インボイス制度後の消費税の税務調査|登録番号・帳簿と請求書の保存要件・仕入税額控除の確認点

横浜市で税務調査の事前準備と立会いをお手伝いしている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「インボイス制度が始まってから、消費税の調査では何を見られるのか」「帳簿と請求書の保存はどこまで必要なのか」「取引先の登録番号は確認しないといけないのか」――2023年10月のインボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始から3年が経ち、インボイス制度後の期間を対象にした税務調査が本格化しています。消費税の仕入税額控除は「帳簿」と「適格請求書(インボイス)」の両方の保存が要件になったため、所得税・法人税の調査と同時に、請求書の記載事項や保存状況が具体的に確認されるようになりました。
この記事では、仕入税額控除の要件と調査で確認されるポイント、登録番号の確認と免税事業者からの仕入れの経過措置、売上側の確認点、簡易課税・2割特例・3割特例を選んでいる場合の確認点、帳簿の記載不備で起きやすい指摘と直し方を整理します。経理の自己点検にもお使いください。本記事は2026年11月6日時点の消費税法と国税庁の公表資料に基づいています。
仕入税額控除の要件と調査で確認されるポイント
本則課税(一般課税)で仕入税額控除を受けるには、原則として「一定の事項を記載した帳簿」と「適格請求書(または適格簡易請求書、仕入明細書など)」の両方を、課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります。調査では、次の点が確認されます。
本則課税で仕入税額控除を受けている場合に、調査で確認される主な点です。
- 請求書に登録番号があるか:登録番号(T+13桁)のない請求書・領収書で全額控除していないか。登録番号のない仕入れは、経過措置(後述)の対象になる場合を除き、仕入税額控除ができません。
- 適格請求書の記載事項がそろっているか:発行者の氏名・名称と登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率対象品目はその旨)、税率ごとに区分した合計額と適用税率、税率ごとの消費税額、交付を受ける者の氏名・名称の6項目です。小売業・飲食業・タクシーなどが発行する適格簡易請求書は、交付を受ける者の氏名と「税率ごとの消費税額または適用税率」のいずれかが省略できます。
- 帳簿の記載事項:相手方の氏名・名称、取引年月日、取引内容(軽減税率対象の旨)、対価の額。会計ソフトの摘要欄にこれらが入っていれば、別途の帳簿は不要です。
- 帳簿のみで控除できる取引の扱い:3万円未満の公共交通機関の運賃、従業員に支給する出張旅費・通勤手当、3万円未満の自動販売機での購入、郵便切手による郵便料金などは帳簿のみの保存で控除できますが、帳簿にその旨の記載が必要です。
- 少額特例:基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、税込1万円未満の仕入れについて、2029年9月30日まで帳簿のみの保存で控除できます。この特例を使えない規模の事業者が、1万円未満の領収書を「少額だから」と保存していないケースは指摘の対象になります。
- 電子で受け取ったインボイスの保存:メールやWebからダウンロードしたPDFの請求書は、電子帳簿保存法の電子取引データとして、データのまま保存することが原則です(「電子帳簿保存法の電子取引データ保存」)。
登録番号の確認と免税事業者からの仕入れの経過措置
取引先が適格請求書発行事業者かどうかは、請求書に記載された登録番号を国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。調査では、登録番号の記載された請求書で控除していても、その番号が実在しない、または登録が取り消された後の取引であることが確認されると、控除が否認されることがあります。継続的な取引先については、取引開始時と年1回程度、登録状況を確認しておくと安心です。
免税事業者など登録を受けていない事業者からの仕入れは、原則として仕入税額控除ができませんが、経過措置により、2023年10月1日から2026年9月30日までの仕入れは仕入税額相当額の80%を控除できます。2026年10月1日以後は、令和8年度税制改正で見直され、2026年10月1日から2028年9月30日までは70%、2028年10月1日から2030年9月30日までは50%、2030年10月1日から2031年9月30日までは30%となり、2031年10月1日以後は控除できません(改正前は2026年10月〜2029年9月が50%で終了でした)。同一の免税事業者からの仕入れが年1億円を超える部分は、2026年10月1日以後に開始する課税期間から経過措置の対象外です。この経過措置を使うには、区分記載請求書等と同様の記載事項のある請求書の保存に加え、帳簿に「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」など経過措置の適用を受ける旨を記載する必要があります。調査で多いのは、免税事業者からの仕入れを登録事業者からの仕入れと同じように100%控除している、2026年10月以降の仕入れに80%を適用している、帳簿に経過措置の旨の記載がない、といった指摘です。
