領収書も帳簿もない数年分の無申告|通帳・取引先データ・売上台帳から申告の基礎を組み立てる方法

横浜市で無申告の解消をサポートしている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「領収書を全部捨ててしまったので申告できないと思っている」「売上がいくらだったか自分でもはっきり分からない」「税務署に勝手に税額を決められる(推計される)のが怖い」――建設業の一人親方、飲食店、ITフリーランス、フードデリバリーの配達員など、数年分の無申告があり、帳簿も領収書も残っていない方からのご相談です。結論からお伝えすると、領収書がなくても申告はできます。売上は入金の記録から、経費は支払いの記録から復元し、どうしても分からない部分は合理的な方法で見積もって、記録を残したうえで申告します。
この記事では、売上の復元方法、経費の復元方法、どうしても資料がない部分の扱い(概算・推計との関係)、白色申告の記帳義務と今後の帳簿づくり、税理士が復元作業で行うことを解説します。本記事は2026年11月6日時点の所得税法・消費税法に基づいています。相談前に用意する資料と当事務所の進め方は「無申告の相談前に用意する資料と、資料がない場合の対応」をご覧ください。
売上の復元方法
売上は、税務署も同じ資料で把握できるため、最も正確に復元する必要があります。優先順位の高い順に次の資料を集めます。
税務署も同じ資料で売上を把握できるため、優先順位の高い順に集めます。
- 入金のあった口座の通帳・入出金明細:事業用・個人用を問わず、売上が振り込まれた口座すべてについて、対象年分の明細を集めます。通帳を紛失していても、金融機関に過去の取引明細の発行を依頼できます(対象期間は金融機関により異なり、過去10年以内とする例があります)。ネット銀行はWebで出力できます(Webで照会できる期間には上限があります)。
- 取引先からの支払調書・支払通知:原稿料・講演料や税理士・弁護士等の報酬など所得税法204条1項の報酬・料金は、支払者が同一人への年間支払額が一定額(原稿料・税理士報酬などは5万円)を超える場合に支払調書を税務署に提出しています(建設工事の下請代金など、提出対象にならない取引もあります)。取引先に依頼すれば支払明細を出してもらえることがあり、支払調書が提出されている取引は税務署もその金額を把握しているため、必ず一致させます。
- プラットフォームの売上履歴:フードデリバリー、ネットショップ、フリマアプリ、動画サイト、アフィリエイト、ライドシェアなどは、管理画面から年間の売上・手数料の明細をダウンロードできます。振込額は手数料控除後のため、売上は手数料控除前の金額で計上し、手数料を経費にします。
- 請求書の控え・見積書・契約書:請求書ソフトやメールの送信履歴に残っていることがあります。
- 現金売上(飲食・美容・小売など):レジのジャーナル、日報、予約台帳があればそれを基礎にします。何もない場合は、仕入金額と原価率、座席数と客単価、営業日数など、事業の実態から合理的に見積もり、計算の根拠を記録します。現金で受け取って個人口座に入金した分は、通帳の入金記録と照合します。
国税庁が公表した事例:売上の書類を捨てていた転売の無申告
給与のほかに、ゲーム機器やスマートフォンなどの転売収入があったのに所得税の申告をしていなかった人の事例です。経費の書類は保存していた一方で売上の書類はすべて捨てていましたが、税務署はパソコン・スマートフォンに残っていた取引データと、取引先への反面調査などで転売の収入を把握しました。
所得税は7年分で申告漏れ所得約7,600万円・追徴税額約2,700万円、消費税も課税事業者に当たるとして1年分約200万円が追徴され、書類の破棄は隠蔽に当たるとして重加算税が課されました。手元に記録がなくても売上は取引先の記録から把握されることを示す例で、通帳や取引先のデータから正しく復元して申告することが大切です。
出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(調査事例 事例2)
経費の復元方法
領収書がなくても、支払いの事実と内容が分かり、業務のための支出であれば経費として計上できます(計上する年分はその年に債務が確定したかで判断し、家事と共通の支出は業務分を区分します)。
- クレジットカードの利用明細:カード会社のWebサービスで数年分を再発行・ダウンロードできます。利用先と金額が分かるため、所得税の経費の裏付けになります(消費税の仕入税額控除に必要な請求書等には当たりません)。
