設立初年度の役員報酬の決め方|定期同額給与・いつまでに決める・社会保険料とのバランス

横浜市で会社設立と設立後の税務顧問を行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「役員報酬はいくらにすればいいのか」「いつまでに決めないといけないのか」「売上が読めないのに決められない」「社会保険料が思ったより高い」――会社を設立した直後の社長が、必ずぶつかる判断が役員報酬です。役員報酬には法人税法上のルールがあり、一度決めると原則として事業年度の途中で変えられません。決め方を誤ると、法人の利益が出すぎて税負担が増えたり、逆に法人が赤字になって融資の評価が下がったり、生活費が足りずに会社から引き出して役員貸付金が膨らんだりします。
この記事では、定期同額給与のルール(設立から3か月以内の決定・期中変更の制限)と事前確定届出給与、報酬額を決める3つの軸(会社に残す利益・社長の生活費・社会保険料と所得税のバランス)、仮定例での比較(月30万・50万・80万円)、家族を役員・従業員にする場合の注意、初年度特有の注意(売上が読めないときの決め方・役員貸付金を作らない)を解説します。本記事は2026年11月6日時点の法人税法34条・施行令69条と社会保険の仕組みに基づき、計算例は仮定例です。
定期同額給与のルール|設立から3か月以内に決め、期中は原則変えない
役員に支払う給与が法人の損金(経費)になるのは、法人税法34条が定める次の3つの形に当てはまる場合だけです。
- 定期同額給与:毎月同じ額を支払う給与です。金額の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う「通常改定」に限られ、それ以外の時期に増額すると、増額分は損金になりません。期中に減額した場合は、減額前の各月のうち減額後の額を超える部分が損金不算入になります(役職の変更などの臨時改定事由、経営状況の著しい悪化による減額は例外的に認められます)。設立初年度は、設立日から3か月以内に決めれば、初年度の最初の月から損金にできます。
- 事前確定届出給与:賞与のように特定の日に特定の額を支払う給与で、あらかじめ税務署に届け出た内容どおりに支払った場合に損金になります。届出期限は、株主総会などの決議から1か月以内か事業年度開始から4か月以内のいずれか早い日で、新設法人は設立日から2か月以内です。届出と1円でも、1日でも違う支払いをすると全額が損金不算入になるため、確実に払える額で届け出ます。
- 業績連動給与:同族会社では使えません。
決定は株主総会(一人会社でも議事録を作ります)または取締役の決定で行い、議事録と役員報酬の支給の記録(振込)を残します。「とりあえず無報酬で始めて、利益が出たら払う」という方法は、期中の増額に当たるため損金にならず、さらに社会保険は報酬がないと加入できないため、設立後の数か月で方針を決める必要があります。
役員報酬は定期同額給与として、決めた額を毎月支払います。
報酬額を決める3つの軸
- ① 会社に残す利益:役員報酬を引いた後の法人の利益は、法人税等(所得800万円以下で約23%)を払った残りが会社の内部留保になり、融資の評価や次の投資の原資になります。初年度から赤字だと、繰越欠損金として翌年以降の利益と相殺できる一方、金融機関の評価は下がります。設立初年度は「少し黒字」を目標に、年間の売上と経費の見込みから逆算します。
- ② 社長の生活費:役員報酬から所得税・住民税・社会保険料(本人負担分)を引いた手取りで、生活費と個人の支払い(住宅ローン・保険・教育費)を賄える額が下限です。ここを低く設定しすぎると、会社の口座から生活費を引き出して役員貸付金が増え、税務調査と融資の両方で問題になります(「法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?」)。
- ③ 社会保険料と所得税のバランス:役員報酬には給与所得控除があり、所得税は累進税率ですが、社会保険料は報酬の約30%(本人・会社で折半、上限あり)が一定割合でかかります。報酬を上げるほど社会保険料の総額が増え、法人税率より高い負担になることが多いため、「法人に残して法人税を払う」ほうがその年の手取り合計は多くなる傾向があります。ただし、法人に残したお金は社長が自由に使えず、将来役員報酬や退職金として受け取るときに課税されます。社会保険料が高いほど将来の厚生年金は増える、という面もあります。
