MS法人(メディカルサービス法人)とは?活用のメリット・リスクと、勧められないケース

MS法人(メディカルサービス法人)とは?活用のメリット・リスクと、勧められないケース

横浜市でクリニック・医療法人の税務をサポートしている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。

「コンサルタントにMS法人を作るよう勧められたが、本当に節税になるのか」「医療法人と別に会社を作って何をするのか」「リスクはないのか」――医療法人の理事長やクリニックの院長から、MS法人(メディカルサービス法人)についてのご相談は少なくありません。MS法人は使い方によっては有効ですが、「とりあえず作る」提案には注意が必要で、実態のない法人への支払いは税務調査で否認されるリスクが高く、医療法人の非営利性との関係でも問題になります。

この記事では、MS法人の仕組み、メリット、リスクと注意点(取引価格の妥当性・実態のない業務委託・医療法人の非営利性・税務調査での確認)、向いているケースと向かないケース(当事務所が勧めない基準)、設立前に試算することを、中立的な立場で解説します。本記事は2026年11月6日時点の医療法・法人税法・消費税法と厚生労働省の通知に基づいています。

MS法人の仕組み

MS法人とは、医療法人や個人クリニックとは別に設立した株式会社・合同会社などの営利法人で、医療行為以外の業務を担う会社の通称です。法律上の制度名ではなく、一般の会社と同じ手続きで設立します。医療法人は剰余金の配当が禁止され、行える業務も医療法で限定されているため、医療に付随する次のような業務をMS法人に切り出すことで、利益の受け皿や事業の幅を確保する目的で使われます。

  • 不動産の所有・賃貸:クリニックの建物や医療機器をMS法人が所有し、医療法人に賃貸する。
  • 医療事務・経営管理の受託:受付・レセプト業務、経理、人事、経営企画などを受託する。
  • 物品販売・物販の運営:サプリメント、化粧品、コンタクトレンズ、介護用品などの販売。
  • 医療法人では行いにくい事業:介護事業、健康関連サービス、人材紹介など。
  • 清掃・リネン・給食などの業務受託。

医療法人や個人クリニックは、これらの業務の対価(賃料・委託料・仕入代金)をMS法人に支払い、MS法人はその収入から経費を差し引いた利益を法人に残すか、役員報酬・配当として分配します。

MS法人を使った取引の流れ

医療行為以外の業務をMS法人に切り出し、その対価を支払う仕組みです。

医療以外の業務を切り出す不動産の所有・賃貸、医療事務や経営管理の受託、物品販売などをMS法人が担います。
医療法人等が対価を支払う医療法人や個人クリニックは、業務の対価として賃料・委託料・仕入代金をMS法人に支払います。
MS法人で利益を計算する株式会社・合同会社などの営利法人として、受け取った収入から経費を差し引いて利益を計算します。
利益を残すか分配する利益は法人に残すか、役員報酬・配当として分配します(医療法人は剰余金の配当が禁止されています)。
対価は、第三者に委託した場合の相場で説明できる額にすることが前提です。
本文の説明を図にまとめたものです。MS法人は法律上の制度名ではなく、一般の会社と同じ手続きで設立します。

MS法人のメリット

  • 所得の分散:医療法人・院長個人に集中していた所得を、MS法人とその役員(家族など)に分けることで、累進税率の負担を下げられる可能性があります。ただし、MS法人の役員には社会保険料がかかり、法人の維持コストもかかるため、分散の効果だけで判断はできません。
  • 事業承継の選択肢:持分なし医療法人の財産は個人に戻りませんが、MS法人は株式会社なので株式を子などに承継できます。医師でない家族に事業の一部を残したい場合の受け皿になります。
  • 医療法人では難しい事業の受け皿:物販や介護、不動産の運用など、医療法人の業務範囲外の事業をMS法人で行えます。
  • 業務の分離による管理のしやすさ:事務部門や複数の分院に共通する管理業務を一つの法人に集約できます。

