無申告でも税務調査が来ない理由と、来る前に自分から申告するメリット|自主申告で加算税はどう変わる?
更新日:2026年11月7日
この記事の要点
- 調査が「来ていない」ことと、税務署に「知られていない」ことは別です。法定調書・取引先・銀行口座などの情報は国税庁のKSKシステムに蓄積され、調査先の選定に使われています。
- 税務署は無申告を把握しても、すぐには動かないことがあります。決定ができる期間(原則5年)の中で、数年分をまとめて調査する傾向があるためです。
- 調査の事前通知前に自分から期限後申告すれば、無申告加算税は原則5%。調査後なら15〜30%に加え、繰り返しなら10%の加重、仮装・隠蔽があれば重加算税40%になります。
- 領収書や帳簿がなくても、通帳や取引先の記録から申告は進められます。先に動くほど負担の差は大きくなります。
横浜市西区で無申告の期限後申告を扱っている、岩本隆一税理士事務所です。
「もう3年も申告していないけれど、税務署から何も来ない」「来ないなら、放っておいても大丈夫なのでは」。数年分の無申告がある個人事業主や副業の方で、こうした疑問と不安を同時に抱えている方は少なくありません。
結論から言うと、「調査が来ていない」のは「見つかっていない」からとは限りません。税務署が無申告をどう把握しているのか、なぜ調査までに時間差があるのか、来る前に自分から申告すると加算税がどれだけ変わるのかを、国税庁の一次資料をもとに整理します。
1. 「調査が来ない」=「見つかっていない」ではない
税務署が無申告を見つける手がかりは、本人の申告書ではなく、本人以外から集まる情報です。主な入口と、その情報がどう使われるかを見ていきます。
法定調書:取引先が税務署に提出している
会社が給与を払えば「源泉徴収票」を、フリーランスに原稿料・デザイン料・講演料などを払えば「支払調書」を、支払った側が税務署に提出します(原稿料や講演料などは、同じ人への年間支払額が5万円超で提出)。こうした提出義務のある資料を「法定調書」といい、63種類あります(国税庁タックスアンサーNo.7401、No.7431)。あなたが申告していなくても、「誰が、誰に、いくら払ったか」は取引先側から税務署に届いているのです。
取引先の税務調査から判明する(反面調査)
取引先に税務調査が入ると、調査官は帳簿や請求書に載っている外注先・仕入先が申告しているかも確認します。必要があれば取引先に質問や資料の確認を行う反面調査も法律上認められています(国税通則法第74条の2、国税庁「税務調査手続に関するFAQ」問23)。ネットショップやフリマアプリの販売も、仕入先やプラットフォーム側に記録が残ります(「ネットショップ運営者の落とし穴―無申告が把握される瞬間とは」参照)。
銀行口座・プラットフォーム事業者への情報照会
税務調査では、金融機関に預金の入出金を照会できます。令和2年1月からは、調査に必要な情報を事業者等に求める「協力要請」と、一定の要件のもとで報告を義務づける「報告の求め」も国税通則法に明文化されました(第74条の7の2、第74条の12)。記録がプラットフォーム側に残る仕事ほど、把握されやすい構造です。
集まった情報はKSKシステムで一元管理される
これらの記録や資料情報は、国税庁の基幹システム「国税総合管理(KSK)システム」に蓄積されます。KSKシステムは全国の国税局・税務署を結び、蓄積した情報を分析して税務調査対象の選定を支援する仕組みだと、国税庁自身が説明しています(国税庁事務年報 用語の解説)。
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、無申告者に対する所得税の実地調査は4,812件、1件当たりの申告漏れ所得は2,992万円(実地調査全体の平均の約2倍)、1件当たりの追徴税額は524万円でした。把握された事例は「【無申告事例】無申告が把握された実際の事例と対処法」でまとめています。
2. 「来る」までに時間差がある理由
情報があるのに、なぜすぐ調査が来ないのでしょうか。主な理由は3つです。
理由1:情報が出そろうまでに時間がかかる
法定調書の提出期限は、支払いがあった年の翌年1月31日です。そこから名寄せや申告の有無との突合が進むため、ある年の無申告が「情報として見える」のは早くても翌年以降です。取引先の調査や銀行の情報もそのときどきで集まるため、調査先として選ばれるまでに年単位の時間がかかることがあります。
理由2:税務署は数年分をまとめて調査できる
税務署が税額を決定できる期間(更正・決定の期間制限)は、法定申告期限から原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です(国税通則法第70条)。無申告の調査はこの期間内の複数年分をまとめて行われることが多く、「来ない」期間が長いほど、対象の年分と税額は膨らみます。この期間は「時効」と呼ばれることもありますが、5年待てば済むという話ではありません(「無申告に時効はある?」参照)。
理由3:調査先には優先順位がある
税務署の人員は限られており、調査先は申告漏れ額が大きい、または悪質性が高いと見込まれる人から選ばれます。「小規模だから後回しにされている」のかもしれませんが、それは「対象から外れている」ことではありません。国税庁が公表した事例には、転売収入を7年分申告していなかったケースも含まれています(前掲資料 事例2)。
3. 自主申告と調査後の差を計算例で見る
同じ無申告でも、「いつ申告したか」で無申告加算税の割合が大きく変わります。ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。
無申告加算税の割合(令和5年分以降の所得税)
