持分あり医療法人の出資持分と相続|評価の考え方と持分なし医療法人への移行(認定医療法人制度)

持分あり医療法人の出資持分と相続|評価の考え方と持分なし医療法人への移行(認定医療法人制度)

横浜市で医療法人の設立・税務顧問・事業承継サポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。

「医療法人の出資持分は相続財産になるのか」「評価はどれくらいになるのか」「持分なし医療法人に移行したほうがよいのか」――持分あり医療法人(経過措置型医療法人)の理事長や後継者の方から、事業承継を考え始めた段階でよく受けるご相談です。持分あり医療法人は、長年の利益が法人内に蓄積されて出資持分の評価額が大きくなりやすく、相続のときに「現金化できない財産に多額の相続税がかかる」という問題が起きます。認定医療法人制度を使った持分なし医療法人への移行は、この問題への一つの答えですが、財産権を放棄するという重い判断を伴います。

この記事では、持分あり・持分なし医療法人の違いと現状、出資持分の相続税評価の考え方(類似業種比準・純資産)と評価額が大きくなる理由、持分なし医療法人への移行と認定医療法人制度(贈与税の非課税・運営要件・申請期限)、移行のメリット・デメリット(財産権の放棄・退社時の払戻し)、事業承継・M&Aを含めた選択肢と相談の進め方を解説します。本記事は2026年11月6日時点の医療法・相続税法・租税特別措置法・財産評価基本通達と国税庁タックスアンサーNo.4150に基づいています。非上場株式の評価の見直しは「非上場株式の評価の見直し」で解説しています。

持分あり・持分なし医療法人の違いと現状

医療法人(社団)には、出資者(社員)が法人の財産に対する権利(出資持分)を持つ「持分あり医療法人」と、持たない「持分なし医療法人」があります。2007年4月の医療法改正で持分あり医療法人の新設はできなくなり、既存の持分あり医療法人は「経過措置型医療法人」として当分の間存続が認められています。2026年時点でも、医療法人の過半数が持分あり医療法人です。

項目持分あり医療法人(経過措置型)持分なし医療法人
出資持分出資者は出資額に応じて法人の純資産に対する持分を持つ出資持分がない(基金制度を採る場合、基金の返還請求権のみ)
相続出資持分は相続財産。純資産に応じた評価額に相続税がかかる相続財産にならない(基金は拠出額で評価)
退社時社員が退社すると持分の払戻しを請求できる(出資額限度法人は出資額まで)。法人から多額の資金が流出するリスク払戻しなし
解散時残余財産は出資者に分配残余財産は国・地方公共団体・他の医療法人等に帰属
剰余金の配当禁止(医療法54条)禁止
新設2007年4月以降は不可現在設立できるのはこの形態のみ

剰余金の配当が禁止されているため、持分あり医療法人では利益が外部に出ず、純資産として法人内に積み上がります。この積み上がった純資産が出資持分の評価額になり、相続税の課題を生みます。

出資持分の相続税評価の考え方類似業種比準・純資産と評価額が大きくなる理由

出資持分の相続税評価は、取引相場のない株式の評価方法に準じて行います(財産評価基本通達194-2)。医療法人の規模(従業員数・総資産・医業収入)に応じて、類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせます。

  • 純資産価額方式:法人の資産を相続税評価額で評価し直し、負債を差し引いた純資産から、評価差額に対する法人税等相当額(37%)を控除した金額を、出資総額に対する持分の割合で按分します。簡単に言えば「法人を解散して財産を分けたら出資者に戻る金額」に近い評価です。
  • 類似業種比準方式:類似業種(医療法人は「その他の産業」)の株価を基に、法人の利益と純資産(簿価)を比準して評価します。医療法人は配当がないため、一般の会社の評価で使う「配当」の要素を除いて計算します。会社の規模に応じた斟酌率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5)を乗じます。
  • 規模区分による併用:大会社に当たる医療法人は類似業種比準方式(純資産価額も選択可)、中会社は両方式の併用(Lの割合0.9・0.75・0.6)、小会社は純資産価額方式(類似業種との併用も選択可)が原則です。多くのクリニック規模の医療法人は小会社または中会社に区分されます。
  • 出資額限度法人の場合:定款で退社時の払戻しを出資額までと定めていても、相続税評価は上記の方法で計算するのが原則で、評価額が出資額まで下がるわけではありません。