売上側の確認点
- 適格請求書の交付と写しの保存:登録事業者は、課税事業者である取引先から求められたら適格請求書を交付する義務があり、交付した請求書の写し(データで可)を7年間保存します。請求書ソフトの発行履歴で足ります。
- 登録日からの課税:免税事業者が年の途中で登録した場合、登録日以後の売上から課税事業者になります。登録日前後の売上の区分が調査で確認されます。
- 返還インボイス:返品・値引き・販売奨励金など、売上の対価を返還した場合は返還インボイス(適格返還請求書)の交付が必要です。ただし税込1万円未満の返還については交付が不要です(振込手数料相当額の値引きなど)。
- 消費税額の端数処理:1枚の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理が原則です。商品ごとに端数処理をして合計している請求書は、記載事項を満たしていないと判断されるおそれがあります。
- 売上税額の計算方法:売上税額を適格請求書の消費税額の積み上げで計算する場合、仕入税額も積み上げ計算にする必要があります(売上を積み上げ、仕入を割戻しの組み合わせは不可)。
- 非課税・不課税売上の区分:住宅の家賃、受取利息、保険金など非課税・不課税の収入を課税売上に含めていないか、逆に課税売上を非課税として処理していないかが確認されます。
簡易課税・2割特例・3割特例を選んでいる場合の確認点
簡易課税や2割特例・3割特例を適用している場合、仕入れのインボイスの保存は仕入税額控除の要件ではありません(所得税・法人税の経費の証拠としては必要です)。その代わり、調査では「その特例を使える要件を満たしているか」と「売上の計算が正しいか」が確認されます。
- 簡易課税:事業区分(第1種〜第6種)とみなし仕入率が取引の内容に合っているか。たとえば製造業として第3種で計算している中に、加工賃を受け取る請負(第4種)や修理などのサービス(第5種)が混ざっていないか。複数の事業がある場合に区分ごとの売上を分けて計算しているか。基準期間の課税売上高が5,000万円を超える年に簡易課税を適用していないか。
- 2割特例:インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった方が、納付税額を売上税額の2割にできる特例で、2026年9月30日の属する課税期間まで(個人は2026年分まで)です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年、課税事業者選択届出書により2023年10月1日より前から課税事業者だった場合、課税期間を短縮している場合などは使えません。適用できない年に2割特例で申告していないかが確認されます。
- 3割特例:令和8年度税制改正で設けられた、個人事業者が2027年分・2028年分の納付税額を売上税額の3割にできる特例です。基準期間の課税売上高1,000万円以下などの要件を各年で判定します。法人は対象外です。詳しくは「3割特例とは?いつまで使える?」をご覧ください。
帳簿の記載不備で起きやすい指摘と直し方
- 相手方の名称が帳簿にない:摘要に「消耗品」「交通費」としか書かれていない。→ 会計ソフトの摘要に支払先の名称を入れる運用にし、過去分は請求書・領収書と突き合わせて補記する。
- 経過措置の旨の記載がない:免税事業者からの仕入れを帳簿上区別していない。→ 補助科目や摘要に「80%控除」「70%控除」など適用割合を記載し、会計ソフトの税区分を経過措置用に設定する。
- 帳簿のみ保存の特例の旨の記載がない:公共交通機関の運賃や出張旅費に「帳簿のみ保存」の旨がない。→ 摘要に「公共交通機関特例」「出張旅費特例」と記載する。
- 家賃など請求書が発行されない取引:口座振替の家賃で請求書がない。→ 登録番号などの記載事項のある契約書と、取引年月日が分かる通帳をセットで保存する。
- 立替金の精算:従業員や取引先が立て替えた経費を、立替者宛てのインボイスで控除している。→ 立替金精算書を保存し、インボイスの写しとセットにする。
- 税区分の誤り:軽減税率(8%)の飲食料品を10%で処理、非課税の取引を課税で処理。→ 会計ソフトの税区分を取引ごとに確認し、年1回は税区分別の集計表を点検する。
これらの不備は、1件ずつは小さくても、2〜3年分の調査で積み重なると納税額に影響します。消費税の調査で否認が生じた場合、所得税・法人税の修正と合わせて、過少申告加算税や延滞税の対象になります(「過少申告加算税とは?」)。インボイス登録後に申告をしていない場合の扱いは「インボイス登録後に無申告だとどうなる?」をご覧ください。
当事務所では、税務調査の事前準備として、インボイスの記載事項と帳簿の記載を年分ごとに点検し、経過措置や特例の適用の可否を確認しています。調査の流れと依頼のタイミングは「税務調査の連絡を受けてから税理士に依頼するまで」、サポートの内容は税務調査サポートのページをご覧ください。
