宗教法人の帳簿と所轄庁への提出書類|財産目録・収支計算書・事業報告書と保存期間

横浜市で宗教法人の税務サポートを行っている、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。
「所轄庁に毎年何を出すのか」「帳簿はどこまで作る必要があるのか」「先代が亡くなり、何を引き継げばよいか分からない」――代替わりしたばかりの住職・宮司や、新しく事務を担当することになった責任役員の方からのご相談です。宗教法人には、税務とは別に、宗教法人法に基づく書類の作成・備付け・所轄庁への提出義務があります。税務署に申告がなくても、所轄庁(神奈川県または文部科学大臣)への提出は毎年必要で、怠ると過料の対象です。
この記事では、宗教法人法に基づく備付け書類と所轄庁への提出(会計年度終了後4か月以内)、収支計算書の作成が必要な法人の範囲と様式、税務上の帳簿(収益事業の区分経理・源泉徴収簿)と保存期間、代替わり・役員交代時に引き継ぐ資料一覧、提出漏れ・遅延があった場合の対応を解説します。本記事は2026年11月6日時点の宗教法人法(第25条・第88条)、神奈川県の案内(2026年10月更新)、法人税法・所得税法に基づいています。日々の会計の分け方は「宗教法人の会計と住職個人の生活費の分け方」で解説しているため、本記事は「作る書類・出す書類・残す書類」に絞ります。
宗教法人法に基づく備付け書類と所轄庁への提出(会計年度終了後4か月以内)
宗教法人法第25条は、宗教法人に次の書類を事務所に備え付けることを義務づけ、そのうち一定の書類の写しを毎会計年度終了後4か月以内に所轄庁へ提出することとしています(1995年の法改正で導入)。
会計年度が終わってから所轄庁に提出するまでの、毎年の流れです。
| 書類 | 事務所への備付け | 所轄庁への提出(写し) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 規則および認証書 | 必要 | 不要(変更時は認証手続き) | 規則の原本と所轄庁の認証書。変更があれば認証を受ける |
| 役員名簿 | 必要 | 毎年提出 | 代表役員・責任役員(代務者を含む)の氏名・住所・就任年月日。交代があれば登記(代表役員)と名簿の更新 |
| 財産目録 | 必要(設立時と毎会計年度終了後3か月以内に作成) | 毎年提出 | 土地・建物(境内地・境内建物)、宝物・什器、預貯金、借入金などを年度末時点で記載 |
| 収支計算書 | 作成義務のある法人は必要(毎会計年度終了後3か月以内に作成) | 作成義務のある法人・作成している法人は毎年提出 | 作成義務の範囲は次章 |
| 貸借対照表 | 作成している場合 | 作成している場合は提出 | 作成は任意だが、収益事業がある法人・規模の大きい法人は作成が実務的 |
| 境内建物に関する書類 | 必要(財産目録に記載したものを除く) | 該当する法人は提出 | 境内建物の所在・用途・取得年月などを記載 |
| 責任役員会等の議事録、事務処理簿 | 必要 | 不要 | 責任役員会の議事録と、認証・登記・届出などの事務を記録した事務処理簿 |
| 事業に関する書類 | 事業(公益事業・収益事業)を行う場合は必要 | 事業を行う場合は提出 | 収益事業の貸借対照表・損益計算書など。法人税の申告書の控えと対応させる |
神奈川県内に事務所がある宗教法人(他の都道府県に境内建物がない法人)の所轄庁は神奈川県知事で、提出先は県の総務局組織人材部文書課(公益・宗教法人グループ)です。電子申請(e-KANAGAWA)または郵送で提出でき、2026年11月6日時点の案内では、表紙・役員名簿・財産目録・収支計算書(該当する場合)・貸借対照表(作成している場合)・境内建物に関する書類(該当する場合)・事業に関する書類(事業を行っている場合)を提出します。他の都道府県にも境内建物がある法人は、文部科学大臣が所轄庁です。会計年度が4月〜3月なら提出期限は7月末、1月〜12月なら4月末です。
収支計算書の作成が必要な法人の範囲と様式
財産目録は全ての宗教法人が毎年作成しますが、収支計算書は次のいずれかに当たる法人が作成します(宗教法人法第25条第2項・施行規則)。
- 年間収入が8,000万円を超える法人:お布施・寄附金・事業収入などを合わせた1年間の収入で判定します。