評価額が大きくなる理由は、①配当ができないため利益がすべて純資産に蓄積される、②医療法人は不動産・医療機器・現預金など資産を多く持つ、③出資者が理事長一人または家族数人に集中していることが多く、持分の大半が一人の相続財産になる、の三つです。たとえば出資額が1,000万円の医療法人でも、30年の運営で純資産が5億円になっていれば、出資持分の評価額は数億円規模になり得ます。この評価額は現金化できない(売却市場がない・配当もない)にもかかわらず、相続税の課税対象になります。

仮定例:理事長が出資持分の100%を持ち、純資産価額方式で評価した持分の評価額が3億円、他に自宅・預金が1億円、相続人が配偶者と子2人の場合、相続財産4億円に対する相続税の総額は約9,200万円(配偶者の税額軽減適用前の概算)になります。持分を相続する後継者が納税資金を用意できないと、法人からの借入れや持分の払戻し(法人の資金流出)に頼ることになります。

持分なし医療法人への移行と認定医療法人制度

持分あり医療法人は、定款を変更して持分なし医療法人に移行することができます。移行には全出資者の持分の放棄が必要で、放棄に伴って次の課税の問題が生じるため、これを手当てする制度が「認定医療法人制度」(持分の定めのない医療法人への移行計画の認定制度)です。

移行時の課税の問題認定医療法人制度による手当て
一部の出資者だけが持分を放棄すると、残りの出資者の持分の価値が増え、残りの出資者に贈与税(みなし贈与)がかかる認定医療法人では、移行計画に沿って全員が放棄することを前提に、放棄した出資者の相続人等に係る相続税の納税猶予・免除、贈与税の納税猶予・免除の特例がある
全員が持分を放棄すると、医療法人が贈与を受けたものとして、医療法人に贈与税がかかる(相続税法66条4項)認定医療法人が運営要件を満たしていれば、医療法人への贈与税は課されない(租税特別措置法70条の7の14)。移行後6年間、運営要件を維持し、毎年運営状況を報告する必要がある
相続が発生し、相続人が持分を取得した後に放棄する場合相続税の申告期限までに放棄すれば、その持分に係る相続税の税額控除(タックスアンサーNo.4177)。申告期限までに放棄できない場合は納税猶予の特例(No.4150)で、移行期限までに放棄すれば免除

制度の主な要件と期限(2026年11月6日時点)は次のとおりです。

  • 認定の申請期限:厚生労働大臣の認定を受けられる期間は、国税庁タックスアンサーNo.4150の記載により2029年(令和11年)12月31日までです(令和8年度税制改正で2026年12月31日から3年延長)。
  • 移行の期限:認定を受けた後、認定移行計画に定めた移行期限までに全出資者の持分放棄を完了します。移行計画の期間は制度の改正で変更されることがあるため、申請時に厚生労働省の最新の案内で確認します。
  • 運営要件(移行時・移行後6年間):①法人関係者(役員・社員・親族など)に特別の利益を与えないこと、②役員報酬が不当に高額でないこと、③役員のうち親族など特殊関係者が3分の1以下であること、④遊休財産(事業に使っていない財産)が事業費用相当額を超えないこと、⑤法令違反・帳簿書類の隠蔽などがないこと、⑥社会保険診療等の収入が全収入の80%超であること、⑦自費患者に対して社会保険診療と同一の基準で請求していること、⑧医業収入が医業費用の150%以内であること。
  • 手続きの流れ:社員総会で移行の意思決定→移行計画の作成・申請(厚生労働省)→認定→定款変更(所轄庁の認可)→全出資者の持分放棄→移行完了の報告→以後6年間の運営状況の報告。

運営要件のうち、医療法人で引っかかりやすいのは③(親族役員の割合)と①②(理事長一族への利益供与・報酬)です。理事長・配偶者・子が理事の大半を占める法人は、外部の理事・監事を迎えて構成を見直す必要があります。また、MS法人との取引や理事長個人からの不動産賃借が「特別の利益」に当たらないか(適正な対価か)の確認も必要です。