- 通帳の引き落とし・振込:家賃、通信費、保険料、リース料、仕入先への振込、借入金の返済(利息部分が経費)など。
- 取引先への再発行依頼:仕入先・外注先・材料店などに、対象期間の請求書や取引明細の再発行を依頼します。
- 契約書・申込書:事務所・店舗・駐車場の賃貸借契約書、リース契約書、携帯電話の契約から、月額と期間を特定します。
- 固定資産の購入資料:車・パソコン・機械・工具などは、ディーラーや販売店の記録、ローンの契約書で取得日と金額を確認し、減価償却費を計算します。
- 社会保険料・控除関係:国民年金は日本年金機構(ねんきんネット)、国民健康保険料は市区町村で過去の納付額を確認できます。生命保険料控除証明書は保険会社で再発行できます。
- 現金払いの経費:ガソリン代、駐車場、工具、材料、交通費など現金で払ったものは、カードや通帳の記録がなければ、業務日誌・現場の記録・走行距離などから合理的に見積もり、出金伝票と計算メモを作ります。交通系ICカードの履歴は直近の一定件数しか取れないため、早めに出力します。
どうしても資料がない部分の扱い|概算・推計との関係
復元できない部分が残ることは珍しくありません。その場合の考え方は次のとおりです。
- 概算は「根拠のある見積もり」にする:たとえば材料費なら、復元できた月の材料費率を他の月に当てはめる、ガソリン代なら現場までの距離と日数から計算する、といった方法で見積もり、計算の根拠をメモとして残します。根拠のない「だいたいこのくらい」や、経費を多めに見積もる行為は、調査で否認されるだけでなく、意図的と判断されれば重加算税の対象になります。迷う場合は控えめに計上します。
- 税務署の「推計課税」との関係:帳簿や資料がなく所得を実額で計算できない場合、税務署は同業者の利益率や本人の資産の増減などから所得を推計して税額を決定できます(所得税法156条)。これは納税者が申告しないときに税務署側が使う手段で、推計で決定されると、実際より多い所得で課税されることもあり、不服を申し立てても、実額を証明する資料がなければ、推計の必要性や推計方法の合理性を争うことが中心になり、覆すのは難しくなります。自分で復元した資料に基づいて申告することが、推計を避ける最も確実な方法です。
- 業種の平均との関係:同業者の平均的な経費率は、復元した数字が妥当かどうかを確認する目安にはなりますが、平均をそのまま自分の経費にすることはできません。
- 消費税の仕入税額控除:課税事業者に当たる年分は、仕入税額控除に帳簿と請求書等の保存が必要なため、所得税の経費として概算で計上できても、消費税の控除はできないことがあります(詳しくは「無申告の期間に消費税の申告も必要?」)。
白色申告の記帳義務と、今後の帳簿づくり
個人事業主は、青色・白色を問わず、収入と経費を記帳し、帳簿と書類を保存する義務があります(白色申告でも2014年から全員が対象)。帳簿がないこと自体が「申告しなくてよい理由」にはならず、むしろ推計課税や加算税のリスクを高めます(「白色申告とは。記帳義務を知らないとヤバい!」)。無申告を解消したら、今後は次の3つで帳簿を作る仕組みを整えます。
- 事業専用の口座とカードを1つずつ:売上の入金と経費の支払いをそこに集めるだけで、通帳と明細が帳簿の基礎になります。
- クラウド会計と連携:口座・カードを連携すれば取引が自動で取り込まれ、レシートはスマホで撮影して保存できます。
- 月1回の確認:月末に取り込んだ取引を確認し、現金払いの経費を入力します。この習慣があれば、申告期に困ることはなくなります。
記帳を続けられれば、翌年から青色申告(65万円控除など)に切り替えることも検討できます(「無申告のあと青色申告は続けられる?」)。
税理士が復元作業で行うこと
- 資料の棚卸しと再発行の指示:どの口座・どの取引先・どのプラットフォームの資料が必要かを整理し、再発行の依頼先と文面をお伝えします。
- 通帳の入出金の仕分け:入金を売上・借入・個人の入金に、出金を経費・生活費・返済に分け、年分ごとに集計します。
- 売上と第三者資料の照合:支払調書・プラットフォームの履歴と通帳の入金を突き合わせ、計上漏れと二重計上を防ぎます。
- 概算部分の根拠づくり:復元できない経費について、合理的な見積もりの方法を決め、計算メモを残します。
- 年分ごとの申告書作成と税額の試算:所得税・消費税・住民税・国民健康保険料への影響と加算税・延滞税を試算し、納付計画を一緒に考えます。
