配偶者の税額軽減(1億6,000万円)の使い方と二次相続の考え方|分け方で総額はどう変わる?

横浜市で相続税申告のサポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「配偶者が全部相続すれば相続税はゼロになると聞いた」「でも二次相続で損をすると言われた」「結局どう分けるのがいいのか」――父が亡くなり、母と子が相続人になる「一次相続」で、最も多いご相談です。配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した財産が1億6,000万円までなら相続税がかからないという大きな特例ですが、「とりあえず配偶者が全部」と決めてしまうと、母が亡くなる二次相続で税額が大きく増え、一次・二次を合計すると損になることがよくあります。
この記事では、配偶者の税額軽減の仕組みと申告要件、一次・二次相続を通算した税額の比較例(配偶者100%/法定相続分/子に多め)、二次相続で税額が増える理由、配偶者の生活資金・老後の安心を優先する考え方とのバランス、分け方を決める前に税理士に相談する意味を解説します。本記事は2026年11月6日時点の相続税法に基づき、計算例はすべて仮定例です。
配偶者の税額軽減の仕組みと申告要件
配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した財産の課税価格が、「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからないという制度です(相続税法19条の2)。たとえば遺産が3億円で配偶者の法定相続分が2分の1(1億5,000万円)なら1億6,000万円まで、遺産が5億円なら法定相続分の2億5,000万円まで、配偶者の取得分に税金はかかりません。
適用には次の要件があります。
- 戸籍上の配偶者であること:内縁関係は対象外です。婚姻期間の長短は問いません。
- 相続税の申告書を提出すること:軽減の結果、税額がゼロになる場合でも申告が必要です。
- 遺産分割が成立していること:配偶者が取得する財産が確定している必要があります。申告期限までに未分割の場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して法定相続分で申告し、分割後4か月以内に更正の請求で適用します(「相続税申告の流れと10か月のスケジュール」)。
- 隠していた財産には使えない:税務調査で見つかった仮装・隠蔽の財産は軽減の対象外です。
一次・二次相続を通算した税額の比較例(仮定例)
前提:父が亡くなり、相続人は母と子2人。父の遺産は1億円(すべて金融資産とし、小規模宅地等の特例は考慮しません)。母はもともと2,000万円の財産を持っており、二次相続(母の死亡)までに財産の増減はないものとします。一次相続の基礎控除は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)、二次相続の基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)です。一次相続の相続税の総額は、法定相続分で按分して計算すると630万円になります(母2,600万円×15%−50万円=340万円、子1,300万円×15%−50万円=145万円×2人)。この総額を、実際の取得割合で各相続人に按分し、母の分は配偶者の税額軽減でゼロになります。
本文の仮定例(父の遺産1億円、母の財産2,000万円、子2人)で、一次・二次相続を通算した税額です。
- パターンA:母が100%取得:一次相続の税額は、母の分630万円が全額軽減されて0円。二次相続では母の財産が1億2,000万円(2,000万円+1億円)になり、課税遺産7,800万円を子2人で分けて税額1,160万円(3,900万円×20%−200万円=580万円×2人)。合計1,160万円。
- パターンB:法定相続分(母5,000万円、子2,500万円ずつ):一次相続は子2人分の315万円(630万円×50%)。二次相続は母の財産7,000万円、課税遺産2,800万円で税額320万円(1,400万円×15%−50万円=160万円×2人)。合計635万円。
- パターンC:子に多め(母3,000万円、子3,500万円ずつ):一次相続は子2人分の441万円(630万円×70%)。二次相続は母の財産5,000万円、課税遺産800万円で税額80万円(400万円×10%×2人)。合計521万円。
この仮定例では、一次相続で税額ゼロになるパターンAが、通算では最も税額が多くなります。母の取得額を二次相続の基礎控除の範囲に収まる程度(この例では母の財産が4,200万円以下、つまり母の取得額が2,200万円程度)にすると、二次相続の税額がゼロになり、通算の税額は最も小さくなります(約491万円)。ただし、これはあくまで税額だけを見た計算で、母の生活や意向を無視して決められるものではありません。
二次相続で税額が増える理由
- 基礎控除が減る:相続人が1人減るため、基礎控除が600万円少なくなります。
- 配偶者の税額軽減が使えない:二次相続では相続人が子だけなので、取得した財産にそのまま税金がかかります。
- 相続人の数が減り、税率が上がる:相続税は法定相続分で按分してから税率をかけるため、人数が少ないほど1人あたりの金額が大きくなり、高い税率が適用されます。
- 母自身の財産が合算される:母がもともと持っていた財産に、一次相続で取得した分が上乗せされます。
- 小規模宅地等の特例が使いにくい:一次相続で自宅を母が取得した場合、二次相続では子が同居していないと特例が使えないことがあります(「小規模宅地等の特例の基本」)。
逆に、一次相続で子が多く取得すると一次の税額は増えますが、その分は二次で課税されないため、通算では有利になることが多い、というのが上の比較例の結論です。なお、一次相続で税金を納めた母が10年以内に亡くなった場合には、一次で納めた税額の一部を二次の税額から差し引く「相次相続控除」がありますが、配偶者の税額軽減で母の税額がゼロだった場合はこの控除も生じません。
