法人成りの手続き|個人事業の廃業届・資産と借入の引き継ぎ・個人の最後の確定申告

横浜市で会社設立と法人成りのサポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「個人事業の資産や借入は、会社にどう移せばいいのか」「個人の最後の確定申告はどうなるのか」「在庫や車はどう引き継ぐのか」――個人事業から法人へ切り替える「法人成り」は、会社を設立して終わりではなく、個人事業を閉じる手続きと、資産・負債・契約を法人に移す作業がセットになります。ここを曖昧にすると、個人と法人で経費や収入が二重になったり、引き継ぎの税金を見落としたり、個人の資産が法人の帳簿に入らないまま償却できなかったりします。
この記事では、法人成りの全体スケジュール(設立日・事業開始日・個人事業の廃業日)、資産・負債の引き継ぎ方法(売買・現物出資・賃貸)と税務上の注意(棚卸資産・固定資産の譲渡所得・消費税)、借入金・リース・契約の名義変更、個人の最後の確定申告(廃業届・事業税の見込控除・予定納税の減額)、個人と法人の口座・経費の切り分けルールを解説します。本記事は2026年11月6日時点の所得税法・法人税法・消費税法に基づいています。法人化の損得は「個人事業主の法人化はいくらから?」をご覧ください。
法人成りの全体スケジュール
- 設立準備(設立の1〜2か月前):会社の形(株式会社か合同会社か)、資本金、決算月、役員、本店所在地を決め、定款を作ります。引き継ぐ資産・負債の一覧と、取引先・貸主・金融機関への事前連絡もこの時期に行います。
- 設立日(登記申請日):法務局に設立登記を申請した日が会社の設立日です。登記完了後に登記事項証明書と印鑑証明書を取得し、法人口座を開設します。
- 事業開始日(切替日):法人として売上を計上し、経費を支払い始める日です。月初に設定すると、個人と法人の帳簿の区切りが明確になります。設立日と事業開始日は同じでなくて構いませんが、設立日から事業開始日までの間に発生した費用は法人の創立費・開業費として処理します。
- 個人事業の廃業日:通常は法人の事業開始日の前日です。この日までの売上・経費が個人の最後の確定申告の対象になります。
- 設立後の届出:税務署・県税事務所・市役所への法人設立届、青色申告承認申請(設立から3か月以内または最初の事業年度末のいずれか早い日)、給与支払事務所の開設届、社会保険の新規適用(5日以内)、労働保険の手続き、個人側の廃業届などを順に行います(届出の全体は「会社設立後の届出期限カレンダー」で解説しています)。
資産・負債の引き継ぎ方法と税務上の注意
個人事業の資産を法人に移す方法は、「売買」「現物出資」「賃貸」の3つです。資産ごとに選びます。
個人事業の資産は、資産ごとに次の3つから移し方を選びます。
- 売買(個人が法人に売る):最も一般的な方法です。法人成りの時点の時価(帳簿価額が時価に近ければ帳簿価額)で個人から法人に売却し、法人は代金を支払います(資金がなければ未払金・役員借入金として処理)。法人側はその価額を取得価額として減価償却します(中古資産の耐用年数が使えます)。
- 現物出資(資産を資本金として法人に入れる):資産そのものを出資する方法ですが、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要で(500万円以下などの例外あり)、登記の手続きが複雑になるため、小規模な法人成りではあまり使いません。
- 賃貸(個人が所有したまま法人に貸す):不動産や車など、個人の名義のまま法人が使う方法です。法人は賃料を経費にし、個人は不動産所得や雑所得として申告します。自宅兼事務所や、個人のローンが残っていて名義を移せない車などで使います。賃料は相場で説明できる額にします。
税務上の注意点は次のとおりです。
- 棚卸資産(在庫):法人に売却した分は個人の事業所得の売上になります。通常は帳簿価額(仕入値)で売却します。著しく低い価額で売ると、時価との差額が問題になります。
- 固定資産(車・機械・パソコン・内装など):個人から法人への売却は、個人側で原則として譲渡所得(総合課税)になります(取得価額10万円未満の少額資産や一括償却資産は原則として事業所得、内装などの建物附属設備は分離課税の譲渡所得になります)。時価が帳簿価額(未償却残高)に近く帳簿価額で売れば譲渡益はゼロ、時価が帳簿価額より高ければ時価で売って譲渡益(50万円の特別控除あり、所有5年超なら2分の1課税)、低ければ譲渡損です。個人の帳簿では廃業日までの減価償却費を月割りで計上します。
- 消費税:個人が消費税の課税事業者の場合、法人への資産の売却は課税売上になり、個人の最後の消費税申告に含めます。法人が免税事業者の場合はその消費税を控除できず、法人が課税事業者(インボイス登録)の場合は個人がインボイスを発行すれば控除できます。資産の額が大きい場合は、売却のタイミングと法人の登録の時期を合わせて検討します(「設立初年度の消費税」)。
