホームは家賃・実費の計算根拠と補足給付の対応、利用者預り金の分離管理(規程・通帳印鑑の別管理・月次照合・報告)が要点
- 生産活動収入は消費税の課税売上。1,000万円超で課税事業者、インボイスの要否も検討
「障害福祉サービス事業所の会計」に関するよくある質問
指定基準上、給付費を工賃に充てることはできません。工賃は生産活動の収入から経費を控除した額を原資とするのが原則です。生産活動が赤字の場合は、まず経費の区分を見直し、職員人件費や事業所全体の経費が生産活動の経費に混ざっていないかを確認します。それでも工賃の原資が不足する場合は、過去に積み立てた工賃変動積立金を取り崩して補填することが制度上の対応です。積立金がない場合は、受注内容や単価の見直し、新しい作業の開拓など、生産活動そのものの改善が必要になります。赤字が続く状態で工賃を支払い続けると、結果的に給付費で工賃を賄うことになり、指導監査で指摘を受けます。
給付費や利用者負担は非課税ですが、生産活動の売上(商品の販売、受託作業の対価など)は課税売上です。基準期間(原則として前々年度)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年度から消費税の課税事業者になり、申告・納税が必要です。課税事業者になる年度の前日までに、簡易課税制度を選択するかどうかを決めます(製造業・小売業・サービス業など、生産活動の内容によって事業区分とみなし仕入率が異なります)。また、販売先が企業や事業者の場合は、インボイス(適格請求書)の発行を求められることがあるため、適格請求書発行事業者の登録の要否も合わせて検討します。登録すれば、売上規模にかかわらず課税事業者になります。
利用者の金銭は法人の資産ではないため、法人の口座とは別に利用者ごとの口座または預り金台帳で管理し、通帳と印鑑は別の職員が保管します。預り金管理規程を整備し、出し入れの都度、日付・金額・目的・担当者・確認者を記録して領収書を保存します。月に1回は台帳の残高と通帳・現金の残高を照合して責任者が確認し、本人や家族・後見人へ定期的に残高と出納を報告します。会計上は、預り金(負債)と預り金対応の預金(資産)を両建てで計上し、法人の運転資金に流用しないことが絶対条件です。預り金の管理体制は指導監査で必ず確認される項目ですので、規程・台帳・照合記録・報告書の4点をいつでも提示できる状態にしておきましょう。
障害福祉サービス事業所の会計・工賃計算は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「就労支援事業会計の明細書を整えたい」「工賃の計算根拠を監査で説明できるようにしたい」「グループホームの実費・預り金の管理体制を見直したい」など、障害福祉サービス事業所の会計・税務のことなら、どんなことでもお気軽にご相談ください。横浜市内の事業所を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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