- 税務署との対応:税務代理権限証書を提出し、問い合わせの窓口になります。
期限後申告の際に確認すべき項目は「期限後申告チェックリスト10項目」、確定申告の資料の集め方の基本は「税理士に確定申告を丸投げするときの資料チェックリスト」もご覧ください。サービスの内容は無申告サポートのページをご覧ください。
まとめ:売上は入金記録から、経費は支払記録から。「資料がない」は申告できない理由にならない
領収書も帳簿もない無申告は、通帳・支払調書・プラットフォームの履歴で売上を復元し、カード明細・通帳の引き落とし・取引先の再発行・契約書で経費を復元し、年をまたぐ未収・未払や棚卸を年分に合わせて調整すれば申告できます。復元できない部分は根拠のある見積もりにして計算メモを残し、多めに見積もることは避けます。自分で復元して申告することが、税務署の推計課税を避ける最も確実な方法です。解消後は、事業専用の口座・カードとクラウド会計で帳簿を作る仕組みを整え、記帳義務を果たしながら青色申告への切り替えも検討してください。
「領収書も帳簿もない無申告の申告の組み立て方」まとめ
- 売上の復元:全口座の通帳(再発行可)、取引先の支払調書・支払明細、プラットフォームの売上履歴(手数料控除前で計上)、請求書控え、現金売上は仕入・客数から合理的に見積もり
- 経費の復元:カード明細(Web再発行)、通帳の引き落とし、取引先への再発行依頼、契約書、固定資産の購入資料、年金・国保・保険の納付記録、現金払いは日誌と出金伝票
- 資料がない部分は根拠のある概算にし計算メモを残す。多めの見積もりは重加算税のリスク
- 推計課税(所得税法156条)は申告しないときの税務署側の手段。復元して申告することが最善の回避策
- 消費税の仕入税額控除は帳簿・請求書がないと認められないことがある
- 白色申告でも記帳・保存は義務。今後は事業専用口座・カード+クラウド会計+月1回の確認で帳簿を作る
「資料がない無申告」に関するよくある質問
現金売上で記録が何もない場合、仕入金額と原価率、営業日数と客数・客単価、材料の使用量など、事業の実態から合理的に計算します。たとえば飲食店なら「仕入れた食材の金額÷原価率」、一人親方なら「元請けからの支払明細」が基礎になります。元請けや取引先は帳簿で支払額を記録しており(報酬・料金の種類によっては支払調書も提出されています)、現金で受け取っていても税務署は調査などで把握できます。「分からないから少なめに」ではなく、取引先の記録と整合する金額で申告することが、調査で指摘を受けないための前提です。計算の根拠は必ずメモに残してください。
ゼロにする必要はありません。カード明細・通帳の引き落とし・取引先の再発行・契約書などで支払いの事実が確認できる経費は計上でき、現金払いで記録がない経費も、業務の実態から合理的に見積もれる範囲で計上できます(計算メモを残します)。ただし、何の根拠もなく経費率だけで計上することや、実際より多く見積もることは認められません。復元できる経費を一つずつ積み上げるのが基本で、当事務所ではそのための資料の集め方からご案内しています。経費が少ないまま申告して納税額が大きくなった場合も、後から資料が見つかれば更正の請求で税額を減らせる可能性があります。
解約した口座でも、金融機関に本人確認書類を持って依頼すれば、過去の取引明細を発行してもらえる場合があります(発行できる期間は金融機関により異なり、過去10年以内とする例があります。手数料がかかることが多いです)。どの金融機関に口座があったか分からない場合は、取引先からの支払明細の振込先や、過去のメール・契約書から特定します。プラットフォームの売上は管理画面の履歴で確認でき、取引先が税務署に提出した支払調書は申告書等閲覧サービスの対象ではないため、写しや支払明細は取引先に依頼します。入金記録がどうしても得られない部分は、取引先の支払明細を基礎に売上を組み立てます。
資料がない無申告も、横浜の岩本隆一税理士事務所にご相談ください。
「領収書も帳簿もない」「売上が分からない」「推計されるのが怖い」など、どんな状態からでもお気軽にご相談ください。通帳と取引先の資料から申告の基礎を一緒に組み立てます。横浜市内の個人事業主・フリーランスを中心に、代表税理士が直接対応します。秘密厳守・匿名相談可、LINE・メールは24時間受付です。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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