- 売掛金・買掛金・預金:廃業日時点の売掛金は個人が回収し、買掛金は個人が支払うのが原則で、法人には引き継がないほうが帳簿が明確になります。個人の事業用口座の残高は、法人への出資(資本金)または社長からの貸付(役員借入金)として法人に入れます。
- 不動産:個人所有の店舗・事務所を法人に売却すると、譲渡所得税のほか、法人側で不動産取得税・登録免許税がかかります。賃貸にするか売却するかは、将来の相続まで含めて判断します。
借入金・リース・契約の名義変更
- 借入金:個人名義の事業用借入を法人に引き継ぐには、金融機関の承諾を得て、法人が債務を引き受ける(または法人が新たに借りて個人の借入を返済する)手続きが必要です。承諾が得られない場合は、個人の借入のまま返済を続け、法人からの役員報酬で返済資金を賄います。日本政策金融公庫の創業融資などは、法人成りに伴う債務の引き継ぎに対応しているため、早めに相談します。
- リース契約:リース会社の承諾を得て法人名義に変更します。承諾が得られない場合は個人契約のまま、法人がリース料相当額を個人に支払う(個人側は雑所得)か、再リースの時期で切り替えます。
- 賃貸借契約(店舗・事務所):貸主の承諾を得て契約を法人名義に変更します。敷金の承継の扱い(個人への返還と法人の再差し入れか、そのまま承継か)を貸主と確認します。
- 取引先との契約:継続的な取引の基本契約、業務委託契約は法人名義で結び直し、請求書の発行名義・振込先・インボイスの登録番号を切替日から法人に変えます。
- 許認可:建設業許可、古物商、飲食店営業許可、宅建業免許などは個人から法人に引き継げず、法人として新たに取得します。許可の取得に時間がかかる業種は、設立から許可取得までの期間を見込んで事業開始日を決めます。
- 従業員:法人で雇用契約を結び直し、社会保険・雇用保険の手続きを行います。
個人の最後の確定申告
- 廃業の届出:個人事業の開業・廃業等届出書(廃業した年分の確定申告期限まで。国税庁 A1-5)、青色申告の取りやめ届出書(翌年3月15日まで)、給与支払事務所等の廃止届出書(従業員がいた場合)、消費税の事業廃止届出書(課税事業者だった場合)を税務署に、事業廃止の届出を県税事務所に提出します。
- 最後の確定申告:1月1日から廃業日までの事業所得と、廃業日以後に法人から受け取った役員報酬(給与所得)を合わせて、翌年3月15日までに申告します。廃業日までの減価償却費は月割りで計上し、法人に売却した資産の譲渡所得も申告します。青色申告特別控除(65万円)は、複式簿記での記帳、貸借対照表・損益計算書の添付、e-Taxでの申告(または優良な電子帳簿の保存)という通常の要件を満たし、期限内に申告すれば廃業年も使えます。
- 事業税の見込控除:廃業した年の個人事業税は翌年に課税されますが、廃業年の確定申告で見込額を必要経費に算入できます。見込額を計上しなかった場合は、翌年に事業税の賦課決定を受けた後、2か月以内に更正の請求をして必要経費に算入する手続きが必要になります。
- 予定納税の減額申請:法人成りで個人の所得が減る場合、7月15日(第1期・第2期分)または11月15日(第2期分)までに予定納税の減額申請をすれば、前払いを減らせます(「個人事業主の1年の納税スケジュール」)。
- 廃業後に生じた費用:廃業後に支払った個人事業の経費(未払いの経費、廃業後の返品など)は、廃業年の所得から差し引ける特例があり、申告後に判明した場合は更正の請求で対応します。
- 国民健康保険・国民年金:法人の社会保険に加入したら、14日以内に国民健康保険・国民年金の脱退手続きを市区町村で行います。翌年の住民税は個人の最後の所得で計算されます。
(仮定例)7月1日を法人の事業開始日にした場合
(仮定例)個人で小売業を営む人が、7月1日を法人の事業開始日とし、その前日の6月30日を個人事業の廃業日にしたとします。6月30日時点の在庫を帳簿価額で法人に売却した代金は個人の最後の事業所得の売上になり、事業用の車を法人に売却した分は譲渡所得として申告します。
翌年の確定申告では、1月1日から6月30日までの事業所得と、7月以降に法人から受け取った役員報酬(給与所得)を合わせて申告します。廃業の届出や青色申告の取りやめの届出も廃業日を基準に準備するため、切替日を決めた時点で、個人と法人それぞれの届出と申告の予定を一覧にしておくと漏れを防げます。実際の事例ではありません。
個人と法人の口座・経費の切り分けルール
- 切替日以降は法人口座・法人カードのみ:売上の入金先と経費の支払いを法人口座・法人カードに統一します。個人口座に入金された法人の売上は速やかに法人口座に移し、個人カードで払った法人の経費は立替精算書で月1回精算します。
