法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?個人と法人の資金の区分と準備

横浜市で法人の税務調査の事前準備と立会いをお手伝いしている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「会社の調査なのに、社長個人の通帳も見せないといけないのか」「役員貸付金が膨らんでいるが、調査で何を言われるのか」「生活費や家族の支出を会社の口座から払ってしまっていた」――ひとり社長や家族経営の法人では、会社のお金と社長個人のお金の境目があいまいになりやすく、税務調査ではまさにその境目が確認されます。この記事では、法人の税務調査で社長個人の口座や資産が確認対象になる理由と範囲、役員貸付金・役員借入金が生じる典型パターンと指摘されやすい点、個人の支出を会社で払っていた場合の整理の仕方、調査前にできる区分の整理、役員貸付金の解消の考え方を解説します。本記事は2026年11月6日時点の法人税法・所得税法と国税庁の公表資料に基づいています。
法人調査で社長個人の口座が確認対象になる理由と範囲
税務調査は、調査官が「調査について必要があるとき」に帳簿書類その他の物件を検査し、質問できる権限(質問検査権)に基づいて行われます。法人の調査であっても、会社の取引が社長個人の口座を通っている可能性がある場合、たとえば次のようなケースでは、社長個人の口座が確認の対象になります。
- 売上の一部が社長個人の口座に振り込まれている可能性がある(取引先からの入金、現金売上の入金)。
- 会社の口座から社長個人の口座へ、役員報酬以外の資金移動がある(役員貸付金の資金の流れ)。
- 社長から会社への貸付(役員借入金)があり、その原資がどこから来たのかを確認する必要がある。
- 会社の経費として処理された支出の支払先が、社長や家族の個人口座になっている。
会社の取引と関係のない純粋な個人の口座まで無条件に見せる義務はありませんが、「関係があるかどうか」を判断するために提示を求められることはあり、提示を断った場合でも、調査官は金融機関への反面調査で入出金を確認できます(「反面調査とは?」)。実務上は、会社の資金が動いている個人口座については、提示を前提に事前に内容を整理しておくほうが、調査が短く済みます。
国税庁が公表した事例:売上代金を代表者の個人口座に入金させていた法人
国税庁は、AIを活用した予測モデルで調査の必要性が高い法人を抽出し、想定される不正パターンを判定したうえで、申告書や資料情報とあわせて調査官が調査の要否を判断しています。令和6事務年度の公表資料では、この取組で把握した事例の一つとして、売上代金を代表者の個人口座に入金させることで売上げを除外していた法人が挙げられており、追徴税額(法人税・消費税)は約1億円でした。
会社の取引の入金が社長個人の口座にある場合、その口座は売上の確認の対象になります。入金の経緯と会社の帳簿への計上を説明できるようにしておくことが大切です。
出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(Ⅱ 主要な取組 1 AI・データ分析を活用した事例(その他の事例)事例2)
役員貸付金・役員借入金が生じる典型パターンと指摘されやすい点
役員貸付金は「会社が社長に貸しているお金」、役員借入金は「社長が会社に貸しているお金」です。どちらも契約書を作って意図的に貸し借りしたというより、日々の処理の結果として帳簿上に積み上がっていることがほとんどです。
どちらも日々の処理の結果として、帳簿に積み上がっていることがほとんどです。
役員貸付金が生じるパターン
- 使途が説明できない出金:会社の口座から引き出した現金の使い道が分からず、帳簿上の現金残高が実際より多くなり、差額を役員貸付金で調整している。
- 個人の支出を会社の口座・カードで払った:家族の食事、私的な旅行、自宅の家賃、個人の保険料や税金などを会社が負担し、経費にできないため役員貸付金に振り替えている。
- 役員報酬を超える生活費の引き出し:定期同額給与として決めた役員報酬では足りず、その都度会社から引き出している。
調査で指摘されやすいのは、第一に「認定利息」です。会社が役員に無利息または低い利率で貸し付けている場合、適正な利率との差額が会社の受取利息の計上漏れ(社長側は給与)として扱われます。国税庁の基準では、会社が借入をしていればその借入利率、そうでなければ貸付を行った年に応じた利率(2022〜2025年は0.9%、2026年は1.3%)が目安で、差額が年5,000円以下なら給与課税はされません。第二に「役員賞与の認定」です。返済の見込みがなく、契約書も返済もない「貸付金」は、実質的には社長への給与と判断されることがあり、その場合は定期同額給与に当たらないため会社の損金にならず、社長側では給与として源泉所得税の対象になります。