リスク・注意点

  • 取引価格の妥当性:医療法人からMS法人への賃料・委託料が市場の相場より高いと、高い部分は医療法人の損金にならず(寄附金や役員給与として扱われることがある)、逆に相場より安いとMS法人側に受贈益の問題が生じます。「第三者に頼んだらいくらか」で説明できる価格と、その根拠(見積・相場資料・業務内容の明細)が必要です。
  • 実態のない業務委託:MS法人に従業員も設備もなく、実際の業務は医療法人の職員が行っているのに委託料だけを払っている場合、その支払いは経費として認められず、意図的と判断されれば重加算税の対象になります。契約書があるだけでは足りず、誰が・何を・どこで行ったかの記録(業務日報、成果物、請求明細)が求められます。
  • 医療法人の非営利性との関係:医療法人の役員が、取引のあるMS法人の役員を兼ねることは、厚生労働省の通知で原則として認められておらず、取引額が少額で非営利性に影響がないなど一定の場合に限って例外的に認められます。医療法人の設立認可や役員変更の際に、MS法人との関係が確認されます。理事長が同時にMS法人の代表を務め、医療法人の資金がMS法人に流れている構図は、所轄庁からも税務署からも注視されます。
  • 消費税のコスト:医療法人は社会保険診療が非課税で、支払った消費税のほとんどを控除できません。MS法人への委託料や賃料には消費税がかかるため、その10%分は実質的に医療法人のコスト増になります。一方、MS法人側は課税売上として消費税を納めることになり、グループ全体で見ると消費税の負担が新たに発生します。
  • 税務調査での確認:医療法人の調査では、MS法人との取引の契約書、価格の根拠、業務の実態、MS法人の役員・従業員の勤務実態、MS法人から院長家族への役員報酬の妥当性が確認されます。MS法人が同族会社に当たる場合は、MS法人側の行為又は計算について同族会社の行為計算の否認(法人税法132条)が適用される可能性もあります。
  • 維持コスト:法人住民税の均等割(最低年7万円程度)、決算申告の費用、役員の社会保険料、記帳の手間が毎年かかります。

(仮定例)医療事務の委託先のMS法人に業務の実態がない場合

医療法人が、院長の家族が経営するMS法人に「医療事務の委託料」を毎月支払っているものの、受付やレセプトの業務は実際には医療法人の職員が行っており、MS法人には従業員も業務日報もない、という場合を考えます。

この場合、税務調査では委託料に見合う業務がMS法人で行われていないとして、医療法人の損金算入が否認されるおそれがあります。委託を続けるのであれば、MS法人が担う業務を具体的に切り出し、MS法人側で人員を確保して業務記録と請求明細を残し、委託料を第三者に頼んだ場合の相場に合わせることが前提です。実態を整えられない場合は、委託をやめることも選択肢になります。実際の事例ではありません。

向いているケース・向かないケース(当事務所が勧めない基準)

当事務所では、MS法人を必ず勧めることはしていません。実態を伴う業務があり、それに見合った報酬で、維持コストと消費税を加味してもメリットがある場合に限ってご提案します。目安は次のとおりです。

  • 向いているケース:クリニックの建物や高額な医療機器をMS法人が所有して賃貸する実態がある。物販や介護事業など、医療法人の業務範囲外の事業に一定の売上がある。分院が複数あり、事務部門をMS法人に集約して実際に職員が所属している。医師でない家族に承継する事業を分けておきたい。
  • 向かないケース:委託する業務の規模が小さく(年間数百万円程度)、維持コストと消費税の負担で効果が打ち消される。MS法人に従業員も設備もなく、院長の家族が名ばかりの役員になるだけ。医療法人の設立認可や役員変更を控えており、兼務の問題が生じる。所得分散だけを目的にしている。

「勧められたが不安」という段階で、作る前にご相談いただければ、作らないという結論も含めてお答えします。

設立前に試算すること

  • 切り出す業務と対価の相場:MS法人に任せる業務を具体的に決め、第三者に委託した場合の相場を調べます。相場で説明できない対価は設定しません。
  • グループ全体の税負担の比較:現状(医療法人+院長個人)と、MS法人を設けた場合(医療法人+MS法人+院長・家族個人)の法人税・所得税・住民税・社会保険料・消費税・維持コストを合計して比べます。所得税の減少分より、社会保険料と消費税の増加分が大きいことは珍しくありません。
  • 役員・従業員の体制:誰がMS法人の業務を実際に行うのか、医療法人の役員との兼務の問題はないかを確認します。
  • 承継の見通し:MS法人の株式を将来誰が持つのか、医療法人の理事長の後継者との関係をどうするのかを決めておきます。
  • 記録の仕組み:契約書、業務日報、請求明細、価格の根拠資料を毎年残す運用を、設立時に決めておきます。

