売上は伸びているのにお金が残らない理由|利益と資金繰りのズレを数字で確認する方法

売上は伸びているのにお金が残らない理由|利益と資金繰りのズレを数字で確認する方法

横浜市で中小企業の経営者コーチングと税務顧問を行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。

「売上は去年より増えて、決算書では利益も出ている。それなのに口座のお金は減っている。どこに消えているのか」――経営者コーチングで最も多く出てくる疑問の一つです。利益と現金は別のものです。利益は「売上と費用の差」、現金は「入金と出金の差」で、売上が伸びているときほど、この2つは大きくズレます。ズレの原因は決まっていて、数字で確認できます。

この記事では、利益と現金がズレる主な原因(売掛金の増加・在庫・借入返済・税金・設備投資・役員貸付金)、簡単な「お金の流れ」の確認方法(キャッシュフローの3区分を簡略化したもの)、仮定例(売上1.3倍で現金が減ったケース)、改善の打ち手(回収条件・在庫・返済計画・納税予測)、毎月の確認習慣とコーチングでの進め方を解説します。本記事は2026年11月6日時点の内容で、計算例はすべて仮定例です。

利益と現金がズレる主な原因

  • 売掛金の増加:売上は請求した時点で計上されますが、現金は入金されて初めて増えます。回収まで2か月かかる取引が中心なら、売上が月100万円増えると、売掛金(まだ入金されていない売上)が200万円増え、その分の現金は手元にありません。売上が伸びるほど、入金待ちのお金が増えます。
  • 在庫の増加:仕入れた商品や材料は、売れるまで費用になりません。売上に備えて在庫を増やすと、現金は減っているのに費用にはならず、利益は減りません。
  • 借入金の元本返済:借入の返済のうち利息は費用になりますが、元本の返済は費用になりません。年間600万円を返済していれば、利益には現れずに現金だけが600万円減ります。
  • 税金の支払い:法人税などは前期の利益に対して当期に納め、消費税は預かった分を納めるため、利益が増えた翌年に納税で現金が大きく減ります。
  • 設備投資:車や機械などの購入代金は、購入した年に全額費用になるのではなく、減価償却として数年に分けて費用になります。現金は一度に減り、費用は少しずつ、というズレが生じます。
  • 役員貸付金・個人への流出:社長が会社の口座から引き出した生活費や、個人の支払いを会社が立て替えた分は、費用ではなく役員貸付金(会社の資産)になり、利益を減らさずに現金だけが減ります(「法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?」)。

逆に、買掛金や未払金が増えれば(支払いを待ってもらっていれば)、費用は計上されても現金は減りません。減価償却費は費用ですが現金は出ていきません。これらを整理したのが、次の「お金の流れ」の確認方法です。

簡単な「お金の流れ」の確認方法

キャッシュフロー計算書を作らなくても、試算表(貸借対照表と損益計算書)の前期末と当期末を比べれば、お金の流れは3つの区分で確認できます。

お金の流れを見る3つの区分

試算表の前期末と当期末を比べれば、キャッシュフロー計算書がなくても確認できます。

1
本業で生んだ現金税引後利益+減価償却費から、売掛金・在庫の増加を引き、買掛金・未払金の増加を足します。
2
投資に使った現金設備・車・ソフトウェアなどの購入額です。役員貸付金の増加もここに入れて見ると分かりやすくなります。
3
借入と返済の現金新規の借入額から元本の返済額を引いた額です。元本の返済は費用にならず、現金だけが減ります。
3つの区分の合計が、その期の現預金の増減と一致します。
本文の説明を図にまとめたものです。
  • ① 本業で生んだ現金(営業のお金):税引後利益+減価償却費-売掛金の増加-在庫の増加+買掛金・未払金の増加。売上が伸びているときは、売掛金と在庫の増加で利益より小さくなりがちです。
  • ② 投資に使った現金(投資のお金):設備・車・ソフトウェアなどの購入額(売却があればプラス)。役員貸付金の増加もここに入れて見ると分かりやすくなります。
  • ③ 借入と返済の現金(財務のお金):新規の借入額-元本の返済額。