国税不服審判所の公表裁決事例:帳簿の仕入先が「氏」だけで仕入税額控除が認められなかった例
医薬品卸売業の法人が、現金で行った仕入れについて、仕入帳や自社で作成した納品書に仕入先の「氏」だけを記載し、住所や電話番号も残していなかった事例です。調査では、調査担当職員が仕入先を特定するよう再三求めましたが、代表者は応じませんでした。
国税不服審判所は、帳簿等から仕入先を特定できず、法律が求める「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」の記載を欠くとして、これらの仕入れについて仕入税額控除を認めませんでした(平成6年12月12日裁決)。インボイス制度の前の事例ですが、帳簿に相手方の氏名・名称を記載する要件は現在の消費税法にもあり、摘要の記載不足が控除そのものに影響し得ることを示しています。
出典:国税不服審判所「平成6年12月12日裁決(裁決事例集No.48)」
まとめ:インボイス後の調査は「帳簿+請求書」と「特例の要件」が焦点
インボイス制度後の消費税の調査では、本則課税なら帳簿と適格請求書の両方の保存、記載事項、登録番号の有無、免税事業者からの仕入れの経過措置(80%は2026年9月まで、2026年10月以後は70%→50%→30%と段階的に縮小し2031年9月で終了)と帳簿への記載が確認されます。売上側は交付した請求書の写し、登録日以降の課税、返還インボイス、端数処理が焦点です。簡易課税・2割特例・3割特例を選んでいる場合は、事業区分や適用要件の判定が確認されます。帳簿の摘要に相手先と特例の旨を書く運用を整えるだけで、指摘の多くは防げます。
「インボイス制度後の消費税の税務調査」まとめ
- 本則課税の仕入税額控除は帳簿+適格請求書の両方を7年保存。登録番号・記載事項・帳簿の記載事項が確認される
- 帳簿のみで控除できる取引(公共交通機関3万円未満・出張旅費・自販機など)と少額特例(1万円未満、2029年9月まで、売上1億円以下)は帳簿にその旨の記載が必要
- 免税事業者からの仕入れは80%(〜2026年9月)→70%(2026年10月〜2028年9月)→50%(〜2030年9月)→30%(〜2031年9月)の経過措置(令和8年度改正)。帳簿に経過措置の旨を記載し、100%控除は不可
- 売上側は交付した請求書の写しの保存、登録日以降の課税、返還インボイス(1万円未満は不要)、税率ごとに1回の端数処理
- 簡易課税は事業区分、2割特例(〜2026年分)・3割特例(2027・2028年分、個人のみ)は適用要件の判定が確認される
- 摘要への相手先名・特例の旨の記載、税区分の年1回の点検で指摘の多くは防げる
「インボイス後の消費税調査」に関するよくある質問
法律上、受け取った請求書の登録番号を毎回確認する義務が明文で定められているわけではありませんが、登録番号が実在しない、または登録取消後の番号だった場合、その仕入れについて仕入税額控除が認められないリスクを負うのは受け取った側です。実務上は、新しい取引先と取引を始めるときに公表サイトで確認し、継続的な取引先は年1回程度まとめて確認する運用が現実的です。会計ソフトや請求書受領サービスには登録番号を自動照合する機能があるものもあり、取引件数が多い場合は活用を検討してください。
消費税の仕入税額控除の要件としては不要ですが、所得税・法人税の経費の証拠として、帳簿と領収書の保存は引き続き必要です(「帳簿・領収書は何年保存する?」)。また、簡易課税の調査では、事業区分の判定が正しいか、課税売上と非課税売上の区分が正しいかが確認されるため、売上側の請求書や契約書の保存は特に重要です。将来、設備投資などで本則課税に戻す場合は、その年から仕入れのインボイスの保存が必要になります。
2割特例は、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える年には使えません。たとえば2024年分の申告で2割特例を使ったが、2022年の課税売上が1,000万円を超えていた、という場合は、その年は本則課税または簡易課税(届出をしていれば)で計算し直す必要があります。調査で指摘される前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税がかからない、または軽減される可能性があります。年分ごとに基準期間の売上を確認し、該当する年があれば早めにご相談ください。
消費税・インボイスの税務調査のご相談は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「調査の連絡が来たが、インボイスの保存に不安がある」「経過措置や特例の適用が合っているか確認したい」「帳簿の記載を点検してほしい」など、消費税の調査のことなら、お気軽にご相談ください。横浜市内の個人事業主・法人の方を中心に、代表税理士が直接対応します。顧問契約は不要です。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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