社会福祉充実残額の計算と社会福祉充実計画|決算後に理事長が確認すること

横浜市で社会福祉法人・介護事業者のサポートを手掛ける、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「社会福祉充実残額って、結局うちの法人に関係があるのか」「毎年計算しないといけないのか」「残額が出たら何をすればいいのか」――決算の時期になると、理事長や事務長の方からこうしたご質問をいただきます。社会福祉充実残額は、平成29年(2017年)の社会福祉法改正で導入された仕組みで、すべての社会福祉法人が毎会計年度、算定して現況報告書で公表することになっています。残額が生じた法人は「社会福祉充実計画」を作り、所轄庁の承認を得て、その財産を地域に再投下しなければなりません。
この記事では、社会福祉充実残額の算定の流れ、控除対象になる財産・ならない財産の判別、よくある計算ミス、残額が生じたときの社会福祉充実計画の策定手続きと記載事項、決算スケジュールの中での位置づけを整理します。本記事は2026年11月6日時点の社会福祉法第55条の2と、厚生労働省の事務処理基準(社会福祉充実計画の承認等に係る事務処理基準)に基づいています。
社会福祉充実残額とは|趣旨と位置づけ
社会福祉法人の財産は、介護報酬や措置費、補助金など公費(税金・保険料)を原資とする部分が大きく、法人には余剰財産を地域住民に還元する責任があるとされています。そこで、法人が保有する財産のうち「事業を継続するために必要な財産」を差し引いた残り(社会福祉充実残額)がある場合は、その使い道を計画として示し、社会福祉事業や地域公益事業に充てることが法律で義務付けられました(社会福祉法第55条の2)。
押さえておきたいのは次の3点です。第一に、算定は残額の有無にかかわらず毎会計年度行い、現況報告書(財務諸表等電子開示システム)で公表します。第二に、残額が生じるかどうかは「お金持ちの法人かどうか」ではなく、現預金や事業未収金が、事業継続に必要な財産として控除される額を上回っているかどうかで決まります。第三に、算定の正確さと計画の手続きは、所轄庁の指導監査で確認される項目です(「社会福祉法人の指導監査とは?」参照)。
算定の流れ|4つの項目を順番に計算する
社会福祉充実残額は、次の式で計算します。
社会福祉充実残額 = ①活用可能な財産 −(②社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等 + ③再取得に必要な財産 + ④必要な運転資金)
活用可能な財産から、3つの控除対象財産を順に差し引いて計算します。
- ①活用可能な財産:資産 − 負債 − 基本金 − 国庫補助金等特別積立金。貸借対照表の純資産から、基本金と国庫補助金等特別積立金を除いた額です。
- ②社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等:社会福祉事業・公益事業に使っている土地・建物・設備などの貸借対照表価額から、それに対応する基本金・国庫補助金等特別積立金・負債(施設整備の借入金など)を差し引いた額です。マイナスになる場合は0とします。
- ③再取得に必要な財産:ア 建替費用(建物の減価償却累計額 × 建設単価等上昇率 × 一般的な自己資金比率)、イ 大規模修繕費用(建物の減価償却累計額 × 一般的な大規模修繕費用割合 − 過去の大規模修繕の実績額)、ウ 設備・車両等の更新費用(建物以外の固定資産の減価償却累計額の合計)の3つの合計です。上昇率や自己資金比率、修繕費用割合は事務処理基準で定められた数値を使います。
- ④必要な運転資金:年間事業活動支出 × 3/12(3か月分)。
計算途中の1円未満と最終結果の1万円未満は切り捨てます。残額が0円以下または1万円未満であれば、計画の策定は不要です。なお、施設の運営を主な目的としない法人(事業用の土地・建物が少ない法人)には、④で年間事業活動支出の全額を控除できる特例があります。算定には、財務諸表等電子開示システムの「社会福祉充実残額算定シート」を使うのが原則で、算定の根拠となる計算書類は10年間保存します。
控除対象になる財産・ならない財産と、よくある計算ミス
②の「事業に活用している不動産等」に含められる(控除対象になる)財産と、含められない財産の区別が、算定の正確さを左右します。
- 控除対象になる例:基本財産の土地・建物、事業用の設備・車両、建設仮勘定、補助金の未収額、医薬品などの貯蔵品、長期貸付金(事業に関するもの)。