移行のメリット・デメリット財産権の放棄・退社時の払戻し

観点メリットデメリット・注意点
相続税出資持分が相続財産から外れ、持分に対する相続税の問題が解消する。後継者が納税資金に困らない認定医療法人の要件を満たさない移行では、法人に贈与税がかかる
財産権—出資者は持分(法人の純資産に対する権利)を放棄する。将来、法人を解散しても残余財産は出資者に戻らず、国等に帰属する。一度放棄すると元に戻せない
退社時の払戻し社員の退社による多額の払戻請求のリスクがなくなり、法人の財務が安定する出資者側から見れば、退社時に出資額相当を回収する手段がなくなる
事業承継後継者(親族・非親族を問わず)に持分の移転なしで理事長を引き継げる。承継のコストが下がる親族外承継の場合、法人の支配は社員総会の構成で決まるため、社員の選び方の設計が重要になる
運営の制約—移行後6年間は運営要件(親族役員3分の1以下、報酬の適正性、社会保険診療80%超など)を維持し、毎年報告する義務がある。要件を外れると法人に贈与税が課される
M&A・売却—持分なし医療法人では持分の売却という形の対価を得られない。法人を第三者に承継する場合、対価の受け方(退職金など)の設計が必要

判断の軸は、「持分の評価額に対する相続税の負担」と「財産権の放棄・将来の売却可能性」の比較です。後継者が決まっていて医療法人を長く続ける前提なら移行のメリットが大きく、将来M&Aで第三者に売却する可能性があるなら持分を残す選択も検討対象になります。

事業承継・M&Aを含めた選択肢と相談の進め方

持分あり医療法人の承継の選択肢は、移行だけではありません。主な選択肢を整理します。

  • ①認定医療法人制度を使って持分なしに移行する:後継者がいて法人を存続させる前提。相続税の問題を根本的に解消する。要件の整備(役員構成・報酬・取引)に時間がかかるため、申請期限(2029年12月31日)から逆算して早めに着手する。
  • ②持分ありのまま、生前に後継者へ持分を移す:贈与(暦年・相続時精算課税)や売買で後継者に持分を移す。評価額が高いと贈与税・譲渡所得税の負担が大きい。評価額が下がるタイミング(大型設備投資・退職金支給の年度)を計画的に使う方法がある。
  • ③持分ありのまま相続を迎え、相続税の納税猶予を使う:相続発生後に認定を受け、相続人が移行期限までに放棄して納税免除を受ける。ただし認定の申請期限内であること、相続後に要件を整えられることが条件。
  • ④第三者への承継(M&A):後継者がいない場合、持分の譲渡(持分あり)または理事長交代と退職金(持分なし)で第三者に承継する。承継先の確保と対価の設計に専門家の支援が必要。
  • ⑤個人クリニックへの戻し・解散:法人を解散すると残余財産は出資者に分配され(持分あり)、分配に所得税(みなし配当)がかかる。最終手段。

相談の進め方は、①現時点の出資持分の評価額を計算し、相続税の概算を把握する→②後継者の有無と承継の時期を確認する→③運営要件の充足状況(役員構成・報酬・親族取引・社保割合)を点検する→④移行・持分移転・M&Aの選択肢ごとに税負担と手続き期間を比較する→⑤社員総会・理事会で方針を決め、スケジュールを組む、という順序です。評価の計算には直近3期の決算書・固定資産の明細・保険契約の内容が必要になります。

持分あり医療法人の承継を考える順序

評価額の把握から方針の決定まで、次の順に検討します。

持分の評価額を計算現時点の出資持分の評価額を計算し、相続税の概算をつかみます。評価には直近3期の決算書などが必要です。
後継者と承継の時期を確認後継者がいるかどうかと、承継の時期を確認します。後継者の有無で、向いている選択肢が変わります。
運営要件を点検する役員構成・報酬・親族との取引・社会保険診療の割合など、認定医療法人の運営要件を満たしているか点検します。
選択肢ごとに比べる持分なしへの移行・生前の持分移転・M&Aなどの選択肢ごとに、税負担と手続きの期間を比べます。
方針と日程を決める社員総会・理事会で方針を決め、スケジュールを組みます。移行するなら認定の期限から逆算します。
認定医療法人の認定を受けられるのは2029年12月31日までです。要件の整備に時間がかかるため、早めに着手します。
出典:国税庁 タックスアンサーNo.4150。本文の説明を図にまとめたものです。

