退職・転職・年の途中で独立した年の確定申告|源泉徴収票と事業所得の合算、還付になるケース

横浜市で確定申告お急ぎサポートと個人事業主の税務顧問を行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「年の途中で会社を辞めて、年末調整を受けていない」「転職先に前の会社の源泉徴収票を出していない」「夏に独立したが、会社員だったころの給与と事業の売上はどう合算するのか」「退職金は申告が必要なのか」――退職・転職・独立の年は、確定申告が必要になる人、申告すれば税金が戻る人が多い年です。給与と事業の所得が混在し、社会保険の切り替えや退職金も絡むため、何を合算して何を別に計算するかを整理すれば、申告の手順ははっきりします。
この記事では、退職後に年末調整を受けていない場合の確定申告(還付になりやすいケース)、給与所得と事業所得(または雑所得)の合算と所得控除の適用、退職金の申告(退職所得の受給に関する申告書の有無)、開業初年度の届出(開業届・青色申告承認申請の期限)と初年度の経費(開業費)、必要書類と申告の進め方を解説します。本記事は2026年11月6日時点の所得税法と令和8年度税制改正後の2026年分の控除額に基づいています。副業収入の申告の要否は「副業が20万円以下なら申告不要?」、個人事業主の経費の考え方は「個人事業主の経費と家事関連費の按分」をご覧ください。
退職後に年末調整を受けていない場合の確定申告還付になりやすいケース
会社員の所得税は、毎月の給与から「1年間同じ給与が続く前提」で源泉徴収され、12月の年末調整で1年分の正しい税額に精算されます。年の途中で退職し、その年のうちに再就職して前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出すれば、新しい勤務先が前職分を含めて年末調整をしてくれます。しかし、次の場合は年末調整が行われないため、確定申告で精算します。
| 状況 | 年末調整 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 年の途中で退職し、年内に再就職しなかった(独立・求職中・休養) | なし | 必要(還付になることが多い) |
| 年内に転職したが、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出しなかった | 新しい勤務先の給与分のみ | 前職分を合算して申告(義務。追加納税か還付) |
| 12月に退職し、12月の給与で年末調整を受けた | あり | 給与以外の所得が20万円超なら必要。医療費控除などがあれば任意 |
| 退職後に独立し、事業所得(または雑所得)がある | なし | 給与と事業を合算して申告(義務) |
年の途中で退職して再就職しなかった場合に還付になりやすい理由は次のとおりです。
- 源泉徴収が「年収ベース」で高めに計算されている:1〜6月で300万円の給与を受けた人の毎月の源泉徴収は、年収600万円相当の税率で引かれています。実際の年収は300万円+その後の所得なので、所得税の年税額は源泉徴収額を下回ることが多く、差額が還付されます。
- 基礎控除・給与所得控除が年額で引ける:基礎控除(2026年分は合計所得金額489万円以下で104万円)と給与所得控除(最低74万円)は、働いた月数にかかわらず年額で控除できます。
- 退職後に払った社会保険料が控除できる:退職後の国民健康保険料・国民年金保険料、健康保険の任意継続の保険料は、年末調整では反映されていないため、確定申告で社会保険料控除として追加できます。
- 生命保険料控除・地震保険料控除・iDeCoなどが未反映:年末調整がなければ、これらの控除も確定申告で初めて反映されます。
- 雇用保険の基本手当(失業給付)は非課税:所得に含めないため、退職後に基本手当を受けていた人の所得は給与分だけになり、税額が小さくなります。
還付申告は翌年1月1日から5年間できますが、事業所得がある人や転職先に前職分を出していない人は申告義務があるため、翌年3月15日までに申告します。
給与所得と事業所得(または雑所得)の合算と所得控除の適用
退職後に独立した年は、1月1日〜退職日までの給与所得と、独立後の事業所得(または雑所得)を合算して所得税を計算します(総合課税)。計算の流れです。
| 手順 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①給与所得を計算 | 前職の源泉徴収票の「支払金額」− 給与所得控除(2026年分は最低74万円。収入に応じた計算式) | 源泉徴収票は退職後1か月以内に会社から交付される。届かなければ請求する |
