不動産オーナー・資産管理会社の確定申告|不動産所得の経費・減価償却・青色申告の基本

横浜市で不動産オーナー・資産管理会社の税務顧問と確定申告サポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「アパートの確定申告で、経費はどこまで入れられるのか」「建物の減価償却の計算が分からない」「青色申告の65万円控除は不動産所得でも使えるのか」「資産管理会社を作ったほうが得と聞いたが本当か」――アパート・区分マンション・駐車場を貸している個人の方や、相続で賃貸物件を引き継いだ方から、確定申告の時期に集中してご相談を受けます。不動産所得の申告は毎年ほぼ同じ構造なので、初年度に経費の範囲と減価償却の計算を固めておけば、2年目以降は数字を更新するだけになります。
この記事では、不動産所得の計算と経費の範囲(固定資産税・管理費・修繕費と資本的支出・借入利息・減価償却)、減価償却の基本(建物と設備の区分・中古の耐用年数)、事業的規模(5棟10室)で変わること(青色申告特別控除・専従者給与・損失の扱い)、資産管理会社に移すメリット・デメリットの概観、確定申告で用意する資料を解説します。本記事は2026年11月6日時点の所得税法・所得税基本通達・減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づいています。
不動産所得の計算と経費の範囲
不動産所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算します。総収入金額には、家賃・地代・駐車場代のほか、礼金・権利金・更新料、共益費、返還しない敷金・保証金、名義書換料が含まれます。収入の計上時期は原則として契約上の支払日(毎月の家賃は支払日の属する年)で、未入金でも計上します。必要経費になる主なものと注意点です。
| 経費の項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 賃貸物件に係る分 | 自宅と同じ敷地にある場合は賃貸部分を面積などで按分。納税通知書で確認 |
| 損害保険料 | 火災保険・地震保険の当年分 | 複数年分を一括で払った場合は当年分だけが経費(残りは前払費用) |
| 管理費・管理委託料 | 管理会社への委託料、マンションの管理費・修繕積立金(区分所有) | 区分マンションの修繕積立金は、規約に基づき返還されないものなら支払時の経費として扱えるのが通常 |
| 修繕費 | 原状回復、壁紙・設備の交換、外壁の塗り替えなど維持のための支出 | 価値を高めたり耐久性を増したりする支出は「資本的支出」で、一時の経費ではなく減価償却(後述) |
| 借入金の利息 | 物件の取得・修繕のための借入金の利息部分 | 元本の返済は経費ではない。不動産所得が赤字のとき、土地の取得に係る利息の部分は他の所得と損益通算できない |
| 減価償却費 | 建物・建物附属設備・構築物の取得価額を耐用年数で配分した額 | 土地は償却できない。計算方法は次の節 |
| 入居者募集の費用 | 仲介手数料、広告料、フリーレント期間の損失(収入が減る形で反映) | — |
| その他 | 税理士報酬、交通費(物件の見回り・管理会社との打合せ)、通信費、書籍・セミナー代の賃貸業に係る部分、立退料(賃貸継続のため) | 自宅兼用の費用は賃貸業に係る割合で按分し、根拠を残す。建物を取り壊して売却するための立退料は譲渡費用 |
経費にならないものとして、所得税・住民税、借入金の元本、自宅部分の費用、物件取得時の仲介手数料・登録免許税・不動産取得税(これらは取得価額に含めて減価償却するか、取得費になります。ただし業務開始後の不動産取得税・登録免許税は経費にできます)があります。
修繕費と資本的支出の区分は、不動産所得で最も判断が分かれる点です。原則は「通常の維持管理・原状回復は修繕費、価値や耐久性を高める部分は資本的支出」ですが、判断が難しい場合には形式基準があります。①1件の支出が20万円未満、②おおむね3年以内の周期で行う修理、は修繕費として差し支えなく、③60万円未満または前年末の取得価額の10%以下の支出も修繕費として扱えます。工事の見積書に「原状回復」と「改良・増設」が混在していれば、内訳で分けます。
工事などの支出は、次の順で判定します。
減価償却の基本建物と設備の区分・中古の耐用年数
減価償却は、建物などの取得価額を使用可能な期間(法定耐用年数)に配分して毎年経費にする計算です。1998年4月1日以後に取得した建物、2016年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は定額法で計算します(取得価額×定額法の償却率×その年に使った月数÷12)。
| 区分 | 構造・内容 | 法定耐用年数(住宅用) |
|---|---|---|
| 建物 | 木造・合成樹脂造 | 22年 |
| 軽量鉄骨造(骨格材の厚さ3mm以下) | 19年 | |
| 鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 | |
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 | |