当事務所の医療法人設立・税務顧問サポートでは、出資持分の評価と相続税の試算、認定医療法人制度の要件点検と移行計画の作成支援、承継の選択肢の比較を行っています。相続が発生した後の相続税申告(「相続税申告の流れ」)と納税猶予の手続きもあわせて対応します。

「医療法人の出資持分と相続」に関するよくある質問

A.いいえ。出資持分の相続税評価は、出資額ではなく、法人の純資産(相続税評価額ベース)や利益を基に、取引相場のない株式の評価方法に準じて計算します。長年利益を積み上げた医療法人では、出資額の数十倍の評価額になることが珍しくありません。定款で払戻しを出資額限度にしている法人(出資額限度法人)でも、相続税評価は原則として同じ方法で計算されます。

A.使える可能性があります。相続税の申告期限(10か月)までに医療法人が認定を受け、相続人が持分を放棄すれば税額控除の特例が、放棄が申告期限後になる場合は納税猶予の特例(移行期限までに放棄すれば免除)が使えます。ただし、認定を受けるには運営要件(親族役員3分の1以下など)を満たす必要があり、申請から認定まで時間がかかるため、相続発生後すぐに着手する必要があります。認定の申請期限は2029年12月31日です。

A.出資持分としての財産権(退社時の払戻し・解散時の残余財産の分配)はなくなります。一方、理事長として法人から受ける役員報酬と、退任時の役員退職金は、移行後も適正な範囲で受け取れます。「法人の財産を持分として持つ」から「報酬と退職金として受け取る」形に変わる、と考えると分かりやすいです。報酬・退職金が不当に高額だと運営要件(特別の利益供与)に抵触するため、適正額の設計が必要です。

A.社会保険診療等の収入が全収入の80%超であることは運営要件の一つなので、現状では認定を受けられません。自由診療(美容・自費の補綴など)の割合が高い医療法人は、この要件が最大の壁になります。計算上、社会保険診療等には保険診療のほか労災・自賠責・公費負担医療・介護保険などが含まれ、分母の「全収入」の範囲にも細かい取扱いがあるため、まず正確に割合を計算し、要件を満たす見込みがあるか、他の選択肢(持分の生前移転・M&A)を検討するかを判断します。

「持分あり医療法人の出資持分と相続」まとめ

  • 持分あり医療法人(経過措置型)の出資持分は相続財産。配当禁止で利益が純資産に蓄積するため、出資額の数十倍の評価額になり、現金化できないのに相続税がかかる
  • 評価は取引相場のない株式に準じ、純資産価額方式と類似業種比準方式(配当要素を除く)を規模に応じて併用。出資額限度法人でも評価は下がらない
  • 認定医療法人制度(認定の申請期限は2029年12月31日)を使えば、全出資者の持分放棄による法人への贈与税が非課税、相続後の放棄は税額控除・納税猶予・免除。移行後6年間は運営要件(親族役員3分の1以下・報酬の適正性・社保80%超など)を維持し報告
  • 移行のメリットは相続税問題の解消と払戻しリスクの消滅、デメリットは財産権の放棄・運営の制約・M&Aでの対価設計の難しさ
  • 選択肢は移行・持分の生前移転・相続後の納税猶予・M&A・解散。持分評価と相続税の試算→後継者の確認→運営要件の点検→選択肢の比較の順で、申請期限から逆算して早めに着手する

医療法人の出資持分の評価と持分なし移行の検討は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。

「出資持分の評価額と相続税の見込みを知りたい」「認定医療法人の要件を満たせるか点検してほしい」「移行・持分移転・M&Aのどれが合うか比較したい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内の医療法人を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。

執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

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