クリニック・歯科の税務調査で確認されること|自由診療の売上計上時期・窓口現金・材料在庫・院長個人の経費

横浜市でクリニック・歯科医院の税務調査の事前準備と立会いをお手伝いしている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「クリニックの税務調査では何を見られるのか」「自費診療の売上はどうやって確認されるのか」「院長個人の経費が混ざっているかもしれない」――医科・歯科の税務調査には、一般の事業とは異なる確認点があります。調査官は、レセコン(レセプトコンピュータ)のデータや予約台帳と帳簿を突き合わせ、窓口現金の流れ、自由診療の計上時期、材料や薬品の在庫、院長や家族の経費、外注先との取引を重点的に確認します。
この記事では、クリニック・歯科医院の税務調査で確認される点を、①自由診療・窓口現金の売上計上、②歯科の技工・材料在庫と医科の薬品在庫、③院長・家族の経費と法人経費の区分、④外注費・MS法人との取引、⑤調査前に整える資料と当事務所の進め方、の順に整理します。目的は「指摘されにくい適正な会計処理」を日頃から整えることです。本記事は2026年11月6日時点の税法と実務に基づいています。
① 自由診療・窓口現金の売上計上
医科・歯科の売上は、社会保険診療(社保・国保からの入金+患者の窓口負担)と自由診療(全額患者負担)に分かれます。社保・国保からの入金は国保連・支払基金の支払決定書で確認できるため計上漏れは起きにくい一方、窓口で受け取る現金と自由診療は、調査で最も時間をかけて確認される部分です。
社保・国保の入金は支払決定書で確認できるため、窓口現金と自由診療が中心に確認されます。
- 日計表・レセコンデータとの照合:調査官は、レセコンの日計表(患者ごとの窓口収入)と帳簿の売上、預金への入金額を突き合わせます。日計表の合計と帳簿の売上が一致しない日があれば、その理由を説明できなければなりません。
- 予約台帳・カルテとの整合:患者数×単価と売上の整合、自由診療の施術記録と売上の対応が確認されます。患者の個人情報に配慮しつつ、売上の確認に必要な範囲で提示を求められることがあるため、どの資料をどの範囲で出すかは事前に税理士と整理しておきます。
- 自由診療の計上時期:矯正治療やインプラントなど、治療期間が長く前払いや分割払いを受ける自由診療は、患者との契約の内容によって売上に計上する時期が決まります。個人の所得税では、国税庁の質疑応答事例「歯列矯正料の収入すべき時期」で、矯正装置の装着など一定の治療を行った時に全額を請求し受領する契約ならその日に全額を、期間の経過や治療の程度に応じて請求し受領する契約ならそれに応じて収入とするとされています。下記の裁決事例のように、分割払いでも装置の装着時に全額が収入とされることがあり、前受金として繰り延べられるとは限りません。逆に、治療が完了しているのに入金待ちを理由に売上を計上していない場合は計上漏れになります。
- クレジットカード・電子決済:決済代行会社からの入金は手数料が引かれた後の金額なので、売上は手数料控除前の金額で計上し、手数料を経費にします。入金ベースで売上を計上していると過少になります。
- 現金の管理:レジの締めと現金出納帳、院長が持ち帰った現金の扱い(売上の除外や役員貸付金になっていないか)が確認されます。現金残高が帳簿と合わない状態は、売上除外を疑われる最大の原因です(「税務調査で売上の除外はどう把握される?」)。
- 年末の未収金:11月・12月の社保診療分(翌々月入金)や窓口未収金を、売上として計上しているか。発生主義が原則です。
国税不服審判所の公表裁決事例:矯正治療費は「矯正装置の装着時」に全額を収入とされた例
矯正歯科医院を営む歯科医師が、矯正診療費は一括・分割で支払を受けた日ごとに収入に計上すべきだと主張した事例です。国税不服審判所は、患者が金額や予定治療期間などを承諾したうえで矯正装置を装着していること、矯正診療費に対応する中核的な治療が装置の装着であることなどから、装着の時に全額の請求権が確定したと判断しました(平成29年7月26日裁決)。
そのため、分割払いの患者分も含め、装置を装着した年に全額を収入(消費税も同じ時期の課税売上)に計上すべきとされました。計上時期は患者との契約の実態を踏まえて判断されるため、矯正の契約書・同意書の内容に合った計上方法を確認しておくことが大切です。
② 歯科の技工・材料在庫、医科の薬品在庫
- 歯科の金属材料:金パラなどの貴金属材料は高額で、期末の在庫を棚卸して資産に計上する必要があります。購入した分をすべて経費にして在庫を計上していないと、利益が過少になります。また、不要になった金属(撤去冠など)を業者に売却した収入は売上(雑収入)で、計上漏れが典型的な指摘事項です。