| 建物附属設備 | 電気設備・給排水設備・ガス設備・衛生設備 | 15年 |
| 冷暖房設備(エアコンなど) | 13年(一定のものは6年) | |
| エレベーター | 17年 | |
| 構築物 | 駐車場のアスファルト舗装、フェンス、門 | 舗装10年、金属造のフェンス等は種類により異なる |
実務上の要点は次の3つです。
- 土地と建物の区分:売買契約書に土地と建物の金額が分かれていればその金額、分かれていなければ消費税額から建物価格を逆算する、固定資産税評価額の比で按分する、といった合理的な方法で区分します。建物の割合が大きいほど償却費が多くなるため、根拠を残します。
- 建物と設備の区分:新築や大規模改修で工事の内訳が分かる場合、電気・給排水・空調などの設備を建物本体(22〜47年)と分けて15年前後で償却すると、初期の償却費が増えます。内訳が分からない中古物件は建物一体で償却するのが一般的です。
- 中古資産の耐用年数(簡便法):法定耐用年数を全部経過した中古は「法定耐用年数×20%」、一部経過した中古は「(法定耐用年数 − 経過年数)+経過年数×20%」(1年未満の端数切捨て、2年未満は2年)。たとえば築25年の木造アパート(法定22年)は22×0.2=4年、築10年の鉄筋コンクリート造(法定47年)は(47−10)+10×0.2=39年です。取得後に取得価額の50%を超える改修をした場合は簡便法が使えません。
減価償却費は「現金の支出がない経費」なので、不動産所得の黒字と手元資金の増減が一致しない原因になります。償却期間が終わった後は経費が減って税負担が上がるため、償却の残り年数は毎年の申告で把握しておきます。
事業的規模(5棟10室)で変わること
不動産の貸付が「事業として行われているか」で、青色申告の特典や損失の扱いが大きく変わります。判定の目安は所得税基本通達が示す形式基準で、独立した家屋ならおおむね5棟以上、アパート・マンションならおおむね10室以上です。駐車場は5台分でおおむね1室に相当すると考え、約50台で事業的規模の目安になります。戸建て1棟を2室分、といった換算で合計して判定します。
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模でない(業務的規模) |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 65万円(複式簿記+e-Taxまたは電子帳簿保存)または55万円 | 10万円 |
| 青色事業専従者給与・事業専従者控除 | 家族への給与を要件のもとで経費にできる | できない |
| 家賃の貸倒れ | 回収不能になった年の経費 | その家賃を収入に計上した年に遡って収入から除く(更正の請求) |
| 建物の取壊し・除却損 | 全額が経費 | その年の不動産所得の金額を限度に経費(赤字にはできない) |
| 利子税 | 延納に係る利子税の一部を経費にできる | できない |
| 個人事業税 | 一定規模以上で課税(神奈川県は貸付の規模の基準あり。税率5%、事業主控除290万円) | 原則かからない |
事業的規模に当たるかどうかは、青色申告特別控除の差(65万円と10万円)として毎年の税額に直接響きます。物件を買い増して10室に達した年、逆に売却して10室を下回った年は、申告の扱いが変わる点に注意してください。なお、不動産所得の赤字は原則として給与所得など他の所得と損益通算できますが、土地の取得に係る借入金利息の部分は通算できません。
資産管理会社に移すメリット・デメリットの概観
不動産所得が増えてくると、所得税・住民税の累進税率(最高55%)の負担が重くなり、法人(資産管理会社)で不動産を持つ選択肢が出てきます。方式は、法人が物件を所有する「所有型」、個人が所有したまま法人に管理を委託して管理料を払う「管理型」、法人が一括で借り上げて転貸する「サブリース型」の3つがあり、効果と手間は大きく異なります。
| 観点 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 税率 | 法人税等は所得800万円以下でおおむね23%前後、個人の累進税率より低くなる水準がある | 所得が小さいうちは個人のほうが税負担が軽い。均等割(年7万円程度)と申告費用が毎年かかる |
| 所得の分散 | 家族を役員にして役員報酬を払い、給与所得控除と累進税率の分散が可能 | 勤務実態と報酬額の妥当性が必要。社会保険料の負担が発生 |
| 相続対策 | 不動産を法人が持てば、相続財産は不動産ではなく株式になり、評価や分割の設計がしやすい | 株式の評価は法人の純資産で決まり、効果は時間とともに出る。設立直後に効果が出るわけではない |
| 移転コスト(所有型) | — | 個人から法人へ建物を売却すると、個人に譲渡所得税、法人に登録免許税・不動産取得税がかかる。土地は個人のまま法人に貸す(無償返還の届出)形が多い。融資の引き継ぎに金融機関の承諾が必要 |
| 管理型・サブリース型 | 移転コストがかからず始めやすい | 管理料・転貸差額は実態に見合う水準(一般的な管理料・サブリースの相場)でなければ否認のリスク。節税効果は限定的 |