①+②+③が、その期の現預金の増減と一致します。「利益が出ているのに現金が減った」ときは、①で売掛金・在庫が増えているか、②の投資が①を上回っているか、③の返済が多いか、のどれかです。貸借対照表の「売掛金」「商品(在庫)」「固定資産」「借入金」「役員貸付金」の前期末と当期末の差を並べるだけで、原因は特定できます。

数字で見る仮定例:売上1.3倍で現金が減ったケース

前期の売上6,000万円、粗利率40%、固定費2,000万円の会社が、当期に売上7,800万円(1.3倍)になった場合を考えます。固定費は人員増で2,300万円、粗利は3,120万円、営業利益は820万円(前期400万円)と、利益は2倍以上になりました。ところが当期の現預金は約1,000万円減りました。内訳は次のとおりです。

  • 本業で生んだ現金:税引後利益574万円+減価償却150万円-売掛金の増加300万円(回収2か月、月商が500万円→650万円で売掛残高が1,000万円→1,300万円)-在庫の増加250万円(400万円→650万円)+買掛金の増加100万円=274万円。利益820万円に対して、本業で残った現金は274万円です。
  • 投資に使った現金:売上増に備えた設備投資600万円+役員貸付金の増加100万円=700万円。
  • 借入と返済:新規借入なし、元本返済600万円。
  • 合計:274万円-700万円-600万円=▲1,026万円。

この会社の問題は「利益が出ていない」ことではなく、「売上が伸びたことで売掛金と在庫に550万円が寝ている」「設備投資600万円を自己資金で払った」「返済600万円が本業の現金274万円を上回っている」の3点です。さらに翌期には、当期の利益に対する法人税と、売上増に伴う消費税の納税が待っています。この構造を知らずに売上をさらに伸ばすと、黒字のまま資金が尽きる「黒字倒産」の形になります。

改善の打ち手

  • 回収条件の見直し:請求を月末まとめではなく納品の都度にする、回収サイトを短くする、着手金や前受金をもらう、入金の遅い取引先に督促のルールを作る。売掛金の回転期間(売掛金÷月商)を1か月短くするだけで、月商分の現金が手元に戻ります。
  • 在庫の管理:発注の基準(安全在庫)を決め、動かない在庫を把握して処分し、仕入れを売上の見込みに合わせます。在庫の回転期間(在庫÷月あたり原価)を毎月見ます。
  • 返済計画と借入の使い分け:設備投資は自己資金ではなく設備資金の借入で行い、返済期間を設備の耐用年数に合わせます。売上が伸びるときの売掛金・在庫の増加分は「増加運転資金」として金融機関に相談できます。複数の借入があれば、借換えで月々の返済額を下げる選択肢もあります。
  • 納税予測と納税資金の分離:毎月の試算表から年間の利益と納税額を予測し、消費税の預かり分と法人税の見込額を別口座に積み立てます(個人事業主の納税の時期は「個人事業主の1年の納税スケジュール」)。
  • 役員貸付金を増やさない:役員報酬を生活費に見合う額に設定し、会社の口座から個人の支出を払わない運用にします。
  • 売上の伸ばし方を選ぶ:回収の早い取引、在庫の要らない商品、前受金のある契約を優先して伸ばせば、売上増と現金増が近づきます。

毎月の確認習慣と、コーチングで扱う進め方

月次の試算表で、現預金残高・売掛金・在庫・借入残高・役員貸付金の5つの残高を前月と並べ、増減の理由を一言で言えるようにしておくと、ズレが大きくなる前に気づけます(試算表の読み方は「試算表の見方|経営者が毎月チェックする5つの数字」)。3か月先までの入出金を予測する資金繰り表を作れば、納税や返済で現金が足りなくなる月が事前に分かります(「簡易版・資金繰り表の作り方」)。

当事務所の経営者コーチングでは、この「利益と現金のズレ」を最初のテーマにすることが多く、試算表から3区分のお金の流れを一緒に作り、どの打ち手から着手するかを経営者ご自身に決めていただきます。顧問契約の有無にかかわらずご利用いただけます(「経営者コーチングとは?」、経営者コーチングのページ)。