| ②事業所得(雑所得)を計算 | 開業日から12月31日までの売上 − 必要経費(− 青色申告特別控除) | 事業所得か雑所得かは、営利性・継続性・帳簿の有無などで判断。帳簿を備えて事業として行っていれば原則として事業所得。独立前の準備費用は開業費(後述) |
| ③合計所得金額を出す | ①+②(事業が赤字なら給与所得から差し引く=損益通算。雑所得の赤字は通算不可) | 独立初年度は事業が赤字になることが多く、事業所得なら給与所得と相殺して税額が下がる。この損益通算は事業所得だからこそできる |
| ④所得控除を引く | 社会保険料控除(会社員時代の天引き分+退職後の国保・国民年金・任意継続)、小規模企業共済等掛金控除(iDeCo・小規模企業共済)、生命保険料控除、地震保険料控除、配偶者控除・扶養控除、医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税)、基礎控除(104万円など) | 会社員時代の社会保険料は源泉徴収票の「社会保険料等の金額」欄。退職後の国民年金は控除証明書、国保は納付額の通知で確認 |
| ⑤税額を計算し源泉徴収税額を差し引く | 課税所得×累進税率+復興特別所得税 − 源泉徴収票の「源泉徴収税額」(+事業の売上から源泉徴収された分) | マイナスなら還付、プラスなら納付。報酬から10.21%の源泉徴収をされている事業(デザイン・原稿・講演など)は、支払調書や請求書で源泉徴収額を集計する |
仮定例(概算):1〜6月の給与300万円(源泉徴収税額約16万円、社会保険料45万円)、7月に独立して12月までの事業所得100万円(白色)、退職後の国民健康保険・国民年金45万円の場合。給与所得は300万円−98万円=202万円、事業所得100万円、合計所得302万円。所得控除は社会保険料90万円+基礎控除104万円=194万円で、課税所得は108万円、所得税は約5.5万円。源泉徴収税額約16万円との差額約10万円が還付されます。事業所得が赤字(−50万円)だった場合は給与所得と通算して合計所得152万円になり、課税所得はほぼゼロで源泉徴収税額の大半が還付されます。
住民税は、翌年6月以降に前年の所得に対して課税されます。退職後は給与からの天引き(特別徴収)がなくなるため、市区町村から送られる納付書で自分で納めます(普通徴収)。退職した年の翌年は、会社員時代の所得に対する住民税を自分で払うことになるため、資金を確保しておきます。
退職金の申告退職所得の受給に関する申告書の有無
退職金は「退職所得」として、給与や事業所得とは分けて計算されます(分離課税)。退職所得控除が大きく、控除後の2分の1に課税される(勤続5年以下の役員等、勤続5年以下の従業員の300万円超部分は2分の1なし)ため、税負担は軽い所得です。確定申告が必要かどうかは、退職時に会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出したかで決まります。
| 申告書の提出 | 会社の源泉徴収 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 提出した | 退職所得控除を適用した正しい税額を源泉徴収(多くの人は税額ゼロ) | 原則不要。退職金は申告書に記載しなくてよい(他の所得の申告には影響しない) |
| 提出しなかった | 退職金の20.42%を一律に源泉徴収(控除が反映されていない) | 確定申告で退職所得を申告すれば、払いすぎた税額が還付される(義務ではないが、申告しないと取り戻せない) |
- 退職所得控除:勤続20年以下は40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)。勤続年数の1年未満の端数は切り上げです。
- 退職所得の源泉徴収票:退職金を受けた人には会社から「退職所得の源泉徴収票」が交付されます。確定申告で退職所得を申告する場合はこれを使います。
- 他の所得が赤字の場合:退職所得は分離課税ですが、事業所得の赤字が給与所得から引いても残る場合など、一定の場合には退職所得から控除できることがあります。該当する年は、申告書に退職所得を記載したほうが有利になることがあります。
- iDeCo・小規模企業共済の一時金との関係:退職金と同じ年(または近い年)にこれらの一時金を受け取ると、退職所得控除の重複調整が行われます。独立後に小規模企業共済へ加入する場合、将来の受取時期の設計に影響します。
(仮定例)退職所得の受給に関する申告書を出さずに退職金を受け取った場合
(仮定例)勤続10年2か月で退職し、退職金800万円を受け取った場合を考えます。勤続年数は1年未満を切り上げて11年、退職所得控除額は40万円×11年=440万円、課税退職所得金額は(800万円−440万円)×1/2=180万円で、申告書を提出していれば源泉徴収税額は91,890円です。