目安として、不動産所得(他の所得と合わせた課税所得)が継続して900万円を超えるあたりから、法人化の効果が移転コストを上回り始めることが多いですが、物件の含み益、借入の状況、家族構成、相続の時期によって結論は変わります。詳しい損益分岐の考え方は「個人事業主の法人化はいくらから?」が参考になります(事業所得向けの比較ですが、考え方は共通です)。相続時の不動産の評価や売却時の税金は「相続税申告の必要書類」「不動産を売却したときの確定申告」をご覧ください。
確定申告で用意する資料
- 収入の資料:賃貸借契約書(新規・更新分)、家賃の入金記録(通帳、管理会社の送金明細・年間収支報告書)、礼金・更新料の受領記録、敷金の預り状況の一覧。
- 固定資産税・保険:固定資産税・都市計画税の納税通知書(課税明細書)、火災保険・地震保険の保険料の明細。
- 管理・修繕:管理委託契約書と管理料の明細、修繕工事の見積書・請求書・領収書(工事内容が分かるもの)、区分マンションの管理費・修繕積立金の支払記録。
- 借入金:金融機関の返済予定表(年間の利息と元本の内訳)、借入時の契約書(土地・建物の資金使途の区分が分かるもの)。
- 減価償却:物件の売買契約書(土地・建物の金額、消費税額)、新築の場合は工事請負契約書と内訳書、前年の申告書の減価償却費の計算明細(2年目以降)、資本的支出の工事資料。
- その他の経費:交通費の記録、通信費・書籍代の領収書、税理士報酬、立退料・仲介手数料の資料。
- 申告全般:前年の申告書控え、青色申告決算書(不動産所得用)、マイナンバーカード、各種控除証明書、他の所得(給与・年金)の源泉徴収票。
初年度は特に、物件の取得価額の土地・建物の区分と、建物・設備の区分を正しく決めることが、その後20〜40年の償却費を決めます。相続で引き継いだ物件は、亡くなった方の取得価額・取得時期・償却の残額を引き継ぐため、相続税申告書や過去の確定申告書が必要です。当事務所の税務顧問・確定申告サポートでは、初年度の償却設計と経費の範囲の整理、2年目以降の申告、法人化の試算まで対応しています。
「不動産オーナーの確定申告」に関するよくある質問
事業的規模ではないため青色申告特別控除は10万円ですが、それでも白色申告より10万円分の所得が減り、純損失の繰越控除(赤字を翌年以降3年間繰り越す)も使えます。帳簿は簡易な記帳で足ります。青色申告の承認申請は、青色にしたい年の3月15日まで(その年に新たに貸付を始めた場合は開始から2か月以内)に提出します。
法定耐用年数22年を全部経過している木造住宅は、簡便法で22年×20%=4年(1年未満切捨て)で償却します。一部経過している場合は「(22年−経過年数)+経過年数×20%」です。取得価額のうち土地と建物の区分が償却費を左右するため、契約書の内訳や固定資産税評価額の比などで合理的に区分し、根拠を残してください。購入後に取得価額の50%を超える大規模改修をした場合は簡便法が使えず、法定耐用年数などで計算します。
不動産所得の赤字は原則として給与所得など他の所得と損益通算でき、源泉徴収された所得税が還付されることがあります。ただし、赤字のうち土地の取得に係る借入金利息の部分は通算できません。また、減価償却費による赤字は現金の流出がない赤字なので、手元資金は減っていないことが多い一方、償却が終わると黒字に転じて税負担が上がる点を見込んでおいてください。
最初に確認するのは、①物件の含み益(法人に売却すると個人に譲渡所得税がかかる)、②借入金の残高と金融機関の承諾、③法人の登録免許税・不動産取得税、④個人と法人を合わせた毎年の税負担と維持費の比較、⑤相続までの想定期間、の5点です。移転コストが大きい場合は、土地は個人のまま建物だけ法人に移す、新規に取得する物件から法人で持つ、管理型から始める、といった段階的な方法も検討します。
「不動産オーナー・資産管理会社の確定申告」まとめ
- 不動産所得=家賃等の総収入−必要経費。経費は固定資産税・保険料・管理費・修繕費・借入利息・減価償却など。元本返済・自宅部分・所得税は経費にならない
- 修繕費と資本的支出は「維持・原状回復か、価値の増加か」で区分し、20万円未満・3年周期・60万円未満等の形式基準も使う
- 減価償却は定額法。土地と建物、建物と設備を区分し、中古は簡便法(全部経過は法定×20%、一部経過は(法定−経過)+経過×20%)
- 事業的規模(5棟10室・駐車場約50台)なら65万円控除・専従者給与・貸倒れや除却損の全額経費が使え、未満なら10万円控除。土地取得分の利息は損益通算不可
- 資産管理会社は税率・所得分散・相続の面で効果があるが、移転コスト・維持費・社会保険を含めて比較する。課税所得900万円超が検討の目安の一つ
不動産所得の確定申告と資産管理会社の検討は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「初年度の減価償却の設計を任せたい」「修繕費か資本的支出か判断してほしい」「資産管理会社に移すべきか試算したい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内の不動産オーナー・資産管理会社を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
税務・申告に関するご相談を承ります。
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