- 技工所への外注:技工物の外注費は、患者ごとの自由診療・保険診療の売上と対応します。外注費だけ計上されて対応する売上がない技工物があれば、売上の計上漏れを疑われます。技工所からの請求書と技工指示書を患者別に照合できるようにしておきます。
- 医科の薬品・ワクチン・コンタクトレンズ:院内処方の薬品、予防接種のワクチン、物販用の在庫は期末に棚卸し、実地棚卸表を保存します。仕入れた数量と使用・販売した数量の差が在庫と整合しているかが確認されます。
- 材料の私的流用:家族や知人への無償提供、院長個人の使用分が経費に混ざっていないか。
③ 院長・家族の経費と法人経費の区分
個人クリニックでは家事関連費との区分、医療法人では理事長個人の支出との区分が確認されます。考え方は一般の事業と同じですが、医科・歯科で特に見られる項目は次のとおりです。
- 学会・研修の旅費:参加の証明(参加証・プログラム)と、同伴した家族の旅費が含まれていないか。学会にかこつけた観光は経費になりません。
- 交際費:相手と目的が記録されているか。同業の友人・家族との飲食、ゴルフなどは否認されやすい項目です。医療法人の場合は交際費の損金算入限度(期末の資本金・出資金の額(出資のない法人は政令で定める金額)が1億円以下なら、年800万円の定額控除限度額と接待飲食費の50%のいずれかを選択)も確認されます。
- 車:往診や通勤での使用実態と按分割合。高級車の全額計上は実態との整合が問われます。
- 家族への給与:専従者給与(個人)や役員報酬・従業員給与(法人)について、勤務実態(出勤記録、業務内容)と金額の妥当性。勤務実態のない家族への支払いは否認されます。
- 医療法人の理事長個人の支出:自宅の修繕、個人の保険料、家族の生活費などを法人が負担していれば、役員賞与として損金不算入かつ源泉徴収の対象になります。理事長への貸付金(役員貸付金)と認定利息も確認されます(「法人の税務調査で社長個人の口座や役員貸付金はどう見られる?」)。
- 自宅兼診療所:家賃・光熱費の按分根拠(床面積・使用時間)。
④ 外注費・MS法人との取引の妥当性
- 非常勤医師・歯科医師への支払い:給与として源泉徴収しているか、報酬として処理しているか。勤務の実態(勤務時間の指定、指揮命令)に照らして給与と判断されると、源泉所得税の徴収漏れになります。
- 外注先への支払い:技工所、検査会社、清掃、医療事務の委託など、契約書と請求書、業務の実態が確認されます。
- MS法人との取引:賃料・委託料が相場で説明できるか、MS法人に業務の実態があるか、役員の兼務の状況。実態のない委託料は否認され、意図的と判断されれば重加算税の対象です(「MS法人とは?活用のメリット・リスク」)。
- 消費税の区分:自由診療・健診・予防接種・物販・診断書料が課税売上として正しく区分されているか、課税事業者の判定と計算方法が正しいか(「個人クリニックの確定申告|自由診療の消費税」)。
⑤ 調査前に整える資料と、当事務所の事前準備・立会いの進め方
調査の連絡を受けたら、次の資料をそろえます。整理されていなくても構いませんので、所在を確認してください。
- 対象年分の申告書・決算書・総勘定元帳(会計データ)
- レセコンの日計表・月計表、窓口収入の集計、社保・国保の支払決定書
- 予約台帳、自由診療の契約書・同意書・施術記録(提示範囲は要相談)
- 現金出納帳、レジの締め記録、クレジット・電子決済の入金明細
- 期末の棚卸表(金属・薬品・ワクチン・物販在庫)、金属売却の明細
- 技工所・検査会社・外注先の契約書と請求書、MS法人との契約書と業務記録
- 学会参加の証明、交際費の相手・目的の記録、車の使用記録
- 家族・非常勤医師の勤務記録、給与台帳、源泉徴収簿、役員報酬の議事録(法人)
当事務所では、調査の連絡を受けた段階で上記の資料を点検し、売上と日計表の整合、在庫、経費の区分、外注・MS法人の取引について確認しそうな項目を洗い出したうえで、最低2回の予行練習(想定問答)を行い、当日は立会いをします。日程調整から調査官との折衝、調査後の修正申告や納税の相談まで対応し、顧問契約は不要で単発でもお受けしています。調査の全体の流れと依頼のタイミングは「税務調査の連絡を受けてから税理士に依頼するまで」、サポート内容は税務調査サポートのページと医療法人設立サポートのページをご覧ください。
まとめ:日計表と帳簿の一致・在庫の計上・経費の区分が、医科・歯科の調査の3つの柱
クリニック・歯科医院の税務調査では、レセコンの日計表・予約台帳と帳簿の売上の整合、契約内容に応じた自由診療の計上時期、窓口現金の管理、歯科の金属在庫と売却収入、医科の薬品・ワクチン在庫、学会旅費・交際費・車・家族給与の区分、非常勤医師の源泉徴収、外注先やMS法人との取引の実態が確認されます。日計表と帳簿を毎日一致させ、期末に棚卸をし、経費の相手・目的を記録し、外注取引の契約と実態を整えておくことが、指摘されにくい会計処理の基本であり、調査への最大の備えです。