- 控除対象にならない例:現金預金、有価証券、事業未収金(国保連からの未収金など)、立替金、使途が決まっていない積立資産、社会福祉連携推進業務の貸付金。
「事業未収金は控除できない」という点に驚かれる方が多いのですが、事業未収金は近いうちに現金になる財産なので、活用可能な財産に含めたまま、④の運転資金3か月分で事業継続に必要な分を控除する、という考え方です。実務で多い計算ミスは次のとおりです。
- 基本金・国庫補助金等特別積立金と不動産の対応付けの誤り:どの建物の取得にどの補助金・基本金が充てられたかを固定資産台帳で追えていないと、②の控除額を誤ります。
- 対応負債の漏れ・重複:施設整備のための借入金は②で不動産から差し引く「対応負債」ですが、運転資金の借入金は対応負債ではありません。
- 減価償却累計額の抽出漏れ:③の建替費用・設備更新費用は減価償却累計額を基礎にするため、固定資産台帳と貸借対照表の減価償却累計額が一致していないと計算が狂います。
- 積立資産の扱い:目的が特定されていても、計算上「使途未定」と扱われる積立資産は控除できません。積立金の名称だけで控除対象と判断しないよう注意が必要です。
- 年間事業活動支出の範囲:④の基礎となる事業活動支出に、拠点区分間の内部取引を消去せずに含めてしまうケースがあります。
残額が生じたら|社会福祉充実計画の策定手続き
残額が生じた場合は、残額が生じた会計年度の翌会計年度の6月30日までに、社会福祉充実計画を所轄庁に申請して承認を受ける必要があります。流れは次のとおりです。
- 残額の算定:決算が確定した後、算定シートで計算します。
- 計画原案の作成:事業の内容・規模、事業区域、事業費、残額、実施期間、資金計画などを記載します。
- 財務専門家への意見聴取:公認会計士・税理士・監査法人・税理士法人に、算定の妥当性(控除の判定や再計算)について確認を受けます。会計監査人や顧問税理士、これらの資格を持つ評議員・監事でも可能です(理事長は不可)。確認書は原則として監事の監査報告書の作成日以降に交付されます。
- 地域協議会等への意見聴取:地域公益事業を行う場合は、地域協議会など地域の関係者の意見を聴きます。
- 理事会の承認、評議員会の承認:この順番で決議します。
- 所轄庁への承認申請(6月30日まで):所轄庁は記載事項、手続きの履行、残額と事業規模の整合性、需給の見通し、行政計画との整合性を審査します。
- 承認後に事業を実施、計画を公表:承認・変更後は法人のホームページなどで公表し、事業の実績も毎年度公表に努めます。計画は実施期間の満了から10年間保存します。
事業の内容を検討する順番も決まっています。①社会福祉事業・公益事業(小規模事業を含む)、②地域公益事業、③その他の公益事業の順に検討し、その検討結果を計画に記載します。職員の処遇改善は優先的に検討することが望ましいとされています。実施期間は、残額を算定した年度の翌年度から原則5か年度以内(合理的な理由があれば10か年度以内)で、合理的な理由がある場合は残額のおおむね2分の1以上を充当する計画も認められます。
横浜市が公表した指導監査の指摘:充実残額があるのに計画を作っていなかった例
横浜市こども青少年局が公表している令和7年度の指導監査結果(社会福祉法人)には、社会福祉充実残額が発生しているのに社会福祉充実計画を策定していなかった法人に対し、関係法令等に基づいて計画を策定し、所轄庁の承認を得るよう求めた文書指摘が載っています。
残額の算定は毎年度行いますが、残額が生じた場合は算定で終わりではなく、上で説明した意見聴取や理事会・評議員会の承認を経て、所轄庁の承認を受ける手続きが続きます。決算後のスケジュールに、残額の確認と計画の要否の判断を組み込んでおきましょう。
出典:横浜市こども青少年局「令和7年度 指導監査結果一覧(社会福祉法人)」(掲載ページ:指導監査結果)
計画に盛り込める事業の例
- 職員処遇の充実:給与水準の引上げ、資格取得支援・研修の拡充、福利厚生の整備。人材確保が課題の法人では、最も優先度の高い使い道です。
- 既存事業の充実・拡充:定員の増加、設備の更新・改修(再取得に必要な財産として控除済みのものを除く)、ICT・介護ロボットの導入、サービスの質の向上。
- 新規の社会福祉事業・小規模事業:短期入所や通所事業の新設、相談事業の開始など。
- 地域公益事業:経済的に困難な方への無料・低額のサービス、見守り・配食、子どもの居場所づくり、住まいの支援など、地域の福祉ニーズに応える事業。
- その他の公益事業:上記で残額を使い切れない場合に検討します。
決算スケジュールの中での位置づけと、当事務所のサポート
