社会福祉法人会計の基本をわかりやすく|初心者向け:資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3つの見方

更新日:2026年11月7日

この記事の要点

  • 社会福祉法人の会計は厚生労働省令「社会福祉法人会計基準」に従い、計算書類は資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3つです。
  • 資金収支計算書は「支払資金(お金)の増減」、事業活動計算書は「純資産の増減」、貸借対照表は「年度末の財産の状態」を示し、3つは数字でつながっています。
  • 「利益」ではなく「増減差額」で読みます。純資産には基本金や国庫補助金等特別積立金といった独自の区分があります。
  • 計算書類は事業区分・拠点区分ごとに作り、評議員会の承認を経て、会計年度終了後3か月以内(6月末)に所轄庁へ届け出ます。

横浜市で社会福祉法人・介護事業者のサポートを手掛ける、岩本隆一税理士事務所の代表、岩本隆一です。

「資金収支計算書と事業活動計算書の違いが分からない」「理事に就任したので計算書類を読めるようになりたい」――新任の事務職員や理事、施設長の方から、こうしたご相談をいただきます。社会福祉法人の会計は株式会社の会計と用語も書類の形も違いますが、3つの計算書類が「何を」「どの単位で」示しているかをつかめば、個々の数字は追いかけられるようになります。この記事では、企業会計との違い、3つの計算書類の見方、勘定科目と年間スケジュール、税理士に頼める範囲を整理します。決算の手順は「社会福祉法人の決算・会計の基本」をご覧ください。本文は2026年11月7日時点の社会福祉法と社会福祉法人会計基準(省令・通知)に基づいています。

企業会計との違い:3つの計算書・区分経理・「利益」ではなく「増減差額」

社会福祉法人は、社会福祉法第45条の23により「厚生労働省令で定める基準」に従って会計処理を行います。この省令が「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号)で、運用の細目は厚生労働省の通知「運用上の取扱い」「運用上の留意事項」が補っています。企業会計との違いは次の4点です。

違い1:計算書類が3つある

会社の決算書は損益計算書と貸借対照表が中心ですが、社会福祉法人の計算書類は次の3つです。

計算書類示すもの読み取る指標企業会計で近い書類
資金収支計算書1年間の支払資金(お金)の増減当期資金収支差額、当期末支払資金残高キャッシュ・フロー計算書
事業活動計算書1年間の純資産の増減当期活動増減差額、次期繰越活動増減差額損益計算書
貸借対照表年度末の資産・負債・純資産の状態流動資産と流動負債の差、純資産の内訳貸借対照表

このほか、内訳を示す附属明細書と、年度末の全資産・負債を一覧にした財産目録も作成します。

違い2:事業区分・拠点区分・サービス区分で分けて作る

会計基準第10条は、「事業区分」と「拠点区分」を設け、拠点区分の中に「サービス区分」を設けることを求めています。事業区分は社会福祉事業・公益事業・収益事業の3つ、拠点区分は原則として予算管理の単位となる施設・事業所、サービス区分は法令等の要請で会計を分けて把握する事業ごとの区分です。計算書類は法人全体・事業区分別・拠点区分別の様式で作ります。分け方と共通経費の配分は「拠点区分・サービス区分・事業区分の分け方」で解説しています。

違い3:純資産に「資本金」がない

株主がいないため資本金という概念がなく、純資産は「基本金」「国庫補助金等特別積立金」「その他の積立金」「次期繰越活動増減差額」の4つに区分します(会計基準第26条第2項)。寄附金や補助金で建てた施設の扱いが、企業会計と大きく異なる点です。

違い4:「利益」ではなく「増減差額」

利益の分配を目的としないため、「利益」「損失」という言葉を使いません。事業活動計算書では収益から費用を引いた結果を「増減差額」、資金収支計算書では収入から支出を引いた結果を「資金収支差額」と呼び、プラスなら純資産(支払資金)が増えた、マイナスなら減ったと読みます。

資金収支計算書の見方

資金収支計算書は、その年度の「支払資金」の増減をすべて表示する書類です(会計基準第12条)。予算管理と資金繰りの確認に最もよく使われます。

支払資金の範囲

支払資金は、おおまかに言えば「流動資産から流動負債を差し引いたもの」です。現金預金だけでなく、未収金や未払金など1年以内に回収・支払いが予定されるものも含みます。ただし、固定資産・固定負債から1年基準で振り替えられたもの、引当金、貯蔵品以外の棚卸資産は除かれます(会計基準第13条)。「現金そのものではなく、短期的に動くお金の幅」と理解すると読みやすくなります。

事業活動・施設整備等・その他の活動の3区分

収支は次の3つに区分します(会計基準第15条・第16条)。

  • 事業活動による収支:介護報酬や保育委託費などの経常的な収入と、人件費・事業費・事務費などの支出(受取利息配当金収入・支払利息支出を含む)。差額の「事業活動資金収支差額」が、本業でお金が回っているかを示します。
  • 施設整備等による収支:固定資産の取得・売却、施設整備等補助金収入、設備資金借入金の収入と元金償還。
  • その他の活動による収支:長期運営資金の借入れと返済、積立資産の積立てと取崩し、投資有価証券の売買など。