- 役員報酬で生活費を賄う:法人の口座から生活費を引き出さず、定期同額の役員報酬で賄います(「設立初年度の役員報酬の決め方」)。会社からの引き出しは役員貸付金になり、税務調査と融資の両方で問題になります(「法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?」)。
- 自宅・車など兼用のもの:自宅兼事務所は法人が個人に家賃を払う(賃貸)か、社宅として法人が借りる形にし、車は売却か賃貸かを決めて、按分の根拠を残します。
- 個人の事業用口座は廃業日で締める:廃業日時点の残高と売掛金・買掛金を確定し、その後の入出金は個人の残務処理(売掛金の回収・買掛金の支払い)だけにします。
- 帳簿は別々に:クラウド会計は個人用と法人用を分け、法人の帳簿は設立日から始めます。
当事務所では、法人成りの引き継ぎ資産の一覧と評価、個人の最後の確定申告、法人の設立後の届出と経理の立ち上げまでをまとめてお受けし、登記は司法書士をご紹介しています。サービスと料金は会社設立サポートのページをご覧ください。
まとめ:切替日を決め、資産は売買・賃貸で移し、個人は廃業日で締めて最後の申告へ
法人成りは、設立日・事業開始日(切替日)・個人の廃業日(切替日の前日)を決めることから始まります。資産は売買(時価・帳簿価額)か賃貸で移し、在庫は個人の売上、固定資産は原則として譲渡所得、課税事業者なら消費税の課税売上になる点に注意します。借入・リース・賃貸借・取引先の契約は承諾を得て名義変更し、許認可は法人で取り直します。個人は廃業届・青色取りやめ・消費税の廃止届を出し、廃業日までの所得と役員報酬・譲渡所得を合わせて最後の確定申告を行い、事業税の見込控除と予定納税の減額を忘れないでください。切替日以降は法人口座・法人カードと役員報酬で、個人と法人のお金を完全に分けます。
「法人成りの手続き」まとめ
- スケジュール:設立準備→設立日(登記)→法人口座→事業開始日(月初が整理しやすい)→個人の廃業日(前日)→各種届出
- 資産の移し方:売買(時価・帳簿価額、法人は中古耐用年数で償却)、現物出資(検査役等で手間)、賃貸(不動産・ローン付き車など)
- 税務:在庫は個人の売上、固定資産は原則譲渡所得(50万円控除。少額資産・建物附属設備などは例外)、課税事業者は消費税の課税売上。売掛・買掛は個人で処理、預金は出資か役員借入金
- 名義変更:借入は金融機関の承諾で債務引受か個人で返済継続、リース・賃貸借・取引契約は承諾を得て法人名義、許認可は法人で取り直し
- 個人の最後の申告:廃業届(確定申告期限まで)・青色取りやめ(翌年3/15)・消費税廃止届、廃業日まで月割償却、事業税の見込控除、予定納税の減額申請、国保・国民年金の脱退(14日)
- 切替日以降は法人口座・法人カード・役員報酬に統一し、立替精算と兼用資産の按分根拠を残す
「法人成り」に関するよくある質問
事務的には、個人の事業年度が暦年なので、1月1日を法人の事業開始日にすると個人の最後の申告が前年分で完結し、帳簿の区切りが最も明確です。ただし、設立登記は年末年始を挟むため、12月中に設立して1月から事業開始とする段取りが必要です。年の途中でも法人成りは可能で、その場合は個人の廃業日までの所得と法人からの役員報酬を合わせて個人の申告をします。繁忙期を避ける、消費税の免税期間を長く取れる決算月にする、許認可の取得時期に合わせる、といった事情を優先して時期を決めるケースも多く、どちらが正解ということはありません。
個人の預金は個人の財産なので、法人に移す場合は「出資(資本金)」か「社長からの貸付(役員借入金)」のどちらかとして帳簿に記録します。設立時に資本金として入れた分以外は役員借入金になり、法人が資金に余裕ができたときに社長へ返済できます(返済に税金はかかりません)。何の記録もなく移すと、帳簿上の説明がつかなくなります。逆に、法人の預金を社長の個人口座に移すと役員貸付金になるため、方向にも注意が必要です。
ローンが残っている車は、所有権がローン会社に留保されていることが多く、完済するまで名義を法人に変えられないのが通常です。その場合は、個人が所有したまま法人に賃貸する(法人が個人に賃料を払い、個人は雑所得として申告)か、法人がローンを完済して買い取る(ローン会社の承諾が必要)かを選びます。賃貸にする場合、ガソリン代や保険料など維持費の負担区分と、仕事と私用の按分割合を契約で決めておきます。完済後に法人へ売却する際は、その時点の時価で売買し、個人側で譲渡所得の計算をします。
法人成りの引き継ぎと個人の最後の確定申告は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
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執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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