申告書を提出しなかった場合は、800万円×20.42%=1,633,600円が源泉徴収されます。確定申告で退職所得を申告すると正しい税額で精算され、この例では差額の約154万円が還付される計算です(他の所得や所得控除の状況により変わります)。実際の事例ではありません。
出典:国税庁 タックスアンサーNo.2732「退職手当等に対する源泉徴収」(同ページの計算例と同じ条件)
開業初年度の届出と初年度の経費(開業費)
独立した年は、確定申告と並行して次の届出があります。特に青色申告承認申請書は期限が短く、逃すと初年度は白色申告になります。
| 届出 | 期限 | 内容 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 開業した年分の確定申告期限まで(2026年1月1日以後の開業の場合) | 税務署へ。遅れても罰則はないが、青色申告の申請と一緒に出す |
| 所得税の青色申告承認申請書 | その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内(1月15日以前の開業はその年の3月15日まで) | 初年度から65万円(55万円・10万円)の青色申告特別控除、赤字の3年繰越し、青色事業専従者給与、30万円未満の少額資産の即時償却が使える。独立初年度の赤字を翌年以降に繰り越せるのは青色のみ |
| 事業開始等申告書 | 自治体の定め(神奈川県は事業開始から1か月以内など) | 県税事務所へ(個人事業税の関係) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等を開設した日から1か月以内 | 従業員や青色事業専従者に給与を払う場合 |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色申告承認申請と同じ期限(開業後に新たに専従者を有することとなった場合はその日から2か月以内) | 家族に給与を払って経費にする場合 |
| 消費税関係 | — | 開業1年目・2年目は原則免税。インボイス登録をすると課税事業者になるため、取引先の要望と納税額を比べて判断 |
| 国民健康保険・国民年金 | 退職後14日以内 | 市区町村の窓口。健康保険の任意継続(退職後20日以内)との比較を |
開業費:独立前に開業準備のために特別に支出した費用(名刺・ウェブサイト・市場調査・打合せの交通費・セミナー代・事務所の契約前の下見費用など)は、開業日より前の支出でも「開業費」として繰延資産に計上し、任意の年に償却して経費にできます。初年度に全額償却しても、利益が出た年にまとめて償却してもよく、独立初年度の所得調整に使える項目です。領収書は開業前のものも保管してください。なお、10万円以上の資産(パソコン・車など)や、事業用の商品の仕入れは開業費ではなく、それぞれ固定資産・仕入として処理します。会社員時代に買ったパソコンなどを事業に使う場合は、購入時の価額から経過年数分の減価を差し引いた額で事業用資産として計上できます。
必要書類と申告の進め方
- 給与関係:前職(転職した場合は全職場)の給与所得の源泉徴収票。退職後1か月以内に交付される。紛失・未交付なら会社に請求(会社が応じない場合は税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」)。
- 退職金関係:退職所得の源泉徴収票(申告書を提出しなかった場合は確定申告で使う)。
- 社会保険料:国民年金保険料の控除証明書(日本年金機構から送付)、国民健康保険料の納付額(市区町村の通知・納付書控え)、健康保険の任意継続保険料の納付額。
- その他の控除:生命保険料・地震保険料の控除証明書、iDeCo・小規模企業共済の掛金証明書、医療費の明細、ふるさと納税の受領証(ワンストップ特例は確定申告をすると無効になるため、すべて申告書に記載)。
- 事業関係:開業日からの売上の請求書・入金記録、経費の領収書、開業費の領収書、取引先からの支払調書(源泉徴収された報酬がある場合)、事業用口座の通帳、青色申告なら帳簿(複式簿記)。
- 共通:マイナンバーカード、還付先の口座情報、前年の申告書(あれば)。
進め方は、①源泉徴収票と控除証明書を揃える、②事業の売上・経費を集計する(会計ソフトに開業日からの取引を入力)、③e-Taxまたは確定申告書等作成コーナーで給与・事業・退職(必要な場合)を入力し、所得控除を反映、④源泉徴収税額との差額(還付・納付)を確認して送信、の順です。退職・独立の年は項目が多く、「給与と事業の合算」「退職後の社会保険料の控除」「開業費」「青色申告の申請期限」のいずれかを落とす方が多いため、初年度だけ税理士に確認を依頼し、2年目以降をご自身で行う方法も合理的です。独立後の経理の体制づくりは「freee・マネーフォワード・弥生、個人事業主はどれを選ぶ?」をご覧ください。
