拠点区分・サービス区分・事業区分の分け方|社会福祉法人会計基準の区分と共通経費の配分ルール

横浜市で社会福祉法人・介護事業者のサポートを手掛ける、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「拠点区分とサービス区分をどう分ければいいのか、前任者から引き継いだまま理由が分からない」「本部の人件費や水道光熱費を、どの基準で各事業所に配分すればいいのか」「指導監査で区分経理について指摘を受けた」――複数の施設・事業所を運営する社会福祉法人の経理担当の方から、いちばん多くいただくのがこの種のご相談です。
社会福祉法人会計基準は、法人全体を「事業区分」「拠点区分」「サービス区分」の3つの階層で区分して計算書類を作ることを求めています。この区分が曖昧だと、計算書類の正確性だけでなく、介護報酬や給付費の資金使途制限、指導監査、そして「どの事業が黒字でどの事業が赤字か」という経営判断にまで影響します。この記事では、3つの区分の考え方と設定ルール、共通支出の配分基準と配分表の作り方、区分間の資金移動のルール、区分を変更するときの手順を整理します。本記事は2026年11月6日時点の社会福祉法人会計基準(厚生労働省令)、運用上の取扱い(局長通知)、運用上の留意事項(課長通知)に基づいています。
3つの区分の階層と、どの単位で計算書類を作るか
社会福祉法人会計基準では、会計の区分を次の3階層で設定します。
法人全体を3つの階層で区分し、それぞれの単位で計算書類を作ります。
- 事業区分:社会福祉法に基づく「社会福祉事業」「公益事業」「収益事業」の3つです。法人が社会福祉事業しか行っていなければ、事業区分は1つです。
- 拠点区分:事業区分の中を、一体として運営される施設・事業所・事務所の単位で分けたものです。特別養護老人ホームAと障害者支援施設Bを運営していれば、それぞれが拠点区分になります。
- サービス区分:拠点区分の中で行う複数の事業を、介護保険法や障害者総合支援法などの法令の要請に応じてサービスの種類ごとに分けたものです。たとえば特養の拠点の中に「特養」「短期入所」「通所介護」「居宅介護支援」のサービス区分を置く、といった形です。
計算書類は、法人全体、事業区分別(内訳表)、拠点区分別(内訳表と各拠点の計算書類)の単位で、資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表を作ります。さらに拠点区分ごとに、サービス区分別の内訳を示す「拠点区分資金収支明細書」「拠点区分事業活動明細書」を作りますが、事業の種類に応じていずれか一方を省略できます(介護保険事業や障害福祉サービス事業などは事業活動明細書を作成し、資金収支明細書は省略可。措置施設などはその逆)。社会福祉事業しか行っていない法人は事業区分別の様式を、拠点が1つの法人は拠点区分別の様式を、サービス区分が1つの拠点は明細書を、それぞれ省略できます。事業区分間・拠点区分間・サービス区分間の内部取引は、それぞれの合計で相殺消去します。
拠点区分の設定ルール
拠点区分の設定で押さえておくべきルールは次のとおりです(運用上の留意事項 第4)。
- 原則:「一体として運営される施設、事業所又は事務所」を1つの拠点区分とします。場所・職員・管理が一体かどうかが基準です。
- 必ず独立した拠点にする施設:保護施設、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、障害者支援施設、児童養護施設など、留意事項に列挙された施設は施設ごとに独立した拠点区分にします。
- 公益事業・収益事業は別の拠点に:公益事業(社会福祉事業と一体的に実施されているものを除く)と収益事業は、社会福祉事業とは別の拠点区分にします。収益事業の区分経理は法人税の計算の前提にもなります。
- 同一拠点にできる場合:同じ事業所・事務所で複数の事業を行っている場合、指定基準上「一の事業所」や「多機能型事業所」として扱われる複数の事業所、一元的に管理されている複数の事業所・施設は、同一の拠点区分として処理できます。
- 法人本部:法人本部の経理は、社会福祉事業区分の中に「本部」の拠点区分を置くか、いずれかの拠点のサービス区分として設ける方法が一般的です。本部の費用は各拠点からの繰入金収入でまかなう形になります。
- 新設:新たに施設を建設するときは、建設仮勘定などを管理するために拠点区分を設けることができます。
よくある誤りは、「建物が同じだから」という理由だけで特養とデイサービスを同一拠点にしているケースや、逆に、同じ事務所で一体運営している訪問介護と居宅介護支援を別々の拠点に分けて、本部費用の配分を複雑にしているケースです。「一体として運営されているか」を基準に、職員配置・管理体制・場所の3点で判断します。
横浜市が公表した指導監査の指摘:設けるべき拠点区分がなかった例
横浜市こども青少年局が公表している令和7年度の指導監査結果(社会福祉法人)には、「設けるべき拠点区分が設けられていなかった」として、会計省令と関係通知に基づいて適正な拠点区分を設けるよう求めた文書指摘が載っています。