配偶者の生活資金と老後の安心とのバランス
税額だけを見れば「子に多く」が有利でも、実際の分け方では次の点を優先して考える必要があります。
- 配偶者の生活費・介護費用:母がこれから何年生活し、介護施設の費用がいくらかかるかを見込み、母が自由に使える預貯金を十分に確保します。子に渡した財産を後から母の生活費に使うのは簡単ではありません。
- 自宅をどうするか:母が住み続ける自宅は母が取得するのが自然ですが、同居の子がいれば子が取得して小規模宅地等の特例を使い、母には預貯金を多めに、という分け方もあります。母の居住を守りながら所有権を子に移す「配偶者居住権」という選択肢もあります。
- 二次相続までの時間を使う:母が取得した財産は、その後の生前贈与(暦年贈与や相続時精算課税)や、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の活用などで、二次相続の負担を減らすことができます。一次相続で母が多めに取得しても、その後の対策で調整する余地はあります。
- 家族の納得:税額の有利不利だけで分け方を決めると、後々の家族関係に影響します。母の意向と子の事情を踏まえた分け方を、数字を見ながら話し合うことが大切です。
分け方を決める前に税理士に相談する意味
一次相続の遺産分割は、一次の税額だけでなく、二次相続の税額、母の生活資金、小規模宅地等の特例の使い方、今後の贈与計画まで含めて決めるものです。当事務所では、ご家族の財産の全体像を伺ったうえで、複数の分け方について一次・二次を通算した税額の試算をお出しし、家族会議の材料として使っていただいています。遺産分割協議書の作成(行政書士として対応)までサポートしますので、分け方が決まる前にご相談いただくのが最も効果的です。サービスと料金は相続税申告サポートのページをご覧ください。
まとめ:一次で税額ゼロが通算で最も高くなることがある
配偶者の税額軽減は、配偶者の取得分が1億6,000万円または法定相続分までなら相続税がかからない制度で、申告と遺産分割の成立が要件です。しかし配偶者が全部取得すると、二次相続では基礎控除の減少、配偶者軽減の不適用、税率の上昇、母自身の財産の合算により税額が大きく増え、仮定例では通算で2倍以上の差が出ました。母の生活資金と自宅の確保を優先しつつ、二次相続の基礎控除や今後の贈与・保険の活用も含めて、分け方を決める前に試算することをおすすめします。
「配偶者の税額軽減と二次相続」まとめ
- 配偶者の取得分は1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い額まで税額ゼロ。申告書の提出と遺産分割の成立が要件(税額ゼロでも申告)
- 仮定例(遺産1億円・母と子2人・母の固有財産2,000万円):母100%=通算1,160万円、法定相続分=635万円、子に多め(母3,000万円)=521万円
- 二次相続で増える理由:基礎控除600万円減、配偶者軽減なし、相続人減で税率上昇、母の固有財産の合算、小規模宅地が使いにくい
- 母の取得額を二次の基礎控除内に収めると二次の税額ゼロになるが、生活費・介護費用の確保が優先
- 自宅は配偶者居住権や同居の子の取得(小規模宅地)、二次までの贈与・生命保険の非課税枠で調整できる
- 分け方を決める前に一次・二次通算の試算を取り、家族会議の材料にする
「配偶者の税額軽減と二次相続」に関するよくある質問
二次相続までの期間が短いと見込まれる場合、母が多く取得しても、その後の贈与などで調整する時間が少なく、二次相続の税負担が大きくなりやすいため、税額の面では子が多めに取得する分け方が有利になることが多いです。ただし、母の介護費用や施設の入居費用がすぐに必要になる可能性もあるため、母名義で確保しておく預貯金の額は慎重に決める必要があります。また、母が一次相続から10年以内に亡くなった場合、一次で子が納めた税金ではなく「母が納めた税金」が相次相続控除の対象になるため、母の税額がゼロだとこの控除は使えません。期間の見込みと生活費の両方を踏まえて試算することをおすすめします。
軽減を使うこと自体が調査の理由になるわけではありません。ただし、配偶者の税額軽減は仮装・隠蔽された財産には適用されないため、申告から漏れた財産(名義預金など)が調査で見つかった場合、その財産に対しては軽減が使えず、本来の税額に加算税が加わります。「配偶者が全部取得して税額ゼロだから、財産の把握は大まかでよい」という考え方は危険です。軽減を使う場合でも、亡くなった方の財産(家族名義の口座を含む)を正確に把握して申告することが前提になります。相続税の調査で見られる点は「相続税の税務調査とは?」をご覧ください。
遺言があっても、相続人全員(この場合は母と子)が合意すれば、遺言と異なる内容で遺産分割をすることは可能です(遺言執行者がいる場合はその同意も必要になることがあります)。ただし、遺言どおり母が財産を取得したうえで後から母が子に渡すと、母から子への贈与になるため、分け方を変えるなら相続人全員による遺産分割協議の段階で行う必要があります。遺言どおり母が全部取得する場合は、二次相続に向けて、暦年贈与・相続時精算課税・生命保険などの対策を早めに検討してください。生前贈与の制度は「生前贈与加算は7年へ|2024年以降の贈与と相続時精算課税の選び方」で解説しています。
一次・二次相続を通算した試算は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「配偶者がどれだけ取得するのがいいか」「二次相続の税額を知りたい」「分け方を決める前に相談したい」など、相続税のことなら、お気軽にご相談ください。横浜市内の方を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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