仮定例での比較(月30万・50万・80万円)
前提:役員報酬を引く前の法人の利益が年960万円(売上から他の経費を引いた額)、社長は45歳・単身・横浜市在住、所得控除は社会保険料控除と基礎控除(2026年分・令和8年度税制改正による引上げ後の金額)のみ、社会保険料率約29.8%(折半)、法人税等約23%と均等割7万円。「合計」は社長の手取りと法人に残る税引後利益の合計です。
- 月30万円(年360万円):社会保険料は本人・会社各約54万円。社長の手取り約287万円(所得税約4万円・住民税約15万円)。法人の所得は約546万円で法人税等約133万円、法人に残るのは約414万円。合計約700万円(社会保険料合計約107万円、税金合計約152万円)。
- 月50万円(年600万円):社会保険料は各約89万円。社長の手取り約465万円(所得税約15万円・住民税約31万円)。法人の所得は約271万円で法人税等約69万円、法人に残るのは約201万円。合計約666万円(社会保険料合計約179万円、税金合計約115万円)。
- 月80万円(年960万円):社会保険料は各約143万円。社長の手取り約688万円(所得税約71万円・住民税約58万円)。法人は会社負担の社会保険料の分だけ約143万円の赤字になり、均等割7万円のみ。合計約538万円(社会保険料合計約286万円、税金合計約136万円)。
この仮定例では、報酬を低くするほど「社長+法人」の合計は多く残りますが、社長個人の手取りは少なくなります。月30万円では手取り約287万円で生活できるか、月80万円では法人が赤字でよいか、という②と①の制約の中で、③のバランスを取るのが役員報酬の決め方です。実務では、生活費を賄える額を下限に、法人が少し黒字になる範囲で設定し、2年目以降に実績を見て3か月以内の通常改定で調整する、という進め方が多くなります。法人化そのものの損得は「個人事業主の法人化はいくらから?」をご覧ください。
家族を役員・従業員にする場合の注意
- 勤務実態と報酬の妥当性:配偶者や親族への役員報酬・給与は、実際に行っている業務の内容と時間に見合った額であることが前提です。実態のない家族への支払いは損金になりません。業務内容を記録しておきます。
- 非常勤役員:経営に関与するが常勤ではない家族を非常勤役員にして報酬を払う場合、報酬額は職務に見合った少額になるのが通常で、社会保険は常勤性がなければ加入しない扱いになることがあります(年金事務所の判断基準に従います)。
- 扶養の範囲:家族の報酬を年130万円未満(社長の社会保険の被扶養者の基準)に抑えて扶養に入れる方法と、報酬を増やして所得を分散する方法があり、世帯全体の税金と社会保険料で比較します。
- 家族の報酬も定期同額給与:家族が役員なら、社長と同じく3か月以内の決定と期中変更の制限が適用されます。
初年度特有の注意
- 売上が読めないときの決め方:個人事業からの法人成りなら、直近の個人の利益を基礎に見込みを立てます。新規の事業で見込みが立たない場合は、生活費を賄える最低限の額で始め、3か月以内に見込みが立てば通常改定の範囲で調整します。初年度の事業年度を短くして(たとえば設立から決算まで6〜8か月)、2年目の期首に実績をもとに改定する方法もあります。
- 役員貸付金を作らない:報酬を低くしすぎて生活費を会社から引き出すと役員貸付金になり、認定利息や役員賞与の認定の問題が生じます。「報酬を低くして会社に残す」のは、生活費が別に確保できている場合に限ります。
- 社会保険の手続き:報酬を決めたら、年金事務所に新規適用届と被保険者資格取得届を提出し、報酬額に応じた標準報酬月額で保険料が決まります。報酬の変更で標準報酬が2等級以上変わると、月額変更届が必要です。
- 源泉所得税と年末調整:役員報酬からは源泉所得税を徴収し、原則翌月10日(納期の特例なら7月と1月)に納付します。年末には社長自身の年末調整を行います。
- 退職金の準備:役員退職金は損金になり受け取る側の税負担も軽いため、報酬を抑えて法人に残す場合は、退職金規程と原資(保険・共済)の準備を早めに始めます。