「クリニック・歯科の税務調査で確認されること」まとめ
- 売上:レセコン日計表・予約台帳・カルテと帳簿の整合、自由診療の計上時期(契約内容による。矯正は装置の装着時に全額収入とされた裁決あり)、カード決済は手数料控除前で計上、現金出納帳、年末未収金
- 在庫:歯科の金属材料の棚卸と撤去金属の売却収入、技工外注と売上の対応、医科の薬品・ワクチン・物販の棚卸表
- 経費:学会旅費の家族分、交際費の相手と目的、車の按分、家族給与の勤務実態、法人なら理事長個人支出の役員賞与認定と役員貸付金
- 外注:非常勤医師の給与・報酬の区分と源泉、外注契約の実態、MS法人取引の相場と実態、消費税の課税区分
- 準備:申告書・元帳・日計表・支払決定書・予約台帳・現金出納帳・棚卸表・契約書・勤務記録・議事録をそろえ、予行練習と立会いで対応
「クリニック・歯科の税務調査」に関するよくある質問
税務調査では、売上の確認に必要な範囲で帳簿書類の提示を求める権限が調査官にあり、医師の守秘義務を理由に一切の提示を拒めるわけではありません。一方で、診療内容など売上の確認に不要な情報まで無制限に見せる必要もありません。実務上は、患者名を伏せた日計表や集計表、自由診療の契約書・領収書の控えなどで売上の整合を説明し、カルテそのものの提示は必要最小限にとどめる形で調整することが多いです。どの資料をどの範囲で提示するかは、調査の前に税理士と整理し、当日その場で判断しないようにしてください。
歯科で撤去した冠や不要になった金属を買取業者に売却した収入は、医院の雑収入(売上)として申告する必要があり、計上漏れは調査で最も多く指摘される項目の一つです。業者側の支払記録から把握されるため、「現金で受け取ったから分からない」ということはありません。過去の売却分について、買取業者の明細や通帳の入金を確認し、計上漏れがあれば調査の前に自主的に修正申告することで、過少申告加算税がかからない、または軽減される可能性があります(「自主的修正申告で加算税はどう変わる?」)。今後は売却のたびに明細を保存し、雑収入として記帳してください。
矯正治療の費用をいつ売上に計上するかは、患者との契約の内容によって決まり、入金した年に全額を売上にすることが誤りとは限りません。個人の所得税では、国税庁の質疑応答事例「歯列矯正料の収入すべき時期」で、①矯正装置の装着など一定の治療を行った時に全額を請求し受領する契約なら、その日に全額、②期間の経過や治療の程度に応じて請求し受領する契約なら、その期間が経過した日などに、③それ以外は原則として支払日(定めがなければ支払を受けた日)に収入とするとされています。国税不服審判所の平成29年7月26日裁決でも、分割払いの患者分を含めて、矯正装置の装着時に全額を収入とすべきとされました。そのため、一括で受け取った費用を治療期間にわたって前受金として繰り延べられるとは限りません。医療法人の場合は法人税の収益計上のルールで判断しますが、いずれも矯正の契約書・同意書の内容(請求の時期、返金の定め)を確認したうえで、毎年一貫した方法で処理することが大切です。逆に、計上すべき時期が来ているのに売上に計上していない場合は、計上漏れとして指摘されます。
クリニック・歯科医院の税務調査は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「調査の連絡が来た」「自費診療や在庫の処理に不安がある」「調査前に帳簿を点検してほしい」など、医科・歯科の税務調査のことなら、お気軽にご相談ください。横浜市内の医療機関を中心に、代表税理士が直接対応します。顧問契約は不要で、土日祝・夜間も対応可能です。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
税務・申告に関するご相談を承ります。
「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
どんなことでも一人で悩まずご相談ください。横浜市密着の岩本隆一税理士事務所が、税務・申告についてサポートします。
ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。LINEでのご相談も承ります。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。
お電話でのご相談
045-900-6098
電話受付:平日9〜17時、土日祝・夜間は事前予約
横浜市地域密着・
スピード対応
横浜市全域対応
横浜市全域
鶴見区、神奈川区、西区、中区、南区、港南区、保土ケ谷区、旭区、磯子区、金沢区、港北区、緑区、青葉区、都筑区、戸塚区、栄区、泉区、瀬谷区
※横浜市地域密着で対応しております。資料のやり取りは郵送やデータ共有でも可能です。