給与と事業の所得を合算して申告するまでの4つの手順です。
当事務所の確定申告お急ぎサポートでは、退職・転職・独立の年の確定申告(給与・事業・退職所得の合算、開業初年度の届出の確認を含む)を、期限直前のご依頼にも対応しています。独立後に顧問を希望される方は税務顧問・確定申告サポートをご覧ください。
「退職・転職・独立した年の確定申告」に関するよくある質問
申告の義務はありませんが、申告すると還付になる可能性が高いです。1〜8月の給与から源泉徴収された所得税は年収ベースで計算されており、実際の年収(8か月分)に対する税額より多く引かれているのが通常です。さらに、退職後に払った国民健康保険料・国民年金保険料を社会保険料控除に加えられます。雇用保険の基本手当は非課税で所得に含めません。還付申告は翌年1月1日から5年間できますが、早く申告すれば早く還付されます。
申告をおすすめします。事業所得の赤字は給与所得と損益通算できるため、会社員時代の源泉徴収税額が還付される可能性があります。また、青色申告の承認を受けていれば、通算しきれない赤字を翌年以降3年間繰り越して、事業が黒字になった年の所得から差し引けます。申告しないと、この還付も繰越しも受けられません。青色申告承認申請の期限(開業から2か月以内)を過ぎてしまった場合でも、損益通算はできます(繰越しは不可)。
新しい会社の年末調整は新しい会社の給与分だけで行われているため、前職分を合算した確定申告が必要です(義務)。前職と現職の2枚の源泉徴収票を使い、支払金額・源泉徴収税額・社会保険料を合計して申告します。合算すると税率の区分が上がって追加納税になることもあれば、前職の源泉徴収が多めで還付になることもあります。年末調整の時期(12月)までに前職の源泉徴収票を出せば現職で合算してもらえますが、過ぎていれば確定申告で対応します。
開業準備のために特別に支出した費用(講座・セミナー、名刺、ウェブサイト制作、打合せの交通費など。事業との関係によって判断が分かれます)は開業費として繰延資産に計上し、任意の年に償却して経費にできます。開業前のものでも領収書を保管してください。パソコンなどの資産は、開業費ではなく事業用資産として、購入価額から会社員時代の経過年数分の減価を差し引いた額を事業に転用した時点の価額とし、10万円未満なら消耗品費、10万円以上なら減価償却(青色なら30万円未満は即時償却)で処理します。私用との兼用なら事業使用割合で按分します。
「退職・転職・年の途中で独立した年の確定申告」まとめ
- 年内に再就職せず年末調整を受けていない人は、源泉徴収が年収ベースで多めなことと、退職後の国保・国民年金の控除により還付になりやすい。転職先に前職の源泉徴収票を出していない人、独立して事業所得がある人は申告義務あり
- 給与所得(源泉徴収票−給与所得控除)と事業所得(売上−経費)を合算し、社会保険料・基礎控除(2026年分は最大104万円)などを引いて税額を計算。事業所得の赤字は給与と損益通算できる(雑所得は不可)
- 退職金は分離課税。「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば原則申告不要、未提出なら20.42%源泉のため確定申告で還付を受ける
- 開業届は開業した年分の確定申告期限まで(2026年以後の開業)、青色申告承認申請は開業から2か月以内(1月15日以前の開業は3月15日)。開業前の準備費用は開業費として任意償却、資産は転用時の価額で計上
- 源泉徴収票・退職所得の源泉徴収票・国保・国民年金の証明・控除証明書・事業の帳簿と領収書・支払調書を揃え、翌年3月15日までに申告。翌年6月からの住民税は普通徴収で自分で納める
退職・転職・独立した年の確定申告は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「給与と事業の合算のしかたが分からない」「還付になるか確認してほしい」「開業初年度の届出と申告をまとめて任せたい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内で独立・転職した方を中心に、代表税理士が直接対応します。期限直前のご依頼にも対応しています。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
税務・申告に関するご相談を承ります。
「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
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