- 公益事業以外の事業(収益事業)を行っている法人:駐車場業・不動産貸付業・物品販売業などの収益事業を行っていれば、収入の額にかかわらず作成します。
- 上の2つに当たらなくても、実際に作成している法人:作成した場合は備付けと提出の対象になります。
年間収入8,000万円以下で収益事業を行っていない法人は、法律上は収支計算書の作成義務がありません。ただし、責任役員会・檀信徒総会への報告、金融機関への説明、代替わり時の引き継ぎのために、簡易なものでも作成しておくことをおすすめします。収支計算書の様式は法令で定められていませんが、文化庁「宗教法人運営のガイドブック」に参考様式があり、一般に「収入の部(宗教活動収入・事業収入・寄附金収入・雑収入)」「支出の部(宗教活動費・人件費・管理費・事業費・資産取得支出)」「当期収支差額・前期繰越・次期繰越」の形で、資金の動き(現金・預金の増減)を示すものです。収益事業がある法人は、宗教活動の会計と収益事業の会計を区分し、収益事業については法人税の申告に用いる損益計算書・貸借対照表を別に作成します(区分の方法は「宗教法人の収益事業34業種」参照)。
税務上の帳簿収益事業の区分経理・源泉徴収簿と保存期間
宗教法人法の書類とは別に、税務上は次の帳簿と書類の作成・保存が必要です。
| 帳簿・書類 | 必要になる法人 | 保存期間 | 根拠・備考 |
|---|---|---|---|
| 収益事業の帳簿(仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・固定資産台帳など)と決算書類 | 収益事業を行う法人(法人税の申告義務あり) | 7年(申告期限の翌日から。欠損金が生じた事業年度は10年) | 法人税法。宗教活動の会計と区分して記帳する。青色申告の承認を受けている場合は帳簿の要件を満たさないと取消しの対象 |
| 請求書・領収書・契約書 | 収益事業を行う法人、消費税の課税事業者 | 7年 | 電子取引(メール添付の請求書など)は電子データのまま保存(電子帳簿保存法)。消費税の課税事業者はインボイス(適格請求書)の保存が仕入税額控除の要件 |
| 源泉徴収簿、扶養控除等申告書、給与所得者の保険料控除申告書など | 住職・宮司・職員に給与を支払う全ての法人(収益事業の有無を問わない) | 7年(申告書類はその年の翌年1月10日の翌日から7年) | 所得税法。給与支払事務所等の開設届出書の提出、毎月(または納期の特例で年2回)の源泉所得税の納付、年末調整、法定調書・給与支払報告書の提出(「住職・宮司の給与と源泉徴収」参照) |
| 消費税の帳簿(課税区分を付した帳簿) | 課税事業者(課税売上高1,000万円超またはインボイス登録) | 7年 | 消費税法。免税事業者でも課税売上高の集計のために収入の区分は必要(「宗教法人の消費税」参照) |
| 宗教活動の会計の帳簿(現金出納帳・預金出納帳など) | 法律上の明文はないが全ての法人 | 宗教法人法の備付け書類(財産目録・収支計算書)の裏付けとして、少なくとも作成年度から10年程度は保存するのが実務的 | 税務調査では、収益事業と宗教活動の区分の根拠、住職個人と法人の区分の根拠として宗教活動側の帳簿も確認される |
| 固定資産・境内建物の取得資料(売買契約書・建築請負契約書・登記簿) | 全ての法人 | 資産を保有している間は永久保存 | 将来の売却・建替え・収益事業への転用時に取得価額の証明が必要 |
税務上の保存期間の考え方(7年・10年・電子取引)は「帳簿・領収書は何年保存する?」で解説しています。宗教法人法には備付け書類の保存年限の明文はありませんが、備付け義務は継続するため、過年度の財産目録・収支計算書・役員名簿・議事録は捨てずに保管します。
国税不服審判所の裁決事例:神社部門の初穂料が特定収入とされた例
国税不服審判所の平成24年2月7日裁決は、神社のほかに結婚式場などの事業を営む宗教法人が、収益事業部門(結婚式場等)と非収益事業部門(神社)の収支を区分経理し、収益事業部門の収支だけで消費税を申告していた事案です。税務署は両部門の収支を合算し、神社部門の初穂料などを特定収入として仕入税額控除を調整しました。
審判所は、初穂料などは法令や交付要綱で使途が拘束されず、法人が自ら使い道を選べる収入なので、厳密に区分経理していても特定収入から除かれないと判断しました。法人税の区分経理とは別に、消費税は宗教活動の部門も含めた法人全体で計算されるため、宗教活動側の帳簿も整えておく必要があることを示す例です。