役員借入金が生じるパターン
- 設立時や資金不足時に社長が個人資金を入れた:正当な借入ですが、原資が分かる記録(社長の個人口座からの振込)がないと説明に困ります。
- 社長が立て替えた経費を精算していない:立替精算の未払いが役員借入金として積み上がっている。
- 売上の入金を社長個人の口座で受けて、後から会社に入れた:形式上は役員借入金ですが、調査では売上の計上漏れの有無が確認されます(「税務調査で売上の除外はどう把握される?」)。
役員借入金そのものに税務上の問題はありませんが、「社長はそのお金をどこから得たのか」が確認され、社長の役員報酬や個人の資産状況と比べて不自然に多い場合は、個人口座への売上入金が疑われます。
個人の支出を会社で払っていた場合の整理
調査前に帳簿を見直して、個人の支出が会社の経費に入っていることに気づいた場合は、次の順番で整理します。
- 内容を仕分ける:明らかに個人の支出(家族の生活費、私的な旅行、個人の税金・保険料)と、事業と個人が混ざった支出(自宅兼事務所の費用、車、通信費)に分けます。混ざった支出は合理的な割合で按分します(考え方は「家事関連費の按分の決め方」と同じです)。
- 処理を決める:個人の支出は、支出時の合意や返済の実態から社長に返済義務があるといえるものは役員貸付金(契約書と返済計画を整え、返済の実績を残す)、そうでないものは役員給与(会社が個人的費用を負担した経済的利益)として処理し直します。どちらに当たるかは、後から契約書を作ったかどうかではなく実態で判断されます。給与とする場合は源泉所得税の納付と、原則として損金不算入による法人税の修正が必要になります。
- 調査前に修正申告するか判断する:金額が大きい場合は、調査前に自主的に修正申告をすることで、過少申告加算税が課されない、または軽減される可能性があります(「自主的修正申告で加算税はどう変わる?」)。経費の線引きを調査官がどう見るかは「税務調査で経費はどこまで認められる?」をご覧ください。
調査前にできる区分の整理
- 口座とカードの分離:会社の口座・法人カードは会社の取引だけに使い、個人の支出は役員報酬が振り込まれた個人口座から払います。すでに混ざっている期間は、通帳に「個人」「会社」の印をつけて区分しておきます。
- 役員報酬の決め方の記録:役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決め、株主総会議事録(または取締役の決定書)を残します。定期同額給与の要件を満たしていることが、生活費を会社から引き出さなくて済む前提になります。
- 立替精算のルール:社長が個人で立て替えた経費は、月1回、精算書と領収書をもとに会社から社長に振り込む運用にします。精算書が残っていれば、役員借入金の内容も説明できます。
- 貸付金・借入金の契約書:役員貸付金には金銭消費貸借契約書、利率、返済期日を定め、役員借入金には社長の個人口座からの振込記録を残します。株主総会の承認(利益相反取引)も記録します。
- 現金出納帳:現金の出入りを日々記録し、帳簿残高と実際の現金が合っていることを月末に確認します。現金残高の不一致が役員貸付金の最大の発生源です。
相続・事業承継にもつながる役員貸付金の解消の考え方
役員貸付金は、税務調査の論点であると同時に、金融機関の融資審査で「会社の資金が社長個人に流れている」とマイナスに見られ、相続や事業承継の場面では会社の資産として株価を押し上げる要因にもなります。解消の方法としては、役員報酬の見直しによる計画的な返済、社長の個人資産(不動産・保険の解約返戻金など)による返済、退職時の退職金との相殺などがあります。会社が貸付金を放棄する方法もありますが、その場合は社長への給与(役員賞与)として扱われ、会社の損金にならず社長側で所得税がかかるため、安易には選べません。
逆に役員借入金は、社長に相続が起きたときに額面で相続財産になります。会社の業績が厳しく返済の見込みがない借入金でも相続税の対象になるため、生前に返済・債権放棄・資本への振替(DES)などを検討する必要があります。どの方法にも税負担と手続きが伴うため、金額が大きくなる前に、毎年の決算のタイミングで方針を決めておくことをおすすめします。
当事務所では、法人の税務調査の事前準備として、社長個人の口座と会社の資金の流れを整理し、役員貸付金・借入金の説明資料を一緒に作っています。調査の流れと依頼のタイミングは「税務調査の連絡を受けてから税理士に依頼するまで」、サポートの内容は税務調査サポートのページをご覧ください。
まとめ:境目を説明できる資料を整え、役員貸付金は毎年の決算で方針を決める