計算書類は拠点区分ごとにも作成するため、設定が漏れていると、その拠点の計算書類や附属明細書も作られないことになります。施設や事業所を新設・統合したときは、上のルールに照らして拠点区分の設定を見直しておきましょう。
出典:横浜市こども青少年局「令和7年度 指導監査結果一覧(社会福祉法人)」(掲載ページ:指導監査結果)
サービス区分の設定と法令の要請
サービス区分は「法令等の要請により区分する」ものです。介護保険事業は、介護報酬の資金使途の管理のため、指定事業所・サービスの種類ごとに区分するのが基本です。障害福祉サービスは、生活介護・就労継続支援・共同生活援助などサービスの種類ごとに区分します。保育所、措置施設、生活保護関係の施設も、それぞれの運営費・委託費の使途管理の単位で区分します。
サービス区分は「細かく分ければ正確」というものではありません。区分を増やすほど共通支出の配分が増え、配分の根拠を説明する負担も増えます。法令が求める単位を最小限として設定し、法人独自に細分化するときは、その目的(たとえば加算の実績管理や部門別の採算管理)を明確にしておきます。
共通支出の配分基準と配分表の作り方
複数の拠点区分・サービス区分にまたがる支出(共通支出)は、合理的な基準で各区分に配分します。留意事項の第13では「共通支出及び費用の具体的な科目及び配分方法は別添1のとおりとするが、これによりがたい場合は、実態に即した合理的な配分方法によることとして差し支えない」とされ、「どのような配分方法を用いたか分かるように記録しておくことが必要」と明記されています。別添1で例示されている配分基準は、おおむね次のとおりです。
- 人件費:勤務時間割合(職員ごとの勤務実績)。勤務時間で分けることが難しい場合は、職員数の割合など。
- 水道光熱費・修繕費・賃借料・建物の減価償却費・保険料:建物の床面積比(必要に応じて延利用者数との併用)。
- 燃料費・通信運搬費・事務消耗品費・保守料:延利用者数など、利用の程度を示す指標。
- 車両の減価償却費・車両費:使用日数や走行距離、延利用者数。
- 国庫補助金等で取得した資産の減価償却費:補助目的に沿った拠点区分・サービス区分に配分(留意事項 第17)。
実務では、次のような「配分表」を毎期作っておくと、計算の再現性と説明のしやすさが格段に上がります。
- 対象科目と金額:どの科目のいくらを配分するか。
- 配分基準と根拠データ:床面積なら図面上の面積、勤務時間なら勤務表、延利用者数なら実績集計表。
- 配分割合と配分額:区分ごとの割合と計算結果。
- 作成者・承認者・作成日:経理規程の決裁区分に沿った承認。
- 変更履歴:職員の異動や面積の変更で基準を変えた場合の理由と時期。
配分基準は「毎期継続的に」適用することが求められます。期によって基準を変えると、区分別の収支が比較できなくなり、指導監査でも説明を求められます。変更が必要なときは、理由を記録したうえで期首から適用します。
区分間の資金移動(繰入・貸付)のルールと制限
拠点区分やサービス区分の間で資金を移動させるときは、「繰入金」(返済しない移動)と「貸付金・借入金」(返済する移動)を区別し、附属明細書(事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書、同貸付金(借入金)残高明細書、サービス区分間の各明細書)に記載します。ここで必ず確認しなければならないのが、介護報酬・給付費・措置費・委託費それぞれの「資金使途制限」の通知です。
- 介護保険事業:特別養護老人ホームなどの介護報酬は、厚生労働省の通知(特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等)により、同一法人の社会福祉事業・公益事業(法人本部を含む)への繰入が一定の範囲で認められていますが、収益事業への繰入は認められていません。
- 障害福祉サービス事業:自立支援給付費についても同様に、資金の使途と他の事業への繰入の範囲が通知で定められています。
- 措置施設・保育所(委託費):措置費・委託費は使途が厳しく制限されており、弾力運用の要件(第三者評価の受審、苦情解決の仕組み、適正な運営など)を満たした場合に限り、一定の範囲で法人本部の運営経費や他の施設への繰入が認められます。
- 年度内の返済:資金使途制限に関する通知で年度内の返済が求められている貸付が年度末に返済されていない場合は、サービス区分間貸付金(借入金)残高明細書の作成が必要になり、指導監査でも指摘の対象になります。
「資金が足りない拠点に、余裕のある拠点から一時的に回した」という処理が、通知に反する繰入や年度をまたぐ貸付になっていることは珍しくありません。資金移動は理事会の承認(経理規程の定め)を経て、どの通知のどの範囲で認められる移動なのかを記録しておきます。
区分を変更するときの手順と、区分別収支を経営に活かす方法