出典:国税不服審判所 平成24年2月7日裁決(裁決事例集No.86)
代替わり・役員交代時に引き継ぐ資料一覧
住職・宮司の代替わりや責任役員の交代で最も困るのは、「何がどこにあるか分からない」状態です。次の一覧を、年に1回の提出時に保管場所とともに更新しておくと、引き継ぎがそのまま完了します。
| 区分 | 資料 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 法人の基本 | 規則・認証書、登記事項証明書(法人の登記簿)、法人番号、所轄庁の担当窓口と過去の提出書類の控え、包括宗教法人(宗派・教派)との関係書類 | 代表役員の変更登記は就任から2週間以内。規則の変更には所轄庁の認証が必要 |
| 財産 | 財産目録、境内地・境内建物の登記簿と図面、宝物・什器の台帳、預貯金通帳と印鑑の保管場所、借入金の契約書と返済予定表、保険証券 | 通帳の名義が法人になっているか(個人名義の口座に法人の資金が入っていないか) |
| 会計・税務 | 過去の収支計算書・貸借対照表、現金出納帳、収益事業の帳簿と法人税申告書の控え、消費税の申告書、源泉徴収簿と納付書の控え、年末調整・法定調書の控え、税務署・県税事務所・市役所への届出書の控え(収益事業開始届・給与支払事務所開設届など)、e-Taxの利用者識別番号と暗証番号、顧問税理士の連絡先 | 申告の有無と期限(事業年度・申告月)を一覧にする。過去に未申告の収益事業がないか(「宗教法人の収入の区分」参照) |
| 機関運営 | 責任役員会の議事録、檀信徒総会・氏子総会の議事録、事務処理簿、役員名簿、役員の任期と次回改選時期 | 議事録に責任役員の署名・押印があるか。任期切れの役員がいないか |
| 契約・取引先 | 駐車場・不動産賃貸の契約書と賃料の入金口座、物販の仕入先、墓地の使用者台帳と管理料の入金状況、幼稚園等の事業の契約書、管理委託・清掃・警備の契約書 | 契約の名義が法人か。収益事業の判定に必要な契約条件(契約相手・金額・期間)が分かるか |
| 人事 | 職員の雇用契約書・給与台帳、社会保険・労働保険の加入状況と事業所番号、住職・宮司の給与(役員報酬)の決定記録 | 給与の決定が責任役員会の議事録に残っているか |
引き継ぎの機会は、法人の運営を見直す機会でもあります。先代の時代に始まった駐車場貸付けや物販が収益事業の申告をしていなかった、住職個人の口座に法人の収入が入っていた、といった問題は代替わりで発覚することが多く、気づいた時点で整理と期限後申告をするのが、その後の運営を安定させる最短の道です。
提出漏れ・遅延があった場合の対応
- 所轄庁への提出を忘れていた・遅れた:気づいた時点で速やかに提出します。宗教法人法第88条は、備付け書類を備えず、提出せず、または不実の記載をした場合に、代表役員・代務者等に10万円以下の過料を定めていますが、実務上はまず所轄庁から督促・提出依頼が届くことが多く、連絡を受けたら放置せず提出します。数年分未提出の場合は、各年度の書類を作成してまとめて提出します(作成できない年度は所轄庁に相談)。
- 財産目録・収支計算書を作っていなかった:通帳・領収書・登記簿から年度末の財産目録を復元し、作成義務がある法人は収支計算書も作成します。過年度分は「作成時点で判明している資料に基づく」旨を注記しておきます。
- 役員の変更登記・名簿の更新を忘れていた:代表役員の変更登記は法務局で行います(登記の期限を過ぎていても登記は可能)。役員名簿を現状に合わせて更新し、次回の提出に反映します。
- 収益事業の申告をしていなかった:宗教法人法の提出とは別に、税務署への期限後申告が必要です。収益事業の有無の判定、過去分の所得計算、加算税・延滞税の見込みを税理士に確認し、事業開始届出書と申告書を提出します。
- 再発防止:会計年度終了→3か月以内に財産目録・収支計算書を作成→責任役員会で承認→4か月以内に所轄庁へ提出、という年間スケジュールを事務処理簿に書き、担当者と予備の担当者を決めます。税務(源泉所得税の納付・法人税・消費税)の期限も同じ表に入れると、一枚で法人の年間義務が見渡せます。