3月決算の社会福祉法人の場合、4月に決算を固め、監事監査を経て、5月の理事会で計算書類と社会福祉充実残額(残額がある場合は計画案)を承認し、6月の定時評議員会で承認して、6月30日までに所轄庁へ計算書類の届出と現況報告書の提出、残額がある場合は計画の承認申請を行う、という流れです。残額の算定は計算書類が確定した後に行うため、決算が遅れると、専門家の意見聴取と理事会・評議員会の日程が圧迫されます。残額が出そうな法人は、決算の見込みが立った段階(2〜3月)で仮の算定をしておくことをおすすめします。
当事務所では、横浜市内の社会福祉法人を中心に、社会福祉充実残額の算定(算定シートの作成・控除対象財産の判定・固定資産台帳との照合)、財務専門家としての意見聴取と確認書の交付、社会福祉充実計画の資金計画の作成支援、計画の変更・終了手続きの助言まで対応しています。詳しくは社会福祉法人・介護サポートのページをご覧ください。決算の全体像は「社会福祉法人の決算・会計の基本」で解説しています。
まとめ:充実残額は毎年の算定と、固定資産台帳の整備が土台
社会福祉充実残額は、活用可能な財産から、事業用の不動産等、再取得に必要な財産、運転資金3か月分を差し引いて計算します。控除対象財産の判定と、基本金・国庫補助金等特別積立金・対応負債の対応付けが正確さの鍵で、その土台は固定資産台帳です。残額が生じたら、専門家の意見聴取、理事会・評議員会の承認を経て、翌年度の6月30日までに所轄庁へ計画の承認申請を行い、職員処遇の充実や地域公益事業に充てます。
「社会福祉充実残額と社会福祉充実計画」まとめ
- 残額の算定は残額の有無にかかわらず毎会計年度行い、現況報告書で公表する
- 残額=活用可能な財産(資産−負債−基本金−国庫補助金等特別積立金)−(事業用不動産等+再取得に必要な財産+運転資金3か月分)
- 現金預金・有価証券・事業未収金・使途未定の積立資産は控除対象外。基本財産の土地建物・事業用設備・建設仮勘定は控除対象
- 計算ミスの多くは、基本金・補助金・負債と不動産の対応付け、減価償却累計額の抽出、積立資産の扱いから生じる
- 残額が出たら、財務専門家の意見聴取→理事会→評議員会→翌年度6月30日までに所轄庁へ承認申請→公表
- 使途は①社会福祉事業・公益事業、②地域公益事業、③その他公益事業の順に検討。職員処遇の充実は優先的に。期間は原則5年以内
「社会福祉充実残額」に関するよくある質問
残額は毎年度算定し直すため、計画期間中に増減するのが普通です。残額の増減だけを理由に計画を変更する必要はありません。ただし、計画と実績に大幅な乖離がある場合は、原則として変更の手続きが必要です。事業の内容や事業費など軽微でない変更は所轄庁の承認申請、軽微な変更は届出で対応します。費用の増加やニーズの減少など、やむを得ない事由で事業を続けられない場合は、所轄庁の承認を得て計画を終了することもできます。
事務処理基準では、公認会計士・税理士・監査法人・税理士法人が財務専門家とされ、法人の会計監査人や顧問税理士、これらの資格を持つ評議員・監事(理事長を除く)でも差し支えないとされています。専門家は、控除対象財産の判定、各項目の再計算、算定シートの記載などを確認し、確認書を交付します。確認書は原則として監事の監査報告書が作成された日以降に交付されるため、決算・監事監査・専門家の確認・理事会の日程を逆算して組んでおく必要があります。
残額がゼロ(または1万円未満)の場合、社会福祉充実計画の策定と専門家の意見聴取は不要です。ただし、算定そのものは毎年度必要で、現況報告書の中で算定結果(残額0円)を報告します。「残額がないから計算しなくてよい」のではなく、「計算した結果、残額がなかった」ことを示す必要がある点にご注意ください。また、控除対象財産の判定を誤って残額をゼロにしているケースは指導監査で指摘を受けるため、固定資産台帳と計算書類の整合は毎年確認しておきましょう。
社会福祉充実残額の算定・計画の作成は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「残額の計算が合っているか確認してほしい」「財務専門家の意見聴取をお願いしたい」「計画の資金計画を一緒に作ってほしい」など、社会福祉法人の会計・税務のことなら、どんなことでもお気軽にご相談ください。横浜市内の法人を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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