当事務所では、MS法人の設立の可否を含めた試算と、設立する場合の取引価格の設定・契約書・記帳体制の整備、医療法人との取引の税務調査対応を行っています。医療法人の税務調査で確認される点は「法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?」も参考になります。サービスと料金は医療法人設立サポートのページをご覧ください。

まとめ:MS法人は「実態・相場・コスト」の3つがそろって初めて機能する

MS法人は、医療法人ができない業務の受け皿、所得の分散、承継の選択肢として有効な場面がありますが、実態のない委託や相場を超えた対価は税務調査で否認され、医療法人の役員との兼務は非営利性の観点から原則認められず、消費税と社会保険料・維持コストが新たに発生します。切り出す業務に実態があり、第三者相場で説明できる対価で、コストを加味しても効果が残る場合に限って設立を検討し、そうでなければ作らない判断が正解です。

「MS法人の活用」まとめ

  • MS法人=医療行為以外(不動産賃貸・医療事務・物販・介護など)を担う営利法人。制度名ではなく通称
  • メリット:所得分散、承継の受け皿(株式)、医療法人の業務範囲外の事業、管理業務の集約
  • リスク:相場を超えた対価は損金不算入、実態のない委託は否認(重加算税も)、役員兼務は厚労省通知で原則不可、消費税10%と社会保険料・均等割のコスト、同族会社の行為計算否認
  • 向くのは建物・機器の賃貸や物販・介護の実態がある場合、分院の事務集約、非医師への承継。向かないのは小規模・名ばかり役員・分散目的のみ
  • 設立前に、業務と相場、グループ全体の税・社保・消費税・コストの比較、体制、承継、記録の仕組みを試算する

「MS法人」に関するよくある質問

A.妻が実際にMS法人で医療事務の業務を行い、その業務量と相場に見合った委託料であれば、仕組みとしては成り立ちます。問題になるのは、妻が医療法人の職員として同じ業務を行っていた状態と実態が変わらないのに、委託料という形で支払いだけを付け替えた場合です。その場合、委託料は医療法人の経費として認められず、妻への給与や院長への役員給与として扱われることがあります。また、妻が医療法人の理事でもある場合、MS法人の役員との兼務の問題が生じます。業務の内容・場所・時間・成果を記録し、委託料の根拠を残せるかどうかが分かれ目です。

A.個人クリニックでも、建物や機器をMS法人が所有して賃貸する、物販をMS法人で行うといった使い方は可能です。ただし、個人クリニックの場合は所得がすべて院長個人の事業所得になるため、MS法人への支払いは院長の経費となり、MS法人の利益に法人税がかかる構造になります。所得分散の効果は医療法人化のほうが大きいことが多く、まず医療法人化を検討し、そのうえでMS法人が必要かを判断するのが通常の順番です。個人クリニックの税務の基本は「個人クリニックの確定申告」、法人化の判断は「医療法人化のメリット・デメリット」をご覧ください。

A.まず、MS法人が実際に行っている業務と、医療法人から受け取っている対価を一覧にし、業務ごとに「実態があるか」「対価は相場で説明できるか」を確認します。実態のある業務は契約書と記録(業務日報・請求明細)を整え、対価が相場から外れていれば見直します。実態のない取引は、今後の支払いを止め、必要であれば過去分の修正申告を検討します。役員の兼務がある場合は、医療法人側の役員構成の見直しも必要です。税務調査が来てから整理するより、今の時点で整理したほうが選択肢は多く、当事務所でも現状の点検からお受けしています。

MS法人の設立可否・取引の点検は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。

「MS法人を勧められたが本当に必要か知りたい」「既存のMS法人との取引を点検してほしい」「医療法人化と合わせて全体の設計を相談したい」など、クリニック・医療法人の税務のことなら、お気軽にご相談ください。横浜市内の医療機関を中心に、代表税理士が直接対応します。無理にMS法人をお勧めすることはありません。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。

執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

税務・申告に関するご相談を承ります。

「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
どんなことでも一人で悩まずご相談ください。横浜市密着の岩本隆一税理士事務所が、税務・申告についてサポートします。
ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。LINEでのご相談も承ります。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。

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