3つの差額の合計が「当期資金収支差額合計」で、前期末支払資金残高を加えた額が「当期末支払資金残高」です。

予算との対比

法人単位と拠点区分の資金収支計算書には決算額を予算額と対比して記載し、著しい差異がある科目は備考欄に理由を書きます(会計基準第16条第5項・第6項)。予算は事業計画をもとに拠点区分ごとに編成し、年度途中で乖離が見込まれれば補正予算を組みます。理事や施設長が最初に見るべきなのは、この差異欄です。

例(仮定):ある拠点で300万円の送迎車両を購入し、うち200万円を自治体の補助金でまかなったとします。「施設整備等による収支」には取得支出300万円と補助金収入200万円が計上され、差額は100万円のマイナスです。一方、次に見る事業活動計算書には、この300万円は費用として出てきません。

事業活動計算書の見方

事業活動計算書は、その年度の純資産の増減の内容を表示する書類です(会計基準第19条)。企業の損益計算書に相当しますが、区分の名前が独特です。

サービス活動増減・サービス活動外増減・特別増減

事業活動計算書は次の4つの部に分かれます(会計基準第21条・第22条)。

  • サービス活動増減の部:本業の収益(介護保険事業収益、保育事業収益など)と費用(人件費、事業費、事務費、減価償却費など)。差額が「サービス活動増減差額」です。
  • サービス活動外増減の部:受取利息配当金収益、支払利息など、本業以外で経常的に発生するもの。サービス活動増減差額との合計が「経常増減差額」です。
  • 特別増減の部:施設整備のための寄附金・補助金の収益、基本金組入額、国庫補助金等特別積立金積立額、固定資産売却損益など臨時的なもの。経常増減差額に加えると「当期活動増減差額」です。
  • 繰越活動増減差額の部:前期繰越活動増減差額に当期活動増減差額を加え、基本金取崩額やその他の積立金の積立・取崩を加減して「次期繰越活動増減差額」を出します。

経営状態を見るときは、まず「経常増減差額」がプラスかを確認します。特別増減には補助金収益のような一時的な金額が入るため、当期活動増減差額だけでは本業の実力を見誤ることがあるからです。

減価償却と国庫補助金等特別積立金取崩額

最もつまずきやすいのが国庫補助金等特別積立金です。補助金で固定資産を取得すると、補助金の額を特別増減の部で収益に計上したうえで、同額を純資産に積み立てます。その後は減価償却に対応させて毎年取り崩し、「国庫補助金等特別積立金取崩額」をサービス活動費用の控除項目(マイナスの費用)として計上します(会計基準第22条第1項、運用上の留意事項15)。補助金分の減価償却費の負担を打ち消す仕組みです。

例(仮定):先ほどの車両(300万円、補助金200万円)を耐用年数5年・定額法で償却すると、毎年の減価償却費は60万円です。補助金に対応する40万円を毎年取り崩してマイナスの費用として計上するため、実質負担は年20万円になります。土地のように減価償却しない資産への補助金は、取り崩さずに純資産に残ります。

貸借対照表の見方

貸借対照表は、会計年度末時点のすべての資産・負債・純資産の状態を表示する書類です(会計基準第25条)。資産の部は流動資産と固定資産、負債の部は流動負債と固定負債に区分します(第26条第1項)。

流動と固定の区分(1年基準)

貸借対照表日の翌日から1年以内に入金・支払の期限が来るものは流動、それより先は固定に分類します。設備資金借入金のうち翌年度に返済する元金は、流動負債の「1年以内返済予定設備資金借入金」に振り替えます。この振替分は支払資金には含めません。

純資産の4区分

  • 基本金:法人の設立や施設の創設・増築にあたって財源として受け入れた寄附金の額(会計基準第6条)。運用上の取扱いでは第1号から第3号に分けて組み入れます。
  • 国庫補助金等特別積立金:施設・設備の整備のために国・地方公共団体などから受け取った補助金等の額。減価償却に合わせて取り崩されます。
  • その他の積立金:将来の特定の目的(施設の建替えなど)に備え、理事会の議決に基づき積み立てた額。同額の積立資産を固定資産に持つのが原則です。
  • 次期繰越活動増減差額:過去からの活動増減差額の累計。事業活動計算書の末尾の金額と一致します。

3つの計算書類はどこでつながるか

資金収支計算書の「当期末支払資金残高」は、貸借対照表の流動資産と流動負債(支払資金に含まれないものを除く)の差額と一致します。事業活動計算書の「次期繰越活動増減差額」は、貸借対照表の純資産の同名の科目と一致します。決算ではまずこの2か所を突き合わせます。

最初に覚える勘定科目と年間スケジュール

勘定科目は「別表」で決まっている

使える勘定科目は、会計基準の別表第1〜第3と、運用上の留意事項の別添3に定められています。大区分・中区分・小区分の階層があり、法人が実情に応じて追加できるのは実質的に小区分までです。最初に押さえるとよい科目は次のとおりです。