当事務所の宗教法人の税務サポートでは、収益事業の判定と法人税・消費税の申告、源泉徴収・年末調整に加え、財産目録・収支計算書の作成支援と所轄庁提出書類の整備、代替わり時の資料の棚卸しを承っています。宗教法人法上の認証・登記の手続きそのものは、必要に応じて行政書士・司法書士と連携します。
「宗教法人の帳簿と所轄庁への提出書類」に関するよくある質問
必要です。収益事業の有無や規模にかかわらず、全ての宗教法人は会計年度終了後4か月以内に、役員名簿と財産目録の写しを所轄庁に提出します。年間収入が8,000万円以下で収益事業がない法人は収支計算書の作成義務はありませんが、作成している場合は提出します。税務署への申告がない法人でも、この提出は毎年の義務です。
法人が所有する財産は、境内地・境内建物のほか、宝物・仏像・什器備品・預貯金・有価証券・借入金などを記載します。金額は、取得価額が分かるものは取得価額(または帳簿価額)、古くから伝わるもので取得価額が不明なものは評価が難しいため、「評価困難」として数量・名称を記載する扱いが実務では多く見られます。文化庁のガイドブックの参考様式を基に、法人として一貫した記載方法を決め、毎年同じ基準で作成します。
目的によって異なります。所轄庁への提出が漏れている年度は、各年度の財産目録(と該当すれば収支計算書)を復元して提出します。税務上は、収益事業の申告漏れがあれば原則5年分(偽りその他不正の行為がある場合は7年分)の所得計算が必要です。通帳の取引履歴(金融機関で過去10年程度取得できる)、固定資産の登記簿、契約書から復元し、復元できない部分は推計せざるを得ない旨を記録しておきます。どこまで復元するかは税理士と相談して決めます。
所轄庁に提出した書類は、所轄庁が宗教法人法の目的の範囲で管理し、一般に公開されるものではありません。一方、事務所に備え付けた書類については、信者その他の利害関係人から閲覧の請求があった場合、正当な利益があり不当な目的でないと認められるときは閲覧させることとされています(宗教法人法第25条第3項)。檀信徒から会計の説明を求められた場合に備え、収支計算書を分かりやすい形で作成しておくことが、信頼関係の維持にもつながります。
「宗教法人の帳簿と所轄庁への提出書類」まとめ
- 宗教法人法第25条により、規則・役員名簿・財産目録・収支計算書(該当法人)・貸借対照表(作成時)・境内建物の書類・議事録と事務処理簿・事業の書類を事務所に備え付け、役員名簿・財産目録・収支計算書等の写しを会計年度終了後4か月以内に所轄庁(神奈川県は総務局文書課)へ提出
- 収支計算書は、年間収入8,000万円超・収益事業を行っている・実際に作成している、のいずれかの法人が作成。様式は文化庁ガイドブックの参考様式。収益事業は宗教活動と区分経理
- 税務上は、収益事業の帳簿・請求書等7年(欠損金10年)、源泉徴収簿等7年、消費税の帳簿7年。宗教活動の帳簿と固定資産の取得資料も保存。電子取引はデータ保存
- 代替わり・役員交代時は、法人の基本・財産・会計税務・機関運営・契約・人事の6区分で資料と保管場所を一覧にして引き継ぐ。未申告の収益事業や個人口座の混在は代替わりで発覚しやすい
- 提出漏れは速やかに提出(第88条の過料10万円以下の対象)。財産目録の復元、変更登記、収益事業の期限後申告を並行し、年間スケジュールを事務処理簿に記載して再発を防ぐ
宗教法人の帳簿整備と所轄庁提出書類の作成支援は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。
「財産目録・収支計算書の作り方を教えてほしい」「代替わりで何を引き継げばよいか整理したい」「過去の提出漏れと申告漏れをまとめて片付けたい」など、お気軽にご相談ください。横浜市内・神奈川県内の寺院・神社・教会を中心に、代表税理士が直接対応し、責任役員会向けの資料も作成します。ご依頼に関する初回相談・お見積もりは無料です。具体的な調査・検討が必要なご相談は、内容を伺ってご案内します。
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
税務・申告に関するご相談を承ります。
「税金のことが分からない」「税務署から連絡が来て不安だ」「申告期限が迫っている」など、
どんなことでも一人で悩まずご相談ください。横浜市密着の岩本隆一税理士事務所が、税務・申告についてサポートします。
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