国税庁タックスアンサーNo.2024によると、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する分(令和5年分以降)の割合は次のとおりです。
| 申告したタイミング | 50万円までの部分 | 50万円超〜300万円の部分 | 300万円超の部分 |
|---|---|---|---|
| ①調査の事前通知の前に自主的に期限後申告 | 5% | 5% | 5% |
| ②事前通知の後、調査による決定を予知する前に期限後申告 | 10% | 15% | 25% |
| ③調査を受けた後の期限後申告、または税務署の決定 | 15% | 20% | 30% |
「納付すべき税金」(本税)に、この割合を掛けた金額が無申告加算税です。
繰り返し・帳簿不備による加重(令和6年1月以後)
②③の場合には、次の加重が重なることがあります。
- 前年・前々年分にも無申告加算税(または無申告の重加算税)が課された、または課されるべきと認められるとき:10%加算。数年分まとめて無申告だと、後の年分がこの要件に当たり得ます。
- 過去5年以内に調査を受けて無申告加算税・重加算税を課されたとき:10%加算(③の場合。上の加重とはいずれか一方)。
- 調査で帳簿を提示できなかった、または帳簿の売上記載が本来の2分の1未満のとき:10%加算(3分の2未満なら5%)。
①の自主的な期限後申告については、タックスアンサーNo.2024にこれらの加重の記載はありません(「繰り返し無申告は倍額ペナルティ?」参照)。
仮装・隠蔽があれば重加算税40%
売上の記録を破棄する、他人名義の口座を使うなど「仮装・隠蔽」があったと認定されると、無申告加算税の代わりに重加算税が課されます。無申告の場合は40%、過去5年以内に無申告加算税や重加算税を課されたことがあると50%です(国税庁「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」、「重加算税とは?」参照)。
計算例(仮定)
前提(仮定):個人事業主のAさん。令和6年分の所得税の納付すべき税額(本税)が60万円。
| ケース | 計算 | 無申告加算税 |
|---|---|---|
| ①事前通知前に自主申告 | 60万円×5% | 3万円 |
| ②事前通知後・決定予知前に申告 | 50万円×10%+10万円×15% | 6万5,000円 |
| ③調査後に申告(または決定) | 50万円×15%+10万円×20% | 9万5,000円 |
| ③+前年・前々年も無申告で加重 | 9万5,000円+60万円×10% | 15万5,000円 |
| 仮装・隠蔽で重加算税 | 60万円×40% | 24万円 |
本税60万円に対して、①と③の差は6万5,000円、加重が付けば12万5,000円、重加算税なら21万円の差です。本税が400万円なら(仮定)、①は20万円、③は50万円×15%+250万円×20%+100万円×30%=87万5,000円で、差は67万5,000円に広がります。数年分がたまっていれば、この差は年分の数だけ積み重なります。
延滞税は申告した日を境に割合が変わる
無申告加算税とは別に、本税には延滞税がかかります。期限後申告では、法定納期限の翌日から申告書を提出した日までは年2.8%(令和8年中。令和5〜7年は年2.4%)、提出日から2か月を過ぎるとその後は年9.1%(令和8年中)です(国税庁タックスアンサーNo.9205)。申告と納付はセットで計画してください(試算は「延滞税の計算シミュレーション」)。
なお、法定申告期限から1か月以内の自主的な申告で一定の要件を満たせば無申告加算税はかかりません(「1か月以内なら無申告加算税が免除??」参照)。数年分の無申告ではこの特例は使えませんが、「原則5%」で済ませられる道はまだ残っています。
4. 自主申告の進め方と、資料がない場合の対応
進め方の5ステップ
- 対象の年分を決める:所得税は過去5年分が目安です。売上が1,000万円を超えた年があれば、原則としてその翌々年分から消費税の申告も必要です(インボイス登録期間は売上規模にかかわらず必要)。
- 年分ごとに売上を確定する:通帳の入金、請求書、プラットフォームの売上履歴、支払調書の写しなどから集計します。
- 経費を集める:領収書、カード明細、通帳の引き落としから、事業に関係する支出を拾います。
- 申告書を作り、納税額を把握する:申告後に住民税・国民健康保険料の通知が届くことも見込みます。
- 提出と納付:期限後申告は提出した日が納期限です。一度に納められない場合は、提出前に納付計画を立てます。
複数年分の順番は「複数年分の無申告をまとめて申告するときの順番と注意点」で解説しています。
領収書も帳簿もない場合
「資料がないから申告できない」と止まっている方が多いのですが、申告できないわけではありません。
- 売上側:通帳の入金履歴がもっとも確実な手がかりです。取引先に請求書や支払明細の再発行を頼む、ECサイトやフリマアプリの売上履歴をダウンロードする方法もあります。
- 経費側:領収書がなくても、通帳やカード明細で支払いの事実が確認できれば根拠になります。現金払いで記録が残っていない部分は、無理に積み上げない方が安全です。
- どうしても数字が出ない部分:合理的な前提を置いて見積もる(推計する)ことになります。前提を明らかにして申告しておくことが、後の説明の備えになります。
なお、期限後申告では青色申告特別控除の65万円(55万円)は使えず、承認があっても10万円控除になります(「青色申告特別控除の要件と期限後申告」参照)。それでも、加算税を抑えられる効果の方が多くの場合は大きくなります。