  • 収入・収益:介護保険事業収入(収益)、保育事業収入(収益)、障害福祉サービス等事業収入(収益)、経常経費寄附金収入(収益)
  • 支出・費用:人件費、事業費(利用者のために直接使う費用)、事務費(法人運営のための費用)、減価償却費、国庫補助金等特別積立金取崩額
  • 貸借対照表:事業未収金、事業未払金、1年以内返済予定設備資金借入金、徴収不能引当金、賞与引当金、退職給付引当金

資金収支計算書では「〜収入」「〜支出」、事業活動計算書では「〜収益」「〜費用」と語尾が変わるので、どの書類かは語尾で分かります。

決算から所轄庁への届出までの流れ

会計年度は4月1日から翌年3月31日までです(社会福祉法第45条の23)。

時期(目安)手続根拠(社会福祉法)
4〜5月決算整理、計算書類・附属明細書・財産目録の作成第45条の27(年度終了後3か月以内)
5月監事監査(会計監査人設置法人は会計監査人の監査も)第45条の28
5〜6月理事会の承認第45条の28第3項
6月定時評議員会での承認第45条の30
6月末まで計算書類等・財産目録等(現況報告書を含む)の所轄庁への届出、電子開示システムへの入力第59条(年度終了後3か月以内)

現況報告書は、社会福祉法第45条の34の「事業の概要等を記載した書類」にあたり、社会福祉充実残額とその算定根拠も記載します(社会福祉法施行規則第2条の41)。社会福祉充実残額は毎会計年度計算が必要で、残額が生じた場合は社会福祉充実計画を作成し、届出と同時に所轄庁へ承認申請を行います(社会福祉法第55条の2)。詳しくは「社会福祉充実残額の計算と社会福祉充実計画」をご覧ください。所轄庁の指導監査で計算書類の整合性がどう確認されるかは「社会福祉法人の指導監査とは?」で解説しています。

税理士・会計事務所に頼める範囲

社会福祉法人の会計は専門性が高く、事務職員だけで回すのが難しい法人も多くあります。税理士・会計事務所に依頼できる業務は主に次の4つです。

  • 記帳代行・月次処理:拠点区分・サービス区分ごとの仕訳入力、共通経費の配分、月次試算表の作成。
  • 決算・計算書類の作成支援:決算整理、3つの計算書類と附属明細書・財産目録の作成、国庫補助金等特別積立金の取崩しや引当金のチェック、電子開示システムへの入力。
  • 指導監査対策:監査前の会計面の事前チェック、改善報告書の作成支援、監査当日の立会い。
  • 収益事業の法人税・消費税:法人税は収益事業から生じた所得にのみ課され、消費税も介護サービスなどは非課税ですが、自費サービスや物品販売は課税売上になりえます。「社会福祉法人に法人税はかかる?」「社会福祉法人・介護事業の消費税」で詳しく解説しています。

依頼前に「どこまでを法人内で行い、どこから任せるか」を整理しておくと、見積りの比較もしやすくなります。

「社会福祉法人会計」に関するよくある質問

Q1. 資金収支計算書と事業活動計算書は、どちらを先に見ればよいですか?

A. 資金が足りているか、予算どおりに使われているかを見るなら資金収支計算書、法人の純資産が増えているか(経営として成り立っているか)を見るなら事業活動計算書です。理事会で決算を確認する際は、事業活動計算書の経常増減差額と、資金収支計算書の予算対比の差異欄をセットで見ることをお勧めします。

Q2. 事業活動計算書がプラスなのに、お金が減っているのはなぜですか?

A. 事業活動計算書は純資産の増減を示すもので、お金の動きとは一致しません。借入金の元金返済や固定資産の購入は支払資金を減らしますが費用にはならず、逆に減価償却費は費用ですがお金は出ていきません。ずれの中身は、資金収支計算書の「施設整備等による収支」「その他の活動による収支」で確認できます。

Q3. 小規模な法人でも、3つの計算書類をすべて作る必要がありますか?

A. はい。会計基準は規模にかかわらずすべての社会福祉法人に適用されます(会計基準第1条第3項)。ただし、拠点区分が1つしかない法人などでは、内訳表にあたる様式の作成を省略できる取扱いが運用上の留意事項7で認められています。省略できる様式は所轄庁の指導も踏まえて確認してください。

社会福祉法人の会計・計算書類の整備は、横浜の岩本隆一税理士事務所へ。

岩本隆一税理士事務所では、社会福祉法人の記帳・月次処理から、計算書類の作成支援、指導監査前の会計チェック、収益事業の法人税・消費税の判定と申告まで対応しています。「計算書類の読み方を理事会向けに整理したい」「決算の手順を事務局で引き継げる形にしたい」といった段階からのご相談も歓迎です。

初回相談とお見積りは無料で、顧問契約を前提としないスポットのご依頼もお受けしています。事務所は横浜駅から徒歩11分、全国の法人にはオンラインと資料共有で対応しています。サービス内容と料金の目安は社会福祉法人サポートのページをご覧ください。

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執筆者紹介

岩本隆一税理士

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto

準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です

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