法人の税務調査では、会社の資金が動いている社長個人の口座は確認の対象になり、提示を断っても反面調査で確認されます。役員貸付金は認定利息と役員賞与認定、役員借入金は原資の説明が論点です。個人の支出を会社で払っていた場合は、貸付(契約書・返済計画)か給与(源泉・損金不算入)かを実態に応じて整理し、金額が大きければ調査前の修正申告も検討します。口座とカードの分離、役員報酬の議事録、立替精算のルール、契約書、現金出納帳がそろっていれば、調査は短く済み、融資や相続の場面でも説明に困りません。
「法人の税務調査と社長個人の口座・役員貸付金」まとめ
- 会社の取引が通る個人口座は確認対象。断っても金融機関への反面調査で確認される
- 役員貸付金の発生源:使途不明の出金、個人支出の会社払い、役員報酬を超える引き出し。論点は認定利息(2026年の基準利率1.3%、差額年5,000円以下は不課税)と役員賞与認定
- 役員借入金の論点は原資。個人口座に売上を入れていないかが確認される
- 個人支出は「貸付(契約書・返済計画)」か「給与(源泉・損金不算入)」かを実態に応じて整理。大きければ調査前の修正申告を検討
- 調査前の整理:口座・カード分離、役員報酬の議事録、月次の立替精算、貸付・借入の契約書、現金出納帳
- 役員貸付金は融資・株価にも影響。報酬見直し・個人資産・退職金での解消を毎年の決算で検討。役員借入金は相続財産になる
「社長個人の口座と役員貸付金」に関するよくある質問
会社の取引とまったく関係のない個人の口座であれば、提示する義務はありませんが、「関係があるかどうか」を調査官が確認する必要があると判断した場合、提示を求められることは認められています。正当な理由なく検査を拒んだ場合の罰則もあるため、「関係がない」と主張する場合は、その根拠(役員報酬の受取口座で会社の資金移動がない、など)を説明する必要があります。断った場合でも金融機関への反面調査で入出金は確認されるため、実務上は、税理士と相談のうえで、会社の資金が動いている口座は整理して提示し、純粋に個人の口座は関係がないことを説明する、という対応が現実的です。
金額だけで給与と認定されるわけではありません。貸付として扱われるかどうかは、契約書の有無、利息の計算、返済の実績と計画、社長の返済能力などを総合して判断されます。契約書を作り、適正な利率で利息を計上し、役員報酬から毎月一定額を返済している実績があれば、貸付金として扱われるのが通常です。逆に、何年も残高が増え続け、返済が一度もなく、利息も計上していない場合は、給与と認定されるリスクが高まります。調査の前に契約書と返済計画を整え、認定利息を計上しておくことが有効です。
家族が実際に役員として職務を行い、その職務内容に見合った金額であれば問題ありません。調査では、その家族が実際に何をしているか(業務内容、出勤状況、決裁への関与)と、同業同規模の会社の役員報酬と比べて過大でないかが確認され、職務の実態がない、または過大な部分は損金に算入されません。家族の役員報酬も定期同額給与の要件(事業年度開始から3か月以内の決定、毎月同額)を満たす必要があります。職務内容を記録した書類(議事録・業務分担表)と、報酬額の決め方の根拠を残しておいてください。
法人の税務調査・役員貸付金のご相談は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「調査の連絡が来たが、個人の口座と会社の資金が混ざっている」「役員貸付金の整理の仕方を相談したい」「調査前に帳簿を点検してほしい」など、法人の税務調査のことなら、お気軽にご相談ください。横浜市内のひとり社長・家族経営の法人を中心に、代表税理士が直接対応します。顧問契約は不要です。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
税務・申告に関するご相談を承ります。
「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
どんなことでも一人で悩まずご相談ください。横浜市密着の岩本隆一税理士事務所が、税務・申告についてサポートします。
ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。LINEでのご相談も承ります。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。
お電話でのご相談
045-900-6098
電話受付:平日9〜17時、土日祝・夜間は事前予約
横浜市地域密着・
スピード対応
横浜市全域対応
横浜市全域
鶴見区、神奈川区、西区、中区、南区、港南区、保土ケ谷区、旭区、磯子区、金沢区、港北区、緑区、青葉区、都筑区、戸塚区、栄区、泉区、瀬谷区
※横浜市地域密着で対応しております。資料のやり取りは郵送やデータ共有でも可能です。