まとめ:お金は売掛金・在庫・返済・税金・投資・役員貸付に向かう。3区分で毎月確認する

利益が出ているのに現金が残らないのは、売上増に伴う売掛金と在庫の増加、借入の元本返済、前期分の納税、設備投資、役員貸付金のどれかに現金が向かっているからです。試算表の前期末と当期末を比べ、「本業で生んだ現金」「投資に使った現金」「借入と返済の現金」の3区分に整理すれば、原因は数字で特定できます。仮定例では、利益820万円の会社が売掛・在庫の増加と自己資金での設備投資、返済で約1,000万円の現金減になりました。回収条件・在庫・借入の使い分け・納税予測・役員貸付の抑制を打ち手にし、毎月5つの残高を確認し、資金繰り表で3か月先を見ることが対策です。

「売上は伸びているのにお金が残らない理由」まとめ

  • 利益=売上-費用、現金=入金-出金。ズレの原因は売掛金増・在庫増・元本返済・納税・設備投資・役員貸付金
  • 3区分で確認:①本業(税引後利益+減価償却-売掛増-在庫増+買掛増)②投資(設備・役員貸付)③財務(借入-返済)。合計=現預金の増減
  • 仮定例:売上1.3倍・営業利益820万円でも、売掛+在庫増550万、設備600万、返済600万で現金▲1,026万円
  • 打ち手:回収サイト短縮・前受金、在庫基準、設備は借入で・増加運転資金の相談、納税資金の分離、役員貸付を増やさない、回収の早い売上を優先
  • 毎月、現預金・売掛金・在庫・借入・役員貸付金の残高を前月と並べ、3か月先の資金繰り表で納税・返済の月を把握

「利益と資金繰りのズレ」に関するよくある質問

A.売上を増やすこと自体は正しい方向ですが、「どの売上を、どの条件で増やすか」で現金への影響が変わります。回収に2か月かかり在庫も必要な取引を増やせば、売上増の初期は現金が減ります。その分をあらかじめ増加運転資金として借り入れておけば、黒字のまま資金が尽きる事態は避けられます。逆に、前受金や即時決済の売上、在庫の要らないサービスの売上を増やせば、売上と現金が同時に増えます。売上目標を立てるときに、「その売上で売掛金と在庫がいくら増え、現金がいつ入るか」まで一緒に計算するのが、コーチングで最初に行うことです。

A.返済原資(税引後利益+減価償却費)が年間返済額を下回る状態が続くと、現預金は確実に減っていきます。対策は3つです。第一に、借換えや返済期間の延長で月々の返済額を返済原資の範囲内に下げる(金融機関に相談します。資金繰り表と返済計画があると話が早く進みます)。第二に、利益を増やす(粗利率の改善・固定費の見直し)。第三に、売掛金と在庫を減らして本業の現金を増やす。返済条件の変更は、延滞してからでは選択肢が狭まるため、現預金が月商の1か月分を切る前に動いてください。納税が重なる場合は、納税の猶予制度も検討します(「国税を一度に払えないときは?」)。

A.同じです。個人事業主の場合は「役員貸付金」の代わりに「事業主貸(生活費の引き出し)」があり、利益から生活費・所得税・住民税・国民健康保険料・事業税を引いた残りが、事業に残るお金です。売掛金・在庫・借入返済・設備投資の影響は法人と変わりません。個人事業主は納税が3月・6月・7月・8月・11月に分散して来るため、利益と現金のズレに納税の時期のズレが重なります。月次で現預金・売掛金・在庫・借入・事業主貸の残高を確認し、納税予定額を別口座に積み立てておくことをおすすめします。

「利益は出ているのにお金がない」を数字で解きほぐす経営者コーチングは、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。

「お金がどこに消えているか確認したい」「売上を伸ばしながら現金も残したい」「返済と納税の計画を立てたい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内の中小企業の経営者・個人事業主を中心に、代表税理士が直接対応します。顧問契約の有無にかかわらずご利用いただけます。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。

執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

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「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
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