拠点区分・サービス区分の新設・統合・廃止は、期首から適用するのが原則です。期中に変更すると、前期との比較ができず、内部取引の消去や配分の再計算が複雑になります。手順としては、①変更の理由と新しい区分表を文書化する、②経理規程の別表や会計ソフトの部門設定を更新する、③過去との比較が必要な場合は組替え後の数値を注記で説明する、④判断に迷う場合は所轄庁に事前に相談する、という流れです。
区分経理は監査のためだけのものではありません。サービス区分別の事業活動明細書は、そのまま「事業ごとの損益計算書」として読めます。人件費率が高い事業、利用者数の減少で赤字に転じた事業、加算の取得で改善した事業が数字で見えるため、理事会での事業の継続・縮小・拡大の判断材料になります。配分基準を整えて区分別の収支を毎月見られる状態にしておくことが、経営管理の出発点です。
当事務所では、横浜市内の社会福祉法人を中心に、拠点区分・サービス区分の設定の見直し、共通支出の配分表の作成、資金使途制限に沿った繰入・貸付の整理、会計ソフト(freee・マネーフォワード・社会福祉法人向けソフト)での部門設定、指導監査で区分経理の指摘を受けた場合の改善までサポートしています。詳しくは社会福祉法人・介護サポートのページをご覧ください。決算書類の全体像は「社会福祉法人の決算・会計の基本」、監査で見られる会計項目は「社会福祉法人の指導監査とは?」で解説しています。
まとめ:区分経理は「一体運営の単位」と「配分の記録」で決まる
事業区分は社会福祉事業・公益事業・収益事業の3つ、拠点区分は一体として運営される施設・事業所の単位、サービス区分は法令の要請によるサービスの種類の単位です。共通支出は別添1の基準(勤務時間・床面積・延利用者数など)または実態に即した合理的な方法で配分し、配分表として記録を残します。区分間の資金移動は、介護報酬・給付費・措置費の資金使途制限の通知に沿って、繰入と貸付を区別して管理します。この3点が整えば、計算書類の正確性と経営判断の両方が手に入ります。
「拠点区分・サービス区分の分け方」まとめ
- 区分は「事業区分(社会福祉・公益・収益)」→「拠点区分(一体運営の施設・事業所)」→「サービス区分(法令の要請による事業の種類)」の3階層
- 特養・障害者支援施設など列挙された施設は施設ごとに独立拠点。公益事業・収益事業は別拠点。同一事業所・多機能型・一元管理なら同一拠点にできる
- 共通支出は別添1の基準(人件費=勤務時間、建物関係=床面積、消耗品等=延利用者数)か実態に即した合理的方法で配分し、配分表に記録して毎期継続
- 国庫補助金で取得した資産の減価償却費は補助目的の区分へ
- 区分間の資金移動は繰入と貸付を区別し、介護報酬・給付費・措置費の資金使途制限に沿って理事会承認と明細書で管理。収益事業への繰入は不可
- 区分の変更は期首から。サービス区分別の収支を毎月見て経営判断に使う
「拠点区分・サービス区分」に関するよくある質問
同じ事務所で一体として運営されているなら、1つの拠点区分とし、その中に「訪問介護」「居宅介護支援」のサービス区分を置く形が原則に沿っています。それぞれ介護保険の指定事業所なので、サービス区分は分ける必要があります。事務所の家賃や事務職員の人件費は、床面積比や勤務時間割合で2つのサービス区分に配分し、配分表を残しておきます。なお、別の場所に事務所を構えて管理者も別であれば、別の拠点区分にするのが実態に合います。
別添1の原則は「勤務時間割合」です。勤務表やシフト表から、各事業所で勤務した時間の割合を月ごとまたは年間で集計し、その割合で給与・賞与・法定福利費を配分します。勤務時間の把握が難しい場合は職員数の割合などの代替基準も認められますが、介護保険や障害福祉の人員基準上の配置(常勤換算)と整合させる必要があるため、勤務時間で管理するのが安全です。配分割合の根拠となる勤務表は、配分表と一緒に保管してください。
社会福祉事業区分の中に「法人本部」の拠点区分を設けるか、いずれかの拠点の中にサービス区分として「本部」を置く方法が一般的です。本部の人件費・会議費・事務費などは、各拠点・サービス区分からの繰入金収入でまかなう形になりますが、介護報酬・給付費・措置費・委託費のどこから、どの範囲で本部へ繰り入れられるかは、それぞれの資金使途制限の通知で異なります。本部への繰入額は、本部の実際の費用を上限とし、各拠点の負担割合(収入比や利用者数など)を決めて理事会の承認を受けておくと、監査で説明しやすくなります。
社会福祉法人の区分経理・配分基準の整備は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「拠点区分・サービス区分の設定が合っているか見てほしい」「共通経費の配分表を作りたい」「資金の繰入が通知の範囲内か確認したい」など、社会福祉法人の会計・税務のことなら、どんなことでもお気軽にご相談ください。横浜市内の法人を中心に、代表税理士が直接対応します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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