5. 税理士に頼む場合の費用感
数年分の無申告を自分で整理するのは、時間も精神的な負担も大きい作業です。税理士に依頼する場合、費用は一般に、申告する年分の数、各年の売上規模、資料の状態(通帳・請求書がそろっているか、帳簿の作成から必要か)、消費税の申告の有無で決まります。当事務所では年分ごとの明確な基準で料金設定し、ご相談の段階で見積額をお伝えします。具体的な金額は「料金案内」をご確認ください。
費用をかける価値は、申告書の作成だけではありません。何年分を申告すべきか、資料がない部分をどう整理するか、納税資金が足りないときに納税の猶予・換価の猶予(原則1年以内の分割納付。国税庁タックスアンサーNo.9206)をどう使うか。こうした判断を、調査が来る前の落ち着いた状況で進められることにあります。
よくある質問
Q1. 何年分を申告すればよいですか?
A. 税務署が決定できる期間が原則5年(偽りその他不正の行為がある場合は7年)であることから、所得税は過去5年分が目安です。売上規模や経緯で判断が異なるため、ご相談時に確認します。
Q2. 自分から申告したら、かえって税務署に目をつけられませんか?
A. 期限後申告をきっかけに、内容確認の連絡が来る可能性はあります。しかし、事前通知の前に自主的に申告していれば無申告加算税は原則5%です。調査で把握された場合の15〜30%や加重、重加算税と比べれば、負担は明らかに軽くなります。
Q3. 数年分の税金を一度に納められません。それでも申告すべきですか?
A. はい。申告と納付は別の手続きで、申告を先に行うことで無申告加算税の割合を抑えられます。納付は、換価の猶予(納期限から6か月以内に申請)や納税の猶予により、原則1年以内の分割が認められることがあります。申告前に納税額を試算し、納付計画と合わせて進めてください。
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調査の事前通知が届いた後では、「原則5%」の選択肢はなくなります。まだ来ていない今が、いちばん負担の軽いタイミングです。
参考(一次資料)
- 国税庁 タックスアンサー No.2024 確定申告を忘れたとき(無申告加算税の割合・加重措置・不適用要件) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2024.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.9205 延滞税について https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htm
- 国税庁 延滞税の割合 https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.9206 国税を期限内に納付できないとき(猶予制度) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9206.htm
- 国税庁「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」(重加算税40%・50%、平成28年12月) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/kasan.pdf
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月) https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf
- 国税庁 事務年報 用語の解説(国税総合管理(KSK)システム) https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/jimunenpo/74/pdf/04.pdf
- 国税庁 タックスアンサー No.7401 法定調書の種類 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7401.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲等 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7431.htm
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan.htm
- 国税庁 情報照会手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針) https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/1912/pdf/01.pdf
- 国税通則法(第66条・第68条・第70条・第74条の2・第74条の7の2・第74条の12) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
執筆者紹介

岩本隆一税理士事務所
代表税理士・行政書士
岩本 隆一Ryuichi Iwamoto
準大手税理士法人で多くの実務を経験後、横浜市西区で独立。「経営者の孤独と本音に寄り添うパートナー」を信条に、代表自らが直接対応します。IT(クラウド会計・LINE)を活用して業務を進めます。土日祝・夜間の対応は事前予約制です。横浜F・マリノスを愛する生粋の横浜っ子です
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