当事務所では、設立前の面談で売上・経費の見込みと生活費を伺い、役員報酬の目安と法人に残る利益、社会保険料・税金の概算をお伝えしています。医療法人の理事長報酬の考え方も基本は同じです(「医療法人の理事長・理事の役員報酬と退職金」参照)。サービスと料金は会社設立サポートのページをご覧ください。
まとめ:3か月以内に決めて期中は変えない。生活費を下限に、法人が少し黒字になる額で
役員報酬は定期同額給与として、設立から3か月以内(2年目以降は事業年度開始から3か月以内)に決め、期中の増額は損金になりません。賞与は事前確定届出給与として届出どおりに支払います。金額は、法人に残す利益、社長の生活費、社会保険料と所得税のバランスの3つの軸で決め、仮定例では報酬を低くするほど「社長+法人」の合計は多く残るものの、生活費が賄えなければ役員貸付金が増えて逆効果です。家族への報酬は勤務実態と妥当性が前提で、初年度は生活費を賄える額で始めて3か月以内に調整し、社会保険・源泉・退職金の準備を合わせて整えてください。
「設立初年度の役員報酬の決め方」まとめ
- 定期同額給与:設立から3か月以内に決定(議事録)、期中の増額は損金不算入、減額も制限あり。賞与は事前確定届出給与(新設法人は設立から2か月以内に届出)
- 決める軸:①法人に残す利益(少し黒字が目標)②社長の生活費(手取りで賄える額が下限)③社会保険料約30%折半と所得税の累進のバランス
- 仮定例(報酬前利益960万円):月30万円=合計約700万円(手取り287万)、月50万円=約666万円(手取り465万)、月80万円=約538万円(法人赤字)
- 家族への報酬は勤務実態と妥当性が前提。非常勤役員・扶養130万円・世帯全体で比較
- 初年度:見込みが立たなければ最低限で始めて3か月以内に調整、役員貸付金を作らない、社保の届出・源泉・退職金準備
「役員報酬」に関するよくある質問
設立から3か月を過ぎて初めて役員報酬を決めた場合、その後に毎月同額で支払えば、支払い開始後の分は定期同額給与として損金にできるのが一般的な取り扱いです(3か月以内に決めた場合との違いは、最初の数か月に支払っていない分をさかのぼって支払えないことです)。問題になるのは、一度決めた額を期中に増額する場合です。設立初年度で報酬をまだ決めていない方は、できるだけ早く決定して議事録を作り、社会保険の加入手続きを行ってください。判断に迷う場合は、決める前にご相談いただければ、損金算入の可否を確認したうえで進められます。
経営状況が著しく悪化し、取引先や金融機関との関係で役員報酬を減額せざるを得ないといった事情(業績悪化改定事由)がある場合は、期中の減額が認められ、減額後の額が定期同額給与として扱われます。単に「利益が出なそうだから」という理由では認められない可能性があり、売上の急減・資金繰りの悪化などの客観的な事情と、株主総会などの決議の記録が必要です。減額した場合、社会保険の標準報酬月額も月額変更届で下げられます。「払えないから未払いにする」と、未払いの報酬は損金になっても社会保険料と源泉所得税の負担は残るため、早めに減額の決議をしたほうが整理できます。
できますが、税務上は有利になりにくい方法です。配当は法人税を払った後の利益から支払うため法人の損金にならず、受け取った社長側でも配当所得として課税されます(配当控除はあります)。役員報酬は法人の損金になり、給与所得控除が使えるため、同じ金額を社長に渡すなら報酬のほうが法人と個人を合わせた税負担は小さくなるのが通常です。配当には社会保険料がかからないという面はありますが、「報酬を低くして配当で補う」より、「生活費を賄える報酬を定期同額で設定し、残りは法人に留保して将来の退職金で受け取る」ほうが、税負担と手続きの両面で整理しやすい方法です。
設立初年度の役員報酬は、横浜の岩本隆一税理士事務所と一緒に決めませんか。
「いくらにすればいいか目安がほしい」「社会保険料込みで手取りを試算したい」「家族への報酬の決め方を相談したい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